宮村祐貴さん略歴
・青森県三戸郡田子町出身
・高校卒業後、東京で就職。建設業・飲食店勤務を経験
・2012年に青森へ戻り、就農
・祖父の畑を受け継ぎ、ニンニク、麦、大豆などを栽培
最高級ブランド「福地ホワイト6片種」を無農薬栽培
「ニンニク農家だった祖父の畑と機材を受け継ぎ、1町2反ほどの畑で『福地ホワイト6片種』を栽培しています。
ニンニクの植え付けは9月末から10月上旬頃に始まります。マルチ(農業用ビニール)をトラクターで張った後、一つ一つ手作業で植え付けを行います。
10月中旬頃、植えたニンニクから芽が出てきたら、マルチから芽を引き出す『芽だし作業』を行います。12月から3月の間は雪の下でニンニクが育つのを待ちます。雪解け後は、草刈りと除草。私の場合は除草剤を使わないので、草刈りはすべて手作業です。
その後、『トウ(ニンニクの芽)』摘みの時期を経て、6月下旬から7月上旬が収穫時期になります。時期を逃すと、ニンニクが割れてしまうので、収穫は短期決戦です。種を植えてから収穫まで10ヶ月程度かかるため、畑はほぼ1年間ニンニクしか植えることができません。その点が、他の作物と大きく違う点です」。
固定種にこだわり、毎年採種を実施
「収穫したニンニクから採種も行っていますが、ニンニクは生産効率が悪い作物なんです。他の作物なら、1粒の種から10倍~100倍の量の種を採れますが、ニンニクの場合は1片植えて、翌年収穫できるのは1玉です。1玉は4片~6片ですから、1年かけても4倍~6倍にしかなりません。
収穫したニンニクの2割~4割は、翌年の種として取っておく必要があります。僕は、就農1年目に収穫したニンニクは、すべて翌年の種として使用しました。割に合わないと思うかもしれませんが、私にとっては効率よりも、この固定種を未来へつないで行くことの方が重要だと思っています」。
自然栽培を決意したきっかけ
「ニンニクは約10ヶ月もの間、土の中で育つため、病気に弱い作物だと言われます。そのため、他の作物に比べて農薬を多く散布するのが一般的ですが、私の畑では農薬を一切使用していません。化学肥料も一部を除いてほとんどの畑で使っていません。
就農当初は農薬を使っていましたが、散布作業をするたびに頭痛に悩まされるようになりました。長靴にマスクをして作業しているにも関わらず、これほど人体に悪影響があるのです。『人が食べるのに、悪影響を与えるものを撒いていいのだろうか』と思ったことが、きっかけでした。
自分で調べたり勉強会に足を運んで、農薬を使わずに栽培する情報を集めました。世界で初めて無農薬、無施肥(むせひ)のリンゴの栽培に成功した、木村秋則(きむらあきのり)さんとの出会いもあり、自然栽培に対する考え方を学ぶ機会にも恵まれました。
『農法にこだわるより、作物と向き合い、自分の畑に合ったやり方を見つけよう』と決意。すぐに農薬の使用を止めて無農薬栽培に切り替えました。それ以降は、試行錯誤しながら、畑に合った栽培方法を模索しています」。
大豆と麦のローテーション栽培で、元気なニンニクに
「自然栽培するにあたり試したことが、大豆と麦の栽培です。昔は、麦や大豆を植えて畑を整えた後に目当ての作物を植えていた、という話を聞いたのがきっかけでした。実際に、ニンニクを植える前に大豆と麦を植えてみると、無肥料でもニンニクは元気に育ってくれました。
それ以降、1反〜2反毎に、ニンニク、麦、大豆をローテーションで栽培するようにしています。ニンニクは1度植えると1年間は他の作物を植えられないので、3年ほど先を見据えて、今年は畑に何を植えるべきかを決めています。
ローテーションで植えている麦は、地元の固定種である南部小麦です。小麦を使ったうどんやそうめんが好評だったため、今年はさらに小麦の作付け面積を増やしました。昔は不毛の地と言われた南部地方で、固定種を大切につないでくれた方々の思いを、引き継いでいきたいです」。
食べた人の喜ぶ顔が、自然栽培の原動力になる
「収穫した作物のほとんどは、直接販売しています。一番多く購入しているのは、通販を含む個人の固定客です。就農当初から、家庭でニンニクを切らしたときに、『宮村のニンニクを頼もう』と思い出してリピーターになっていただけるような存在になりたいと考えていました。ブランディングの意味もありますが、一番は作物と一緒に作り手の思いも届けることが、大切だと考えているからです。
作った人の顔が思い浮かべば、食べ物を粗末にはできません。作る側も、消費者の顔を知っていれば、誠実な仕事を心がけるようになります。自然栽培や固定種の採種は手間暇かかりますが、食べる方の喜ぶ顔を見ると、作り続けるための原動力になります。
各家庭に『マイ農家』と呼べるような、お気に入りの農家があるのが理想です。食と農をもっと身近に感じられたら日本の食の未来は、もっと明るくなるでしょう」。