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耕作放棄地で地域おこし「南三陸ワインプロジェクト」

耕作放棄地で地域おこし「南三陸ワインプロジェクト」

東日本大震災をきっかけに、過疎化や少子高齢化が進む宮城県本吉郡南三陸町では、耕作放棄地を利用したワインブドウの栽培と、ワイン醸造を目指す「南三陸ワインプロジェクト」が2016年から進められています。地域おこし協力隊員としてこのプロジェクトを企画している、藤田岳(ふじたがく)さんにお話をうかがいました。

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震災で過疎化・高齢化が進む町で雇用と特産品を作り出す

南三陸ワインプロジェクト

南三陸町は宮城県北東部で、石巻市と気仙沼市のちょうど中間あたりにある、志津川湾に面した海沿いの町です。東日本大震災では、町の58.6%の住宅が全壊し、死者と行方不明者は777人にものぼりました。震災の直前、2011年の人口は約1万7,000人だったのが、2017年のデータ(※1)では1万3,000人ほどと、震災をきっかけに大きく人口減少が進んでいます。

このような背景があり、南三陸町の農業においては、耕作放棄地の増加が顕著で、新しい担い手不足とあわせて、大きな問題となっていました。そこで始まったのが、耕作放棄地を利用したブドウ栽培とワイン作りです。

「南三陸ワインプロジェクト」の発起人で代表を務める藤田岳(ふじたがく)さんは、牧草地で耕作放棄地だった山間部の斜面が、日あたりと水はけがよくブドウ栽培に適していることに着目。約2,000平方メートルを農地に整備し、2016年にブドウの苗木100本を植えることから、このプロジェクトがスタートしました。

地域おこし協力隊として南三陸町へ移住

南三陸ワインプロジェクト

藤田さんの出身は埼玉県ですが、南三陸町とは昔から不思議な縁があったそうです。

「大学は東京海洋大学に進み、『海の教育』を専攻していました。私の研究分野が南三陸町の取り組みと重なっていたことがあり、インターンとして2週間ほど勉強のために訪問したのが始まりです」。

震災が起こり町が大きな被害を受けたときも、南三陸町にボランティアとして出向きました。避難所への物資の配達や、小学校での物資の仕分けといった活動のサポートを行ったそうです。

ボランティア活動を通して南三陸町の知り合いから「この町の仕事を手伝ってほしい」と誘われていました。自然と南三陸町への移住を考えるようになり、2012年に移住。2016年からは地域の活性化などを目的とした国の制度を活用した「地域おこし協力隊」として、南三陸町へ定住することとなりました。

南三陸ワインプロジェクト

地域おこし協力隊員として2016年から耕作放棄地を活用して、南三陸ネギや漢方薬草トウキなどの作物を栽培。地域復興を目指す「南三陸農工房」という農業法人とパートナーシップを組みながら業務を進めています。

「宮城県の秋保ワイナリーという醸造所が、『南三陸農工房で作ったリンゴを使って、シードル作りを行いたい』と、声をかけてくれたのです。そのときに『ブドウの苗100本を寄贈するので、ぜひ南三陸の土地で育ててみませんか』というお話を受けたのです」。

「耕作放棄地を減らし、町を元気にしていきたい」という南三陸農工房の熱い気持ちに、秋保ワイナリーのオーナーが共感。ブドウ栽培という新しい農業が生まれるきっかけになりました。

藤田さんはブドウを育てるのならワインも作ろうと、「南三陸ワインプロジェクト」という名前をつけ、自らが代表となりました。このプロジェクトで南三陸町の地域おこしになるようにと本格始動させることにしたのです。

南三陸町内に埋もれていた資源を有効活用した畑作り

南三陸ワインプロジェクト

ブドウの苗木の下に溝を掘りカキ殻を入れることで、カキ殻の隙間を水が抜ける水路となるようにしました。また除草効果があるため、町でとれるスレートという天然石を粉状にして畑にまいています。町のバイオガス施設から生産される液肥を利用したり、町にある資源を有効活用する取り組みを積極的に行っています。

南三陸ワインプロジェクト

現在栽培しているブドウは全部で4品種。

「最初に、秋保ワイナリーから寄贈してもらったソーヴィニヨン・ブランをはじめ、ヨーロッパ品種など、すべて白ワインです。せっかくなら南三陸の海の幸と楽しめるようにしようと、魚介類に合わせやすい白ワインを作ることにしました」。

植樹したブドウが結実するのは2018年以降のため、現在は秋保ワイナリーの醸造場を借りて、ワインの仕込み方法などを学んでいます。

2018年に収穫するブドウだけではワインを製造するには不十分なため、一部のブドウは別の産地のものを使用する予定です。少しずつ栽培するブドウを増やして、いずれ町内にワイナリーも開設させたい。そして、100%南三陸町産ブドウでワインを作り、販売することを目標にしています。

サポーター会員制度でプロジェクトを運営

南三陸ワインプロジェクト

現在、南三陸ワインプロジェクトはサポーター会員制度を設けて運営しています。ブドウが実りワインが醸造されると、会員のもとに南三陸町の特産品などと一緒にワインが届けられる仕組みです。2017年にはブドウの苗木を約800本植樹しました。苗木の購入費用なども、すべてプロジェクトに賛同してくれるサポーター会員の会費や寄付金でまかなわれています。

また会費や寄付金といった経済的な支援だけではありません。地域の方や遠方からも、ブドウ栽培やワイン作りの手伝いに来てくれる方も多いです。

「南三陸町まで足を伸ばしていただいて、ワインぶどう栽培の農業体験ができます。そして私たちの取り組みについてより深く知っていただけます。たくさんの方々に、ここ南三陸町に訪れていただきたいです」。

ブドウは一年に一度しか実らないため、ワイン作りには時間がかかります。藤田さんが思い描くのは3年後。「南三陸ワインを飲みながら、東京オリンピックを観戦したいです」。どんな味に仕上がるのか、夢は膨らみます。

南三陸ワインプロジェク

※1 南三陸町役場ホームページ

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