酪農家の顔が見える牛乳 「いせはら地ミルク」が誕生
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生産者の試み

酪農家の顔が見える牛乳 「いせはら地ミルク」が誕生

酪農家の顔が見える牛乳 「いせはら地ミルク」が誕生
最終更新日:2019年06月21日

神奈川県の中央部に位置する伊勢原市は、北西に丹沢大山国定公園のシンボル「大山」を有し、東部はなだらかな平野部が広がる自然豊かな土地。くだものの一大産地として知られる同市は、県内一の酪農家数と乳牛頭数を誇る「酪農の里」という顔も持っています。これまでも、それぞれの農家が自慢の牛乳を使ったオリジナルのプリンやヨーグルト、ジェラートなどを企画、生産してきましたが、このほど、タカナシ乳業株式会社と連携し、市内の酪農家が生産した牛乳だけを使用した「いせはら地ミルク」の販売を開始しました。「伊勢原産のおいしい牛乳を届けたい」。その誕生までの秘話をうかがいました。

酪農の里 伊勢原で牛乳プロジェクト発足

神奈川県内で一番酪農が盛んな伊勢原市では、33戸の酪農家が乳牛を育てています。牛の生育具合を競うコンテスト「共進会」でも優秀な成績を収める酪農の盛んな土地です。市畜産会の荒井新吾(あらいしんご)会長は長年、「自分たちが作った牛乳」と胸を張って言える〝伊勢原ならではの牛乳″を作りたいという夢を語っていました。その熱意に賛同する酪農家と市、県、県畜産会が協力して「伊勢原産牛乳プロジェクト」が立ち上がったのは、2014年5月のこと。それから3年半の月日を経た2017年11月、「いせはら地ミルク」が小売店の店頭に並んだ姿を見て、プロジェクト発足時から事務局として並走してきた市経済環境部農業振興課の鎌田卓也(かまたたくや)さんは「感無量だった」と言います。市内酪農業の振興と、地産地消を通じて地域活性化を目指した活動が一つの形にたどり着きました。

自分たちの牛乳を消費者に届けたい

 

牛乳は各酪農牧場から集乳され、加工各社の工場に運ばれます。そこで様々な地域から集められた原乳をブレンドし、殺菌などを経て、各社が工夫を凝らしたパッケージの商品となって出荷されます。荒井さんもそれを当然のこととして出荷する一方で、自分のアイデンティティが消されてしまうような複雑な気持ちを抱いていました。
市内では毎日約25トンの牛乳が搾乳されています。酪農が盛んと言っても、最大760戸あった農家の数も今では33戸に。「10年前と比べてもおよそ20戸が搾乳を止めている」という現状に歯止めをかけたい。伊勢原の酪農の火を消さないためにも、自分たちが誇れる「自分たちの牛乳が必要だった」と言います。荒井さんとその思いに賛同した石田陽一(いしだよういち)さんと、石井敏貴(いしいとしたか)さんの若手酪農家2人が、自治体や関係団体の協力を得て、検討会や牛乳販売店への調査、市民グループへのインタビューなど、マーケティング調査からスタートし、商品コンセプトについて議論を重ねました。

生産者・消費者・メーカー それぞれの接点を探して

市畜産会に所属する酪農家のメンバーの中には、独自に生乳を使ったオリジナルのプリン、ヨーグルト、ジェラートなどを企画・生産する〝6次産業化″に力を入れて成功しているケースもあります。それらは、それぞれの農場の特徴となっています。
「6次化の成功も大切だし、個々の酪農家の努力の結果が仲間に与える影響は大きい」。加工品の成功も荒井さんたちの原動力に。「生乳を原料にしたものが好評を得るということは大きな自信になった。なおさら、牛乳そのもので伊勢原ならではのブランドを構築したい」という思いが強くなりました。
乳牛や牛乳への理解を深めてもらうための、市民を対象にした体験型イベント「伊勢原産の牛乳を飲み隊」の開催や、市民や企業などで構成する「伊勢原産牛乳プロジェクト応援団」の結成。畜産まつりでのPRなどを通して、生産者である自分たちの思いと、消費者の視点、その交錯するポイントを探る2年間。プロジェクトメンバーは、それに並行して牛乳加工場の視察や、メーカーとの折衝を繰り返し、協力してくれる企業の開拓を行いました。

伊勢原ならではの差別化に向けて

生産者である自分たちの願い。消費者の嗜好と、生乳を製品にする工場。消費者と工場に必要とされなければ「伊勢原ブランド」は実現しない。
簡単に差別化がしにくい「牛乳」を、消費者と企業に受け入れてもらうために。
彼らの選んだ〝伊勢原ならではの差別化″は、愛情たっぷりに育てた牛が作る生乳の品質を確保することでした。それまで以上に「より安全安心な牛乳を届けること」を目指す。生産者としての矜持を示す方法の一つとして、農場HACCP(※1)導入の取り組みもスタートさせました。

生乳を「牛乳」という製品にするには、殺菌というプロセスを経る必要があります。生乳の味わいを保つためには、殺菌による加熱温度を高温にしないことが重要です。その最も効果的な対策は「もともと生乳に含まれる細菌を増やさないこと」。搾乳から加工に至るまでのプロセスの中で、細菌は増殖します。それを防ぐためには、毎日、搾乳に使用した器機を徹底的に洗浄するなどの手間をかけ、清潔な環境を保つことが求められます。日々の出荷作業の中で「徹底的に洗浄すること」の実現は容易ではありません。
3人の酪農家の〝細菌を増やさないチャレンジ″が、横浜市に本社があるタカナシ乳業との連携の道を切り開きます。そうした荒井さんたちの熱意に企業が応えるかたちで、「伊勢原ブランド牛乳」の商品化に向けた取り組みが加速します。

牛乳の殺菌方法は「低温殺菌」「高温殺菌」「超高温瞬間殺菌」の大きく三つに分けられます。市販の牛乳のほとんどは120~150°Cの温度を1~3秒間の「超高温瞬間殺菌」で行われますが、「伊勢原ブランド牛乳」は、「高温殺菌」の中でも、短時間で殺菌を行う高温短時間殺菌を採用し、79°C 15秒で殺菌しています(高温短時間殺菌の要件は、72°C以上で15秒以上。もう一方の高温殺菌方法は、75°C以上で15分以上という高温保持殺菌がある)。

どの殺菌方法をとっても栄養価は変わりませんが、風味に影響を与えます。高温短時間殺菌の「伊勢原ブランド牛乳」は、均質化(均質機により高圧で牛乳の乳脂肪分を細かくすること)を極力抑えているので、冷蔵庫などで数日間静置しておくと、上部にクリーム分(乳脂肪分)が浮かぶ濃厚な味わいの牛乳となりました。

(※1)HACCPは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全行程の中で、それらの危害要因を除去または低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法。

農場HACCPは、畜産農場における衛生管理を向上させるため、農場にHACCPの考え方を採り入れ、農場における危害要因(微生物、化学物質、鵜物など)を防止するための管理ポイントを設定し、継続的に監視・記録を行うことにより、農場段階で危害要因をコントロールする手法。

いせはら地ミルクの誕生

商品化の最終段階は、商品名とラベルのデザイン。それまでプロジェクトをバックアップしてきた伊勢原産牛乳プロジェクト応援団や、市を交えて、タカナシ乳業と打ち合わせを重ね、地元の牛乳を強く意識した「伊勢原ブランド牛乳」は「いせはら地ミルク」と名付けられました。パッケージには、牛はもちろん、伊勢原の象徴である大山や、湘南小麦のイラストを配置しています。
こうして、多くの人が携わった3年間のドラマは、「いせはら地ミルク」という地域に特化した牛乳を誕生させました。
プロジェクトのきっかけを作った荒井さんは「商品開発は初めてのことだったので、たいへんなことも多かったのですが、たくさんの人が応援してくださって、いせはら地ミルクができたことが何よりうれしい」と話します。
一般販売に先駆けて、市内の祭り会場で試飲用に配布したところ、飲んだ人からは「濃厚だけれどスッキリしている」「甘い」など好意的な反応がありました。

いせはら地ミルクが示すこれから

2017年11月15日。携わったすべての人の夢の結晶「いせはら地ミルク」が市内の小売店、コンビニエンスストアなどで販売がスタートしました。初日から売れ行きは好調。毎日の生産数に限りがあるため、大量出荷ができないことが「期せずしてプレミアム感を増している」そう。
今後の展開について、荒井さんは「このプロジェクトが、一過性のイベントにしないためにも、売り続けていくことが目標。一人でも多くの人に伊勢原の牛乳はおいしいと知ってほしい」と言います。プロジェクトを通して「新しいことにチャレンジする意義」を実感した荒井さん、石田さん、石井さんの3人の酪農家は、これまで以上に伊勢原の酪農が活性化する姿を追い求めていきます。「いせはら地ミルク」はそのスタート地点です。

「タカナシいせはら地ミルク」
種類別 牛乳(成分無調整)
内容量 180ml
販売価格 200円(税込)
伊勢原市内の小売店、コンビニエンスストア(一部)のほか、神奈川県内を中心に販売

問い合わせ タカナシ乳業お客様相談室 TEL0120・369・059

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