お灸でウシの受胎率UP? 東京都農林総合研究センターのお灸マニュアル

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お灸でウシの受胎率UP? 東京都農林総合研究センターのお灸マニュアル

お灸でウシの受胎率UP? 東京都農林総合研究センターのお灸マニュアル
最終更新日:2020年02月03日

ウシを育てる畜産農家にとって、雌牛が妊娠し子牛を出産することは、経営向上のために必要不可欠なことでしょう。今回、ウシにお灸をすることで受胎率が上がったという研究結果を、公益財団法人 東京都農林水産振興財団農林総合研究センターが導き出し、「ウシのお灸マニュアル」を発表しました。お灸の詳しい施術方法や繁殖率の成果について、同センター畜産技術科の三山紗衣子(みやまさえこ)さんに、詳しくお聞きしました。

ホルモン剤に頼らない繁殖技術

近年、ウシの受胎率の低下を食い止めるため、ホルモン剤を用いた様々な治療法や繁殖技術が盛んに研究されています。東京都内では、以前から繁殖機能改善を目的に、ウシにお灸を実践したり、講習会が開かれていたそうです。しかし、お灸を行っても受胎しない場合もあり、効果が曖昧であると認識されていたために広く普及していませんでした。

「ホルモン剤は獣医師の指示がないと使うことができません。また繰り返し使用することで効果が弱まることも知られています。そこで、ホルモン剤に頼らない繁殖技術に注目したいと考え、改めて家畜へのお灸の効果について調べてみることにしました」と三山さんは語ります。

ウシのお灸マニュアル

お灸を施すことによるウシの動きの観察から性ホルモンの動態まで、様々な調査を繰り返し実施。約3年に及ぶ研究の成果として、「ウシのお灸マニュアル」が発表されました。

ウシのお灸に必要となる基本は、味噌ともぐさだけです。ウシのお尻の近くにある背中のツボに、味噌を直径5センチほどになるように塗り、その上にもぐさをピンポン玉大に丸めてのせます。もぐさは人に使うものと同じ市販のものでかまいません。

「ウシは何のためにお灸をされているかわかりません。熱くてイヤだと感じれば、体をもじもじ動かしたり、後ろを振り向いたりしてもぐさを払い落としてしまいます。そこで、もぐさの下に味噌を塗って落ちないように固定しました。

味噌をぬったことで、皮膚に直接もぐさを置くよりも、じんわりと熱を伝えることができます。初めてお灸するウシには、熱さに驚かないように味噌を厚めに塗っておくと安心です」。

お灸の最中、ウシの頭を固定します

また、三山さんたちがお灸をする際は、尻尾や頭が動かないように固定していました。神経質なウシでなければエサを与えて注意をそらせば、頭を固定しなくても振り向いたりしなくなるそうです。

ウシのツボは、以前から知られている繁殖機能改善に効くとされる9つを選びました。天平、腎門、百会といった、ウシの背中にあるツボです。人工授精の7~10日後の黄体開花期に、3日連続でお灸を行います。もぐさは火をつけてから10分ほどで燃え尽きます。さらに、5分ほど待ってもぐさが熱くないのを確認したら、味噌ごとふき取って終了です。

お灸で血行が促進され繁殖率アップ

お灸が気持ちいいと、よだれを垂らすウシもいるそうです。

お灸を始めて10分ほどで熱がじわじわと体に伝わり始めるので、ウシは次第にそわそわし始めます。しかし熱さに慣れてくると、排便、排尿、反芻(はんすう)などの反応が見られるようになるそうです。

お灸をしない場合は排尿率が2%、排便については7%なのに対して、お灸をした場合は排尿が22%、排便をしたウシは69%にもなりました。

「人の場合、お灸はリラックスしたときに働く副交感神経系を刺激するといわれています。家畜も人と同様に、お灸が副交感神経に作用したのではないかと考えられます」。

※お灸で乳牛の受胎率を上げるマニュアル(東京都農林総合研究センター)調べ
さらに受胎率に関しては、4回以上人工授精を繰り返しても受胎しない牛や空胎日数が300日を超える牛などに効果があると考えられます。一般的に受胎しにくいと言われるウシも、お灸によって高い確率で妊娠を確認できました。

さらに、お灸をした場合としなかった場合を比べると、受精卵が子宮に着床するのを助ける黄体ホルモンの値が高くなる傾向にあることも今回の研究で明らかになりました。

「お灸は血流を良くする働きがあるので、黄体への血流量が増加し、黄体ホルモンの分泌量も増加する可能性が考えられます。妊娠に結びついたことに関しても、お灸の温熱刺激によって血流量が増加し、黄体を刺激⇒黄体ホルモン値が上昇⇒受精卵(胚)が子宮に着床しやすくなる⇒受胎しやすくなった、というメカニズムではないかと考えています」。

ただし、なかなか受胎しないウシについては、健康なウシの場合ほど黄体ホルモン値は上昇しなかったそうです。この点については、さらに研究が必要だと三山さんは話しています。

また、人工授精後のお灸で受胎しなかったけれど次の発情が明瞭になったり、次の人工授精で受胎したという例もあったそうです。黄体への直接の作用以外にも、受胎率を改善させる作用がお灸にはあるのかもしれません。

お灸に適した品種と注意事項

ジャージー種の火傷の跡

今回、センターが研究のためにお灸を行ったのは、ホルスタイン種とジャージー種のみです。ジャージー種についてはお灸の後、火傷の跡が長く残ってしまったため、ジャージー種についてはお灸にはむかない可能性があるようです。

また、気をつけたいのは夏場の暑い時期に行う時です。ウシの体温が高い状態でお灸を行うと、ウシの体に悪影響を及ぼす危険が生じます。センターでは、体温が39.5度以下であると確認できた場合にのみ、お灸を実施していたそうです。また、夏場に扇風機を使っている場合は、風でもぐさが飛ばないように注意が必要です。

「お灸をする時には、何よりも火の管理に注意してください。牛床におがくずを敷いている場合は、燃え移りやすいので要注意です。万が一、もぐさが落ちてしまった場合に備えて必ず火消し用の水を準備してください。

また味噌やもぐさの量など、マニュアルで記載しているものは目安なので、ウシが嫌がる場合は味噌を厚く塗ってもぐさを少なくするなど調整してみてください」。

「ウシのお灸マニュアル」の発表を受けて、味噌やもぐさの量に関する問い合わせや、和牛でも試してみたいといった相談をセンターでは受けているそうです。

今回行われた研究は、乳牛を対象にしたものです。しかし、お灸によって立つことができなかったウシの治療に使われることもあり、お灸による効果は大いに期待できるそうです。ウシの健康や繁殖向上を考える際に、お灸という選択肢を考えてみてもよいかもしれません。

※参照 お灸で乳牛の受胎率を上げるマニュアル(東京都農林総合研究センター)

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