二十四節気と野菜は変化のタイミングが同じ
「神楽坂 八百屋瑞花」は、土づくりや肥料の種類にも着目し、厳選した旬の野菜を販売している八百屋さんです。2009年のオープン以来、都内でこだわりの野菜を扱う八百屋として高い支持を得ています。そんな神楽坂 八百屋瑞花で、店頭での販売とともに好評なのが、ネットショップで配送している「旬のお野菜セット」です。店長の伊藤香織(いとうかおり)さんに、このセットが誕生したきっかけを尋ねました。
「私たちの根本にあるのは、『いちばんおいしい時期の野菜を食べてほしい』という思いです。店頭に並ぶ野菜の品種や産地は、だいたい2週間くらいのペースで変わっていきます。野菜に合う季節の区切り方を考えると、二十四節気(※)とぴったり合っていたので、この考え方に沿って提案するのが理にかなっていると思ったのです。2週間ごとにお届けするのは、お客さんにとっても購入しやすいペースだと思っています」。
※二十四節気とは、立春、春分、夏至など、一年を24等分した暦で、季節の指標にしたもののことです。
「旬」は3つの時期に分けられる
店頭に並ぶ野菜が2週間のスパンで変化するというのは、2週間しか市場に出回らないという意味ではありません。神楽坂 八百屋瑞花では野菜の旬を「走り(出始め)」「盛り(最盛期)」「名残り(終わり)」と3つの時期に分けて考えています。どんな野菜でもこの3つの時期があり、このタイミングが2週間ほどで変化するといいます。
同じ野菜でも3つの時期の変化によって、味わいも香りも徐々に変わっていくと伊藤さんはいいます。
「当店で扱っている、うすい豆という品種の豆は、走りの頃はすごくみずみずしくて味わいもさっぱりとしています。でも、2週間ほど経って盛りの頃になると、甘みがのってきて、こっくりとした味わいへと変化していきます」。
そうした食感や味わいの違いを楽しんでもらうために、あえて2回続けて同じお野菜をお届けすることもあるそうです。「野菜と一緒に、お品書きを同封して、『今、◯◯は出始めの時期なのでこんな食べ 方も試してみるとおいしいですよ』と提案したり、時期に合った食べ方や野菜の特徴を一つ一つ記しています」。
レシピはあえて具体的に書かない
野菜のお品書きは、細かいレシピを書かないように気をつけているそうです。
「レシピというより食べ方の提案にしています。店頭で接客をしていても、大さじ何杯、ゆで時間は何分といった具体的な数字を尋ねられることも少なくありません。ですが、おいしいと思う塩加減や食感は人それぞれですし、その時の野菜の状態によっても変わってきます。レシピに書いてある数字よりも自分の感覚を大切にしてほしいという思いがあります」。
ゆでている最中に野菜が少し沈んできたら、そろそろゆで上がるかなと判断します。また、少しだけ取り出して食感を確かめたり、野菜と触れ合うことで、自分好みのおいしさを見つけてほしいそうです。
「レシピどおりに作ってしまうと、辛さや酸っぱさも、『レシピを作った人好みのおいしい味』になってしまいます。そうではなく、自分好みの味を見つけることも、野菜を食べる楽しみのひとつとしてほしいのです」。
香りや食感など五感を使って調理してほしいという思いの根底には、命あるものをいただく、楽しみながら野菜と付き合ってほしいという思いがあるのです。
旬だけでなく原産地にも注目してほしい
また、旬だけではなく野菜の生育には原産地も強く関わっていると伊藤さんはいいます。
「トマトは夏野菜のイメージが強いですが、うちの店ではずっと『トマトは春』と提案しています。というのも、トマトの原産地は標高が高く乾燥しているアンデス地方なので、湿度が低くて寒暖差のある時期のほうがおいしく育ちます。だから春が旬なのです。
夏は梅雨がなく、湿度の低い北海道の農家さんから仕入れています。原産地の気候に近いところが一番おいしく育つ、というのも私たちの持論のひとつです」。
最後に、春が近づく「啓蟄(けいちつ)」(2018年は3月上旬)のおすすめの野菜を聞きました。
「その時期は、ほろ苦くて香りのある野菜が出始めます。雪解けが終わって、水流で育つ、水分がたっぷりで香りのあるせりやクレソンです。香りの強い野菜は、冬場に溜まった老廃物をデトックスしてくれる働きも期待できます。この時期にそうした野菜を食べるのは体のリズムにもあった食べ方だと思います。
この季節は、国産のグレープフルーツや酸味とほのかな苦味のある河内晩柑など柑橘類も出てくるので、クレソンと合わせてサラダにするのもおすすめです。すっきりとした、春に向けて準備する為に体のスイッチが入るようなサラダになりますよ」。
季節のおいしさが詰まった、五感で感じて学べる野菜セットは、食卓に彩りと豊かさをプラスしてくれそうです。
神楽坂 八百屋瑞花