「知られていないことがたくさんある、誰かが描く前に描いてしまえ!」
雑談をきっかけに連載はスタート
『百姓貴族』は2006年から連載が始まりました。
きっかけは、雑談から。漫画にも登場する、編集者のイシイさんと、お互いが好きな漫画の話をしているうちに、農業エッセイ漫画がないという話に。
「掲載する雑誌が季刊だったので3か月に1回、1話が8ページで短く、当時、他誌で連載していた『鋼の錬金術師』の原稿の息抜きがてら、気楽にやれる。ネタもいっぱいあるし」と荒川さんは当時のことを話します。
そこから初の農業エッセイ・コミックはスタートしました。
現在も隔月刊「ウィングス」(新書館)
で連載が続く、長期連載の大人気シリーズとなっています。
百姓は貴族? アンバランスだから面白い
そもそも、荒川さんの実家はひいおじいさんの代から続く、北海道の専業農家です。荒川さん自身、農業高校を卒業してから7年間、実家の畑作と酪農に携わってきました。
「農業の話をすると、皆さん未知の世界だから食いついてくるんですよ。実家にいた25年分のネタはありますし、周りも農家なので情報が入ってきます。現在進行形で、父親はネタを提供し続けてくれます(笑)」と荒川さん。では、豊富なネタを、普段どのように描いているのでしょうか。
キーワードは「農家の常識は社会の非常識」?
幅広い農業ネタの数々
『百姓貴族』は1話完結です。
高級食材がやすやすと手に入ったり、税金対策で新車を買い替えたりする、まさに貴族エピソードから、ゴールデンウイークもなく、起きているあいだは農作業から離れられない百姓エピソードまで、様々な角度から読者を笑わせてくれます。
「笑いながら楽しめるように。ゲスい農家出身の漫画家が、担当編集に怒られしばかれ描いてます(笑)」。
畑作と酪農の両方をやっていた荒川さんだからこそ、ネタの幅は豊富です。
「ネタはいっぱいあるんですけれど、1本の流れを考えてまとめるのは難しいです。これとこれはくっつけられないというのもあるので」。
台風や雪など、その時々の天候をテーマにネタを絞ることもあるそうです。
笑える方向に面白く
読者を惹きつけるのは、何よりも面白さ。荒川さんは言います。
「面白さの方向性にも、笑える・悲しい・ハッピーなど、いろいろあります。『百姓貴族』は仔牛のと殺とかシビアな話もありますけれど、基本は笑える方向に。笑えない話も笑えるようにしなきゃいけない、というか。たくさんの人に読んでもらいたいから、面白く書かなきゃという気持ちはあります。気楽に読んでもらいたい。文字数が多いときは、流し読みしていいよというくらいに、後を引かない感じは意識しています」。
読者は小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで
コミックの単行本に入れられたアンケートはがきから、10代から80代までの感想が何千通と届いているそうです。特に、「農業体験を教えてください」という自由回答欄には老若男女問わず、びっしりの農業愛が。
「恨み・つらみ・楽しみ、みんな書いてきます。10代の読者が、親にこき使われるとか恨み節で『うちもひどいです』とかもありますよ(笑)」。
最近の農業もウォッチしながら
ビジネスもテクノロジーも変わっていく農業の中で
アンケートには、『百姓貴族』を読んで農業高校や農業系大学に進路を決めたという話もあったと言います。
荒川さん自身の実体験に加え、最近の情報なども取材しながら描かれます。
「最近の高校生、すごいです。今はどこも避けては通れない6次産業化を農業高校もやっていたり。その上で、その利益を地域に還元していたり。母校では、私たちの頃にはなかった受精卵移植の研究をやれるスペースがあったりもします。いろんなことをやれて良いなと思いますね」。
これからの農業
その一方で、「6次産業までやって、かつ自分で販路を築いたりと、これからの農業はものすごい総合力を要求されますよね」とも。
最後に、新しく農業を始める方へのメッセージを伺いました。
「言い方悪いですけれど、古い農業を踏み台にして良いと思うんですよ。やっぱり昔の、苦労した世代だと、子供に継がせたくない、苦労させたくない方もいます。そういう人たちの経験も足場にしながら。もとからあるブランドに乗っかったりして、そこから新しいものを作ってほしいです」。
百姓貴族特設サイト「百姓貴族いんふぉ」
百姓貴族公式情報ツイッターアカウント
@hyakusyo_kizoku
掲載画像はすべて(C)荒川弘/新書館
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