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ピーターラビットの農的世界 人間と動物の自然な関係への回帰現象

ピーターラビットの農的世界 人間と動物の自然な関係への回帰現象

イギリスの田舎、農村地帯、田園地帯は日本人に非常に人気があります。確かに美しいのですが、なぜヨーロッパの他の国でなく、イギリスに人気が集まるのか? そう考えながら家の中にあるカレンダーを見てハッとしました。ピーターラビットです。
ピーターラビットがイギリスの田舎、ひいては欧米の田園風景の原型をつくり、さらに近代社会における農業・農村を好ましいイメージに価値転換したのではないでしょうか。そのストーリーと背景を、作者ビアトリクス・ポターの経歴とともに探ってみましょう。
画像引用:『ピーターラビットのおはなし』ビアトリクス・ポター 作・絵/いしいももこ 訳(福音館書店)

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大人の心にひびく絵とストーリー

ピーターラビット

『愛蔵版 ピーターラビット全おはなし集(改訂版)』
ビアトリクス・ポター 作・絵/いしいももこ・まさきるりこ・なかがわりえこ 訳(福音館書店)

パイにされて食べられてしまうウサギ

子供向けの絵本でありながら、大人にも、というよりむしろ大人に、特に女性に大人気のピーターラビット。その人気の秘密はあまりメルヘンすぎない素朴で上品な絵と、よく読むと割ときわどいストーリーにあります。
なにせピーターのお父さんは、農夫マグレガーさんの畑を荒らして捕まり、パイにされて食べられてしまったというのですから。
そんなおそろしい教訓があるのに、食いしん坊で好奇心の強いピーターは畑に入り込み、やはりマグレガーさんに捕まって危うく同じ目にあいそうになります。

自然な人間と野生動物の関係

しかし作者はこの農夫を残酷な悪者として扱うことなく、それが農村地域における人間と野生動物のごく自然な関係だとして、さらりと描いています。
子供向けでありながら、よけいな甘味料を加えないストーリーテリングの見事さと、デッサン力に富む、リアリズムから少しズラした絵柄とのマッチングから醸し出される世界観。
それがこの物語の舞台である湖水地方、ひいてはイギリスの美しくのどかな農村地帯全体を一種の理想郷的イメージに仕立てています。

明治時代は「ぴたろううさぎ」

日本では、明治時代にはすでに「ぴたろううさぎ」として翻訳出版されて大人気に。また、この物語の舞台であり、作者のビアトリクス・ポターが暮らした湖水地方・ウィンダミア近郊にあるニア・ソーリー村は、古くから英国観光の人気スポットになっていました。
今でこそ世界中から大勢の観光客を集めていますが、2000年頃までは日本人観光客が圧倒的に多く、筆者が訪れた際には「ポターはそんなに日本で人気があるのですか?」と目を丸くする地元の英国人もいました。

産業革命の副産物

ピーターラビット

背景に産業革命

ピーターラビットの物語が生まれた背景を辿ると、18世紀半ばから起こった産業革命に行き当たります。
それまでロンドンなどに住んでいた富裕層が、急速な工業化と人口の増加で環境が悪化した大都市を離れ、地方の農村地帯(カントリーサイド)に移住したり別荘を構えたりするようになりました。
ロンドンからあまり遠くない湖水地方は富裕層が好んで移り住んだ土地で、快適さを求めて農地や農場の整備も行われました。

自然で快適な「カントリー」

その頃から自然の美しさを尊ぶ思想が広まり、「カントリー」という言葉もポジティブなイメージをまとうようになりました。
移住した富裕層は、都市・機械・工場とは対極にある農村・田園・農業に、自然とともに生きる人間らしさ、のどかさ、幸福感といった高い価値を発見したのです。

ビアトリクス・ポターとナショナル・トラスト

ピーターラビット

農業にいそしんだポター

16歳のときからこの土地に親しんでいたビアトリクス・ポターは1905年、ニア・ソーリーのヒルトップ農場を購入。農地管理をし、美しいイギリス式のコテージ庭園を造りました。
この農場を管理することでポターは農業について多くのことを学び、本で稼いだお金で、湖水地方での所有地を拡大。ついには15の農場を購入し、動物たちといるときがいちばん幸せだと言いながら自ら進んで農業にいそしみました。

生涯を通じてナショナル・トラストを支持

それ以前からポターの心に強い影響を与え続けた人物がいました。湖水地方の鉄道建設反対の指導者であり、自然保護を説く地元の牧師ハードウィック・ローンズリーです。のちに彼は司祭となり、仲間とともに1895年、英国の歴史的建造物や景勝地を国民の遺産として保護するボランティア団体「ナショナル・トラスト」を設立。ポターはその活動を生涯を通じて支持しました。
彼女は美しい景観と、この土地ならではの文化の保全の必要性を理解しており、ナショナル・トラストの原則に従って自分の土地を管理、伝統的な建造物や農法を維持したのです。
自分の農地では、湖水地方の草原に特に適している、絶滅の危機に瀕していた在来種のヒツジ、ハードウィックシープを飼育していました。

環境保護活動のシンボルとなった遺産

彼女は1943年にこの世を去りましたが、所有していた15の農場と4,000エーカー以上の土地はすべてナショナル・トラストに遺贈されました。
ピーターラビットの絵本とともに、これらは環境保護活動の一つのシンボルとして世界中に影響を与えています。

農的エッセンスにあふれたライフスタイル

産業革命からおよそ200年を経た今日、一種の回帰現象が起こり、再び農業に大きな関心が寄せられています。
工業化を超えたこれからの時代は、土に触れて植物や動物の世話をするなど、農的エッセンスにあふれたライフスタイルが主流になるのかも知れません。
そんな中で、わたしたちはピーターラビットの物語をいっそう愛し続けていくのでしょう。

参考:ピーターラビット日本公式サイト

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