施設園芸農業とは?
施設園芸農業と聞くと、大規模で難しい印象を受けるかもしれませんが、さまざまな施設を使って園芸作物を育てる農業のことです。施設というと大掛かりな物を連想しますが、ビニールハウスやビニールトンネルなどの小規模な物も含みます。もちろん、ボイラーなどの加温設備や、霧による冷却設備を備えた大規模な施設園芸農業もあります。
近年では倉庫のような大きな建物に栽培施設を設け、LEDによる人工光で野菜を栽培する野菜工場のような施設も稼働しています。また、園芸作物で栽培されるのは主に野菜や果樹、花などです。つまり、ビニールハウスでのいちご栽培も、施設園芸農業になります。
施設園芸農業のメリット・デメリット
施設園芸農業のメリットはいくつかありますが、収穫期をずらして作物の安定供給が可能になることが一番の長所といえるでしょう。南北に長い国土を持つ日本は、同じ作物でも産地によって出荷時期が異なります。温暖な気候を好むトマトを例にとれば、夏から秋は北海道から東北地方の物が出回り、11月頃までは関東圏の物が出回ります。その後は、愛知県や熊本県でハウス栽培された物が春まで流通しています。
作物が安定供給されることで価格も安定するため、消費者にとっても生産者にとってもメリットとなります。また、生育のための環境を人工的に操作することができるため、高品質な作物を育てることや収穫量の向上などにも貢献します。
デメリットとしては、暖房用燃料の高騰や台風・大雪による施設の損壊のリスクがあること。また、先進的で大掛かりな施設には、投資が必要になることが挙げられます。
施設園芸農業で行われている取り組み
施設園芸農業は、その特徴を活かして、さまざまな取り組みが行われています。作物の付加価値を高めて利益を上げたり、慢性的な人材不足を補って農業全体を活性化させることに貢献しています。これまで、現代の施設園芸農業が行ってきた取り組みについて見ていきましょう。
輸送園芸農業
高速道路や鉄道網が十分に発達するまでは、産地から消費地までの距離が近い近郊農業が主流でした。その後、輸送手段の発達とともに現れたのが輸送園芸農業です。
輸送園芸農業とは、保冷車や航空機などの輸送手段を使って、産地から離れた大都市に作物を出荷する形態のことです。輸送にはコストがかかるため、施設園芸農業や促成栽培、抑制栽培などにより出荷時期をずらして、輸送費を上回る利益を捻出する必要があります。
燃料価格が高騰した場合の対策
寒冷期のハウス栽培では、保温のための燃料が大量に必要になるため、燃料価格の変動が作物の原価に大きく影響し、収益に対する不安要素となってしまいます。そのため、省エネ型のヒートポンプや断熱効果の高い被覆素材の使用、バイオマスを利用した加温設備の開発などにより、施設の省エネルギー化が進められています。また、大掛かりで高額な設備も多いことから、補填金を交付するなど行政によるセーフティネットを用意するなど、公の支援も行われています。
技術開発
人工知能やITの技術は、幅広い分野で開発が進められ、今も急速に進化し続けています。施設園芸農業でも、そうした技術を用いた新たな機器やシステムの開発が進んでいます。農作業を無人化したり、作物の生育環境を調整して生産性を高めたりするなど、さまざまな角度から農業に貢献しています。
技術開発が農業の課題を解決する
最新技術を用いた設備や機器は、今後の施設園芸農業の発展には欠かせない物です。特許庁の調査によると、施設園芸に関する特許の出願件数は、2008年頃から急速に増加し、すでに年間2000件を突破しています。情報通信技術や人工知能、素材、ロボット、温度や湿度の測定と制御管理、植物の育成に欠かせない人工光を生み出すLED照明など、活用されるテクノロジーは実に幅広く、それぞれの分野での強みを持つ企業が、次世代の農業を目指して開発を続けています。技術革新の例を詳しく紹介しましょう。
トマト収穫ロボット
特許出願数では抜群の実績を持つパナソニックが開発したトマト収穫ロボットは、赤く熟したトマトだけを選別し、トマトに傷をつけずに収穫することができます。一回の運転で10時間稼働できるため、夜間の収穫作業を行い、人手不足を補いながら収穫量を上げる効果が期待されています。
微霧冷房加湿システム
ハウス栽培では、必要以上の室温上昇を避けるため、細霧噴霧が行われてきました。しかし、霧による湿度の上昇や花や葉が濡れることで病気を誘発することもあります。産業用スプレーノズルを研究する企業の株式会社いけうちでは、作物にふれてもすぐに蒸発してしまうほどの微細な霧でハウスを冷却することができる微霧冷房加湿システム「CoolBIM®(クールビム)」の開発に成功しました。
光合成が見える画像診断装置
日中は光に混ざって見ることができないクロロフィル蛍光ですが、葉に青色LEDをあてて、その反射光を分析することで、日中でも光合成機能を計測することが可能です。「植物生育診断装置」は愛媛大学植物工場研究センターと井関農機の共同研究・開発により誕生した製品です。人の目には見えない光合成機能を診断し、分析した結果を基に設定変更や生育環境を調整して、作物の生産性をより高めることができます。
企業が切り開く新たな農業の姿
近年の施設園芸農業は、各企業の最新技術が進んで着々と進化を続けています。
すでに実用化された物、発展途上にある物、さらなる研究開発が待たれる物など状況はさまざまですが、これらの技術が農業の抱える課題を解決してくれる日も、そう遠くはないはずです。