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生産者の試み

コストを抑える不耕起自然栽培農業 その先に目指すもの

コストを抑える不耕起自然栽培農業 その先に目指すもの

2018年06月02日

徳島県阿波市で、土を耕さず化学肥料や農薬も使用しない「不耕起自然栽培」に取り組む阿波ツクヨミファーム。自然農法に取り組む背景には、「農産物の価格を無料にする」という、これからの社会の変化を見据えた壮大なビジョンがありました。なぜ、「稼げる農業」ではなく、生産コストも販売価格も下げる道を模索しているのか。理想の社会を実現するために、消費者は何を考えればいいのか。代表の芝橋宏治(しばはし・ひろじ)さんにお話を伺いました。

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自然の力を引き出す不耕起自然栽培

イタリアのナス、ロッサビアンコ

──阿波ツクヨミファームの自然農法のこだわりについて教えてください。

私たちは、無農薬・無化学肥料・不耕起栽培で野菜づくりをしています。不耕起栽培とは、人間が土を耕すのではなく、植物の根や土の中の微生物たちの働きで土づくりを行う栽培方法です。

農薬を使うことが悪だとは思いませんが、口に入れることを考えると、気持ちのいいものではありません。安全と言われる農薬でも、数世代にわたり体内に蓄積され続けても影響がないかどうかは未知数です。これらは10年も20年も前から言われ続けていることなので、もうそろそろ安心・安全は当たり前で、無農薬で生産できることが普通になってもいいんじゃないかと思います。

無農薬で作物を育てるためには、畑の生態系を整えて天敵となる害虫の発生を抑えたり、作物自体も強くて虫に負けないようにする必要があります。作物を健全にするために、化学肥料は利用せず、主な堆肥の原料には、日本三大暴れ川の一つに数えられる吉野川の堤防に生えている雑草を使っています。実や葉を必要以上に肥大させず、じっくりと成長させることで野菜が強く育ちます。

また、一つの畑に多品種の作物を隙間なく植えることで、特定の害虫が発生しづらい環境を実現しています。例えば、ある作物を食べる害虫が発生しても、さまざまな植物があることで、その害虫の天敵であるクモやハチ、テントウムシなどを畑に呼び込むことができます。生態系を整えることで、作物への被害を防ぎます。

多様な作物を植えることは、害虫対策だけでなく、地面に直射日光を当てないという面でも有効です。私の経験上、畑の土を豊かにしてくれる微生物は日陰と適度な水分を好むため、葉が生い茂って土に直射日光が当たらない状態にする、つまり裸地を作らないことがポイントではないかと思います。今は、パプリカやイタリアナスのロッサビアンコなど、珍しい野菜も含めて年間約100品目を栽培しています。

もちろん、現状は慣行栽培のような収穫量にできているわけではなく、虫害や病気を完全に防げているわけではありません。ただ、いろいろ作っていれば、さまざまな問題によってある作物がダメになっても、他の作物でカバーできます。全体的に見れば、安定した生産を保つことができています。

コストゼロの農業を目指して

空芯菜と真黒茄子

──自然栽培は確立するまでに時間がかかると聞きますが、なぜ今の栽培方法にこだわって続けてきたのでしょうか。

自然農法を広げることで、農業のコストが限りなくゼロに近づく方が、農業が持続可能になると考えているからです。

よく、「稼げる農業を実現しましょう」という話を聞きますが、個人的には違和感があります。農家が儲かるということは、その分消費者の負担が大きくなるということです。そうなれば品質や生産性は向上するかもしれませんが、長年言われている「持続可能な農業」が実現するとは思えません。個別の農家が稼げるようになっても、農業全体の問題は解決しないのではないかと考えています。

むしろ、農作物の価格は、今後下がるのが自然だと思います。経済学では、技術の発達に伴い物価は少しずつ下がり、限りなくゼロに近づくという説があります。それは、農作物でも同じだと思います。そもそも、日本のGDPの中で農業の占める割合は1%程度で、経済活動全体で見た時に農業のインパクトはわずかです。そうであれば、その小さな市場での効率化をはかるよりも、いっそ農業のコストをゼロにして、誰でも無料で食べ物を得られる社会を実現して、農業に割いていた力を別のことに向けたほうが、経済全体も成長すると思います。

そう考えれば、農業にかかるコストを減らしていくことは、自然の流れです。慣行栽培は、農薬や肥料などの原料費が相当かかっていますし、機械設備の購入や人件費も莫大です。そのコストを下げるためには、不耕起自然栽培で安定生産する仕組みが必要です。

今の栽培方法が軌道に乗ってからは、原料費はほとんどかかっていません。種は外部から購入することもありますが、畑で獲れた種を使うことも可能です。他のコストがなくなっても、最後まで残るのが人件費ですが、農業研修プログラムを作り、研修生を受け入れることで極力減らすようにしています。作業に応じて、獲れた作物や宿泊場所を提供することで、お金ではない経済の循環を作れます。

不耕起栽培なので、作業をする時間を短くすることも可能です。この形が広がり、人間が食べ物を作る時間から解放されたら、誰もがやりたいことに挑戦し続けることができる社会が実現できると考えています。

農業の変化を消費者にも理解してもらう

有機

──理想の社会実現のため、今後はどのような展開を考えていますか。

小規模ではありますが、阿波ツクヨミファームでは、理想の循環、新しい経済を実現できています。このやり方を実践する人を増やすことで、農産物がゼロ円の社会に近づけると思います。一時期中止していた研修生の受け入れも再開するので、色々な人に訪れてもらい、新しい農業と経済を体験してもらえたらと思います。

また、消費者の方に、農業の裏側を知ってもらうことも大切だと思います。農業体験をすれば、何が手間で野菜の値段が上がっているのかよくわかります。それに気づいた消費者が、例えば、野菜についた土を落とす作業などを自分でやるようになれば、作物の値段は下がります。農業に関わる人の裾野を広げていくことも、コストを下げるために重要になるのではないかと思います。

 
阿波ツクヨミファーム

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