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ダンスインストラクターから有機農家へ 一文無しでも農業を続ける覚悟

ダンスインストラクターから有機農家へ 一文無しでも農業を続ける覚悟

昼は大工、夜はダンスインストラクターをしていた20代の頃、父親の運営していた農場を継ぐことになった、阿波ツクヨミファームの芝橋宏治(しばはし・ひろじ)さん。幼い頃から畑仕事を手伝っていたものの、農業経営に関わり、既存の農業には課題があると気づきます。なぜ自然農法を目指そうと思ったのか。慣行栽培を行っていた畑で不耕起自然栽培に移行するには、どのような苦労があったのか。芝橋さんが感じる農業のやりがいとは。お話をお聞きしました。

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23歳で家業を継ぐ

有機

──農業に関わるようになったきっかけを教えてください。

父が農業をやっていたので、小さい頃から畑に出て手伝いをしていました。ただ、父は建設会社もやっていたので、私は農業ではなく建設業を継ぐ予定でした。農作業を手伝いつつも、積極的に関わりたいとは思っていませんでした。

高校を中退してからは、昼は大工の仕事をやりつつ、夜はダンスのインストラクターをしていました。ダンス一本でやってみたい気持ちもありました。ただ、自分の感性や経験値では難しくて。ダンスは好きでしたが、あくまで昼の仕事と掛け持ちでした。

──そこから、なぜ農業一本に絞ったのでしょうか。

23歳の時に父が亡くなり、農業しか選択肢がなくなってしまったんです。建設業を継ぐにはスキルが不十分で、食べていくためには農業をするしかありませんでした。父は農業の方が好きだったようで、生前から少しずつ規模を拡大していましたし、生前から父の理想とする「稼げる農業」についても聞かされていたので、なんとかなると思っていました。

コストゼロを目指し、自然栽培を選ぶ

ビーツ

──実家の農場を継いだ時から自然農法に取り組んでいたのでしょうか。

いえ、父の農園では慣行栽培をしていたので、農薬も化学肥料も使っていました。ただ、始めてすぐに、そのやり方では継続性がないと感じてしまいました。初めて農業経営に関わるようになり、作った野菜を農協や市場に出荷してみて、その方法では生産性の高い大規模農家には勝てないと感じたのです。

父は稼げる農業を実現するために、生産性を上げて海外に輸出をすればよいと言っていましたが、そのためには規模の拡大が必要。私たちのような中小規模の農家では、難しい。それに、技術が進歩して農業の効率化が進む将来を考えると、「稼ぐこと」よりも「コストを下げて費用を限りなくゼロにすること」の方が重要だと考えました。それが、持続可能な農業を実現するのではないかと。

原料費を下げるためには、農薬や化学肥料を使わなければいい。畑を耕さない不耕起栽培ならトラクターなどなくてもいい。そんな考えから、自然農法に取り組むことにしました。環境や食の安全の観点で自然農法をスタートする人が多い中、私の場合はコストを下げることがきっかけなので、少し変わっているかもしれません。細かな生産方法を変えて効率化しても農業全体は変わりませんし、未来の農業を考えれば、社会全体の中での農業の位置づけを変え、「農作物は無料で得られるモノ」に変えないといけません。だから、既存の農業とはベクトルも市場も違う農業を目指しました。

──自然農法へ移行する上で、難しかった点はありますか。また、それをどのように乗り越えたのでしょうか。

想像通り、農薬をやめると作物が虫に食べられてしまい、畑はほとんど全滅状態でした。周りの農家に話を聞きながら、自分の環境にはどのような育て方が適しているのか見つけるため、試行錯誤を繰り返しました。ただ、農業では新しい取り組みをしても結果が分かるのが1年後です。そこで、畑を細かく区切り、区画ごとに育て方や環境を変えて、仮説検証を回し続けました。

しばらくの間は、農業の収入はほぼゼロでした。虫害でだめになってしまったり、収穫量が少なくて商売になりませんでした。その間は、ダンスのインストラクターで食いつなぎました。ダンスをやっていなかったら、自然農法を続けられなかったかもしれません。結果が出なくて苦しい時期もありましたが、ダンスで知り合った人が応援してくれたり、自分なりの手応えはあったので、やめようとは思いませんでした。

施肥と虫害の関係を理解したり、化学農薬から自然農薬に切り替えたりしていくうちに、徐々に収穫量は上がりました。最終的に、自然農薬も不要になり、生態系を整えるだけで害虫の防除ができるようになりました。5年目くらいにようやく生産が安定してきました。

日本の農業全体がより良くなるために

エンドウの花

──最後に、芝橋さんが農業を通して感じるやりがいを教えてください。

純粋に、畑に出ることや作物を育てることが好きになっていきました。野菜が日々成長して変化していくことや、手を加えたことに対していろんな反応を見せてくれるのが面白いんです。育て方一つで、大きさや形が明確に変わり、やり方一つで生態系も変わります。まるで自然と話をしているようです。夏の朝の作業は気持ち良く、間違いなく癒やしです。

農業の学校に通ったわけではないので、日々の出来事一つ一つを発見するのが楽しいんだと思います。毎日がイベントですね。

あとは、自分の取り組みを通して、社会の役に立ちたいです。幼いころから父に「社会が個性や自由を求めれば求めるほど、国のためお家(いえ)のためと考えろ。江戸時代の人かと笑われて一人前。」と教えられてきた影響もあり、日本の農業全体に貢献したいと思っています。自然農法で生産コストを下げて、将来は農作物が無料になる世界を実現し、誰も諦める必要の無い社会、誰もが挑戦し続けられる社会を作りたいです。

自然農法を確立するのは、確かに大変なことも多いのですが、地域の農家同士が協力すれば、もっと簡単に実現できるような気もしています。資材コストを下げたり、一緒に販路を拡大したりできますから。なにより、技術や販路が追いつかなくても、お互いの人手でカバーできることが多いと思います。地域の農家同士が協力して、チームで良いものを作る仕組みを広げていけたらいいですね。

阿波ツクヨミファーム

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