窒素肥料とはどんな肥料なのか?
窒素とは、空気中に存在する元素の一つで、空気の約80パーセントを占めています。無味無臭で色もないため、私たちの目や耳では確認することができませんが、DNAやたんぱく質の元となるアミノ酸の原料になるなど、私たちが生きていく上で欠かせないものです。
また、光合成に欠かせない葉緑素(クロロフィル)も窒素によって作られるため、窒素は植物にとっても重要な存在です。
ところが、これほど重要なものでありながら、植物は窒素をそのまま吸収することはできません。土壌に含まれる窒素を微生物が分解することで無機化され、植物が吸収できる形になります。
こうした原理を利用し、土壌や鉱石を原料とした窒素肥料が登場しました。そして、空気中の窒素ガスと水素を反応させることにより、合成アンモニアを作り出して窒素肥料を生産する方法が開発され、広く利用されるようになったのです。
窒素は植物の生育初期に欠かせないもの
もしも窒素がなくなってしまったら、植物を育てることができません。また、極端に不足すると、さまざまなトラブルの原因にもなります。窒素はたんぱく質の元となる元素のため、不足すると葉や茎の成長が鈍くなります。
葉の大きさも小ぶりになったり色が薄くなったり、茎の成長が悪くなって伸び悩んでしまうこともあります。
こうしたことから、窒素肥料は「葉肥(はごえ)」とも呼ばれ、生育の初期に効果的とされています。土のあいだから顔を出した小さな茎がぐんぐんと育ち、元気に葉を広げていってくれるかどうかは、土壌にどれほどの窒素が含まれているかによって左右されるのです。
しかしながら、窒素肥料を与えすぎるのは逆効果です。窒素が過剰になると葉に栄養が行きすぎてしまい、葉ばかりが大きく育ち、花のつきが悪くなったりします。さらには、花が咲かずに実もならず、害虫の被害にあいやすくなるなどのトラブルにつながることもあります。
窒素肥料にはどんな種類がある?
窒素肥料の多くはアンモニアが使われ、その中でもいくつかの種類があります。それぞれに効果があるため、栽培環境によって使い分けるのがおすすめです。
硫安
硫安(りゅうあん)は、硫酸アンモニウムの略で、窒素のみを含む単肥です。比較的安価で、施肥すると約1カ月は効果が持続するため初心者にも向いています。水に溶けやすいため土壌へのなじみが良く、作物への吸収率も良いことから、窒素補給やタンパク合成に使われる肥料です。ただし、そうした特徴から、気温の高い時期や雨が多い時期は有効期間が短くなる傾向があります。
また、成分が一つの単肥のため、元肥・追肥の用途に合わせて、リン酸肥料やカリ肥料と併せて使用する必要があります。
塩安
塩安(えんあん)は、塩化アンモニウムの略で、アンモニア態窒素を25%含む複合肥料です。水に溶けやすく吸収されやすい性質を持ち、吸収された後には副成分の塩素が残るため、繊維作物の生育に欠かせません。硫化水素の発生が少ないため根腐れを防ぐ効果も有り、おいしいお米を作るための効果が期待できます。
硝安
硝安(しょうあん)は、硝酸アンモニウムの略で、アンモニア態窒素と硝酸態窒素を同量ずつ含みます。水に溶けやすく即効性があるため、土壌を酸性化しないという特徴があります。ただし、吸湿性が高いため、濡れた葉に付着すると悪影響を及ぼすことも。また、起爆性があるため、油と混ぜないようにするなど取扱いには注意が必要です。
尿素
尿素は、窒素の含有量が40パーセント以上と高く、硫安と同じ単肥です。即効性があるため、すぐに効果を出したい時に役立ちます。また、水に溶かして液肥として使うこともできるので、葉面散布にも向いています。ただし、窒素含有量が高いため、過剰施肥には注意する必要があるでしょう。
石灰窒素
石灰窒素は、カルシウムと窒素を含み、まいた当初は病害虫や雑草を防ぐため農薬としての効果も有ります。農薬成分が土壌で分解されると、主にアンモニア態窒素となり、肥料としての効果を表します。農家では古くから使われてきた物ですが、吸入や肌の付着による影響があるため、散布時には防護マスクやメガネなどを装着するなど、十分な注意が必要です。
窒素肥料の使いすぎは禁物
作物への影響
野菜を育てる際に重宝されるのが窒素肥料です。植物の成長やコンディションに大きく影響を与え、窒素、カリウム、リン酸は肥料の3要素とも言われています。
ただ、窒素肥料は使えば使うほど良い訳ではなく、使いすぎには注意が必要です。特に気を付けなければいけないことは作物への影響で、植物が過剰に肥料を摂取すると、植物が弱り病気や害虫の被害にあいやすくなります。
よくあるのが徒長で、野菜の葉が大きくなりすぎたり、茎や枝が伸びすぎたりします。また、植物によっては徒長すると、自立が出来なくなり、実付きも悪くなって収穫が減ってしまうこともあります。
窒素肥料は植物の成長には欠かせませんが、だからといってあげすぎも良くないわけです。
環境への影響
窒素肥料は植物だけではなく環境への影響もあります。マクロ視点では地球温暖化や大気汚染があげられます。原因は「亜酸化窒素」で、窒素肥料を撒いた土壌が汚染され、そこから発生する亜酸化窒素ガスが地球のオゾン層を破壊すると言われています。
オゾン層が破壊されると、それは地球の温暖化に繋がるのです。地球の温暖化問題ではよく二酸化炭素がとりあげられますが、実は亜酸化窒素ガスはその二酸化炭素の300倍程度の温室効果があるとされています。
その他にも、身近な所に窒素肥料による影響があり、過剰に使用したことが原因で、地下水の硝酸イオンが増えて飲料水に適さなくなることもあります。更に、地下水が硝酸イオンに汚染されると、それは生態系へも影響することがあります。
窒素肥料の上手な使い方は?
施肥基準を守る
窒素肥料を上手に使うためには、まず適正な量を与えることが大切です。窒素肥料の施肥量は農林水産省が出している施肥基準が参考になります。野菜により必要量は違い、更に発育状況や天候状況など様々な要素で適切な施肥量は変わることもありますが、まずは一般的な施肥基準量を守り適量を与えましょう。ちなみに、都道府県によって施肥基準は異なります。
肥料選び
そして、適切な量を与える他に大切なこととして、使用する肥料選びや施肥のタイミングがあります。同じ窒素肥料でも、原料が違うこともあれば、販売しているメーカーによって成分も若干違っていたりします。どのような肥料が育てている野菜にマッチするのか色々と研究してみるのも良いでしょう。
施肥のタイミング
タイミングについては、野菜の種類に合わせた施肥が重要です。例えば、キュウリやトマトなどの農作物は、1回の肥料の量を少なくし、回数を増やして肥料を切れさせないようにすると良いとされています。更に、農家ではトマトの状態をみて追肥をするかしないかの判断をすることもあり経験も必要です。
窒素を含む有機質肥料は?
油粕(油かす)
油粕(油かす)は、日本では中世の頃から使用されていた有機質肥料の1つです。日本の場合は、菜種を原料にしたものが多く、その他の原料としては茶実、大豆、胡麻などがあります。
油かすに含まれる栄養素の中に窒素があり、菜種油粕の含有率は4%から7%程度です。その他、リン酸やカリも含有しています。肥料としての効果は緩やかで、油粕にも発酵済みと未発酵の2タイプがあります。発酵済みのものは臭いが少なめで、油粕の中でも即効性に優れているのが特徴です。未発酵のものは地中で発酵が進むため徐々に効果を発揮してくれます。
肥料の他に家畜の飼料としても使われています。
魚粉(魚粕)
ラーメンのトッピングなどに魚粉は使われますが、肥料としても有効で、世界各国で活用されています。製造方法は魚を乾燥させ、その後に粉砕処理を施して魚粉にします。
海外ではフィッシュミールと呼ばれることもあり、ペルーやチリなどの魚の多く取れる地域で生産が活発です。日本でも海外から輸入された魚粉が肥料として利用されています。また、日本の場合は駆除されたブラックバスなどの外来魚を魚粉に変えて消費する取り組みもあります。
魚粉の効果については、土壌の水はけを改善したり、そこに含まれているアミノ酸が野菜の品質向上をしたりとメリットが多いです。
ぼかし肥料(発酵肥料)
微生物の力により、有機質肥料を発酵させたものをぼかし肥料と言います。発酵させる原料は油かすや魚粉の他に、鶏糞や米ぬかなども使われます。特徴は、即効性と緩効性があり、土壌の改善効果があることです。製造方法については米ぬかであれば、一緒に米麹を発酵促進剤としてミックスし、その後に水を入れて微生物の発酵と分解を行って作ります。
この加水をすることから、ぼかし肥料の「ぼかし」が来ているという説もあります。既に発酵済みで、即効性のあるぼかし肥料を利用することによって、施肥後にすぐに種まきができるようになります。
窒素肥料は自分で作れる?
窒素肥料は自作することも可能です。身近にある窒素を含む有機質を用い、ぼかし肥料として作られる方もいます。作り方としては、身近に手に入る原料として油粕の他に、コーヒーかすを使ったぼかし肥料もあります。
原料により作り方は違いますが、コーヒーかすを利用する場合は、合わせて腐葉土や米ぬかがあれば作れます。まずバケツなどの入れ物に材料を入れて混ぜ合わせ、定期的にかき混ぜて発酵を促進させれば、概ね1ヶ月から3ヶ月程度で完成です。
作る際は、日光に当てないようにするなど注意点もありますが、自分でも作れるので、オリジナルの肥料を作ってみたい方は挑戦してみましょう。また、自分で作る場合はカビや虫に注意です。夏場はウジが湧きやすくなりますので、初めての方は冬場に作るとウジの発生を押さえられます。
ただ、夏場は発酵が進みやすいので短期間でぼかし肥料を作れるというメリットがあります。
土壌と作物に合わせた肥料の選択が重要
窒素肥料といっても、主な種類だけでも多くの種類がありますので、どれを使えば良いのか迷うことも有るでしょう。肝心なのは、土壌の状態や作物に合わせた肥料を選択し、施肥するタイミングを見極めることです。
過剰施肥になったり栄養不足になったりしないように、窒素肥料の施肥量にも気を配りましょう。農業は気候などによって土の状態も左右されがちで、なかなか計画どおりにはいかないものです。ですが、日々の状況をきちんと捉えて対応していくことが大切になります。