カレーと野菜、どっちが主役?
「野菜ってこんなに美味しいものだったんだ、って僕もこのカレーで気が付いたんですよね」と、店長の小川原久展(おがわら・ひさのぶ)さんが運んできてくれたトレーの上を見てびっくり。そこには、野菜カレーというよりは、「野菜のカレー添え」と表現するのが相応しい、ボリュームたっぷりの素揚げ野菜とカレーライスがありました。
看板メニューのチキンカレー「かん太カレー」や「キーマカレー」(各1,200円)を頼むと、その時一番おいしい旬の鎌倉野菜が、たっぷりと竹ザルにのせられてきます。この日(5月下旬)のラインナップは、夏が近付き穫れ始めたズッキーニや甘いタマネギに大根、ニンジンなど10種類でした。「多種多品目で、彩り鮮やか」という鎌倉野菜の特長通り、ダイコンやカブはそれぞれ2種類ずつという豪華さ。
通常、野菜は中温(170~180℃)で揚げるとよいとされますが、「生でも食べられる新鮮な野菜なので、元々の旨味を壊さないように」(小川原さん)と、油を160℃の低温に熱し、フライヤーで素揚げします。適度に熱を通した絶妙な食感と、振りかけられたスパイスのほのかな辛みが、鎌倉野菜の甘みを更に際立たせます。
カレーは、鎌倉市関谷の直売所「鎌倉野菜市場 かん太村」で作ったものを提供しています。味は、コクと辛みの深い本格派。「インド帰りの人に、本場で食べた味と一緒と言われました」とはにかむのは、「かん太村」の料理長・川上雅一(かわかみ・まさかず)さん。
クミンやシナモンなど12種類のスパイスを使い、「鎌倉野菜の甘みをさらに引き立てるために、辛めに仕上げています」と川上さん。もう一つの美味しさの秘密は、しっかりと炒めたタマネギ。大玉50個を刻み、大きな鍋で8時間も炒めるのだそうです。「かん太くん」、「かん太村」ともに週末にはカレー100食近くが売れ、品切れになることも少なくないのだとか。川上さんは、「野菜で季節を感じて欲しい。野菜もカレーも、どっちも主役です」と、胸を張ります。
※「かん太村」でも、旬の野菜7~8種をのせたキーマカレー(税込550円)やかん太カレー(税込600円)をはじめ、野菜の天丼や田舎汁など野菜の素材の旨味を活かしたメニューを楽しむことができます。
鎌倉野菜を通して「コミュニティづくり」を
「かん太村」や「かん太くん」を運営するのは、鎌倉初の農地所有適格法人(旧:農業生産法人)、株式会社鎌倉リーフ。代表の田村さんは、「鎌倉野菜と農業に親しんでもらうために、かん太村に名物を作ろうと生み出したのがこのカレー。色味の良さを視覚に訴えて、野菜の魅力をアピールしようとしたら、味も美味しいとお客さんに喜んでもらえた」と話します。
かん太村で販売する野菜は、すぐ近くの畑で田村さんが丹精を込めて育てたもの。露地栽培が中心で、太陽の下でぐんぐんと育った野菜が小屋の中に所狭しと並んでいます。鎌倉野菜の特徴である多品種少量生産ゆえ、様々な色の畝を持つ鎌倉の農地は「七色畑」と呼ばれてきました。田村さんも、色とりどりの野菜を年間100種類近く生産します。
生野菜だけでなく、ピクルスや野菜塩などの加工・販売や、野菜を魚に見立てた釣りゲームや野菜のつかみ取りなどのイベントも定期的に開催しています。「皆にとっての集会所になってほしい」(田村さん)という願い通り、子どもたちが自然と集まる珍しい直売所です。
カメラマンとして活躍していた田村さんが農家になったのは、30代後半の頃。どことなくスノッブな周囲の人間関係に疑問を感じていた頃、鎌倉市農協連即売所(レンバイ)の組合に加盟する農家さんの手伝いをきっかけにして、農業の面白さにのめり込みました。「農家さんの手がごつごつしていて迫力があって。僕なんか指が真っ白で細くて、女の子みたいって笑われていましたよ」と、真っ黒に日焼けした顔で笑います。
田村さんは、「野菜作りは本当に楽しいですよ」と目を輝かせて続けます。「芽が出てきてくれたときなんて、かわいいものです。よく出てきてくれたなぁと、涙が出てきそうになることも」。「農業は大変だけど、本当にやりがいがある仕事だし地域に必要な存在。ただ野菜を売るだけじゃなくて、農業の魅力を伝えたい」と、語ります。
田村さんが目指すかん太村の姿は、「鎌倉野菜を通して人をつなぐコミュニティ」だといいます。「『安くていいもの』は、スーパーで簡単に手に入れることができます。珍しくてお客さんの印象に残る野菜を届けたり、祭りやイベントを開いたり、かつての農村社会のように、農業を中心に地域が元気になるような場づくりをしたい」と、田村さん。
野菜を作ることだけが農家の仕事じゃない。様々なツールを通して、農業の魅力を発信する鎌倉の人々から、そんな強い意志を感じました。
<新店情報>
2018年5月、JR大船駅から近い繁華街に、かん太村直送の野菜料理とスパイスを利かせたテックス・メックス料理(タコスなどのメキシコ風アメリカ料理)のレストラン「ピカンテ」がオープンしました。鎌倉リーフとタッグを組んでお店を運営する、株式会社GMA代表の細島洋一郎(ほそじま・よういちろう)さんは、「鎌倉野菜や、地元の専門店に特別にミックスしてもらったスパイスなど、鎌倉らしい食材をふんだんに使っています。地元に密着しつつ、鎌倉野菜の魅力発信基地になれたら」と意気込みます。
次の週末は観光地巡りと合わせて、鎌倉野菜の魅力を味わいに出かけてみてはいかがでしょうか。
<DATA>
神奈川県鎌倉市関谷685-1
電話:0467-47-7475
営業時間: 毎週土・日曜 9:00~17:00 ※6/16~変更 10:00~17:00 (水曜定休)
販売品目: 農家直売鎌倉野菜、かん太カレー、焼きそば他軽食、BBQ(要予約)ほか
神奈川県鎌倉市雪ノ下1-4-2 コートドール雪ノ下1F
電話: 050-5594-8247
営業時間: 11:00~15:00(土・日曜は17:00まで) 無休
◆Spicy food & Vegetable「Picante」(ピカンテ)
神奈川県鎌倉市大船1-22-16 ミイ第一ビル1F
電話:0467-84-9325
営業時間:11:30~15:00、17:00~24:00(FOOD L.O.23:00)火曜定休