「大昆蟲食博」に見る世界の昆虫食
世界各地で日常的な食習慣となっている昆虫食
栄養価が高く、美容と健康に良い。そして環境にやさしく、持続可能な社会を実現する。
その長所がクローズアップされている昆虫食は、東南アジアや南米、アフリカをはじめとした世界中の幅広い地域で、ごく日常的な食習慣となっています。
伊那市創造館の企画展
では今、どんな昆虫が食べられているのか。その概要を知ることのできる企画展示が、2017年12月2日から18年5月7日まで長野県伊那市創造館で開かれました。
題して「大昆蟲食博(だいこんちゅうしょくはく)」。この展示会では、今も連綿と受け継がれている地元・伊那谷地域の昆虫食文化とともに、世界の昆虫食が紹介されました。
カンボジアのタランチュラとサソリの素揚げ
カンボジアではタランチュラを素揚げにして甘辛ソースを絡め、それに鷹の爪やレモンバームなどの香辛料をかけて食べるのが一般的です。
猛毒というイメージのあるタランチュラやサソリもここでは食材となっており、実物のサンプルに、同博物館の捧剛太(ささげ・ごうた)館長の食レポが添えられています。
館長いわく「タランチュラが最もおいしかった。胴体は肉質部分が多い。しっとりとして味噌味に近い」。それに対してサソリは素揚げにするとエビせんべいのような感じで、いまいち食べごたえがないとのこと。ちなみにどちらの毒も実際は大したことはなく、加熱すれば分解されるそうです。
昆虫食のある日常風景と意外な日本の事実

映像での展示資料は野中健一氏(立教大学教授)/松島憲一氏(信州大学准教授)の提供によるもの
甲殻類や小魚と同じカテゴリー?
また、カンボジアのドライブインで出されている大皿昆虫料理の写真のスライドショーなども展示されていました。これは日本における昆虫食研究の専門家が資料を提供したもの。
これらの料理は、色とりどりの野菜やハーブをトッピングして美しく彩られており、食欲をそそられます。また、小魚やカニやエビなどの料理も同様に並べられているので、同じカテゴリーの料理として見れば違和感はありません。
こうした環境に入れば、普段、昆虫を食べ慣れていない現代の日本人でも、あまり抵抗なく口にできるのではないかと思われます。
大正時代の「食用及薬用昆虫に関する調査」は日本も先進国だった証拠
FAOの調査によると昆虫を食用として利用する国は、アジアで29カ国、アフリカで39カ国、南米が23カ国。利用者数は25億人に上るとされています。
日本でも大正時代には55種類の昆虫が食されており、同企画展でも大正8(1919)年に農事試験場が日本全国で調査して制作した「食用及薬用昆虫に関する調査」が公開されていました。実は日本は昆虫食の先進国でもあったのです。
コオロギを中心に昆虫養殖の時代へ

コオロギを粉にして練り込んだクリケットパスタ
コオロギのスナック菓子
展示された昆虫の中で食糧危機を救う食材として最も幅広く使われそうなのがコオロギです。コオロギは乾燥飼料で育つのでエサにも苦労せず、大規模な設備も必要ないため、養殖しやすい種類と言われています。
タイやカンボジアの農家では養殖が行われており、素揚げにされる伝統料理の他、最近では油で揚げて塩味をつけたスナック菓子にもなっています。
欧米も肉食から昆虫食へ?
肉食文化を持ち、大量の家畜肉を消費してきた欧米でも、近年になってエコロジストやベジタリアンを中心に昆虫食を進めようという動きが盛んで、コオロギを養殖する工場もカナダに作られ稼働しています。
また加工もしやすいため、見た目の抵抗感をなくす目的から、粉にして、それをパスタやパン、クッキーなどに練り込んだ食品が生産されています。
日本の昆虫食ベンチャーも登場
日本でも大阪の「株式会社 昆虫食のentomo」や、東京の「合同会社TAKEO」がこうした加工品を輸入し、インターネット通販を行っています。
2017年に創業したばかりの「株式会社 昆虫食のentomo」では今後、中南米やアフリカ、ヨーロッパ、東南アジアなど世界各地の昆虫食を扱う企業とも提携する方針で、将来的には、業界団体の設立、そして日本国内に食用昆虫の養殖工場の建設を目指しています。
日本における昆虫食普及の可能性
日本で昆虫食が廃れたのは戦後の食生活の欧米化が要因と言われます。しかし今度はその欧米から昆虫食を推奨する動きが広がり、上記2社に続いて関連のベンチャー企業も立ち上がっています。
程なくして日本でも昆虫食の消費需要が高まり、各地で生産や加工が行われるようになるかもしれません。
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