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世界も注目 日本の昆虫食の里 おいしい虫の食べ方を知る信州伊那谷

世界も注目 日本の昆虫食の里 おいしい虫の食べ方を知る信州伊那谷

2018年06月06日

かつては日本全国でさまざまな昆虫が食卓に上っており、大正時代には各県でどんな昆虫が食用・薬用に使われているかを農事試験場が調査するほどでした。
戦後、その食習慣は衰退しましたが、長野県伊那市(伊那谷地域)には現在もハチの子、ざざ虫、蚕のさなぎ、イナゴなどを食べる習慣が残っています。今、世界的な昆虫食ブームが起こる中(国連推奨 昆虫は未来の食糧?)、関心を集める伊那谷の食文化の背景を探っていきましょう。

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なぜ昆虫食の伝統が伊那谷に残っているのか

販売店と食堂とを併設する塚原信州珍味の店舗「つかはら」

売上が伸び続けている塚原信州珍味

長野県伊那市の老舗珍味店として、川魚や山菜とともに、ハチの子、ざざ虫、蚕のさなぎ、イナゴという4種類の昆虫の佃煮を作り続ける「塚原信州珍味(店舗名:つかはら)」。2012年に移転新装した店舗内では販売だけでなく食事も提供しており、地域の人たち・仕事や観光で訪れる人たちに愛されています。
今、塚原信州珍味には大きな追い風が吹いています。それが2013年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した「食用昆虫 食品と飼料の安全に関する将来展望」という報告書です(国連推奨 昆虫は未来の食糧?)。この発表以来、同店の売上は大きく伸長。店舗での売上はもとより、全国からインターネットを介しての注文が倍増しています。

流通・販売の経路が確立

伊那谷では、この塚原信州珍味のような惣菜店・食料品店が数軒あり、商品の食材となる昆虫を買い取っています。
「販売経路がしっかりできていることが、伊那谷で昆虫食が残っている大きな要因です」と解説するのは、伊那市創造館の捧剛太(ささげ・ごうた)館長です。同館では企画展として、2017年12月2日から18年5月7日までの間「大昆蟲食博(だいこんちゅうしょくはく)」を開催。地元に残る伝統の昆虫食について紹介するとともに、その背景を掘り下げて考察しました。

誤解を解く企画展示

「昔から東京などでは、伊那谷地域はかつて貧しい山村で、他に食べる物がないので虫を食べてきたと、まことしやかに語られてきました」と話す捧館長。実は館長自身も東京出身で、数年前にこの土地に来たばかりです。
「しかし、それはまったくの誤解だったことが、この企画展示を制作してわかりました」と明言します。ハチの子、ざざ虫、蚕のさなぎ、イナゴ、これら4種類の昆虫食の成り立ちはいずれも異なっていると解説します。

生活の一部となっている伊那谷の昆虫食

ある日の伊那人の食卓。虫の佃煮が並ぶ(「大昆蟲食博」の展示より)

遊んで育てて食べるハチの子

「ハチの子」は地面の中に巣をつくるクロスズメバチの幼虫です。その巣を取るのは昭和40年代半ば(1970年頃)まで、子供たちの野遊びの一つでした。
春先、飛んでいるハチに白い紙で目印をつけて追いかけ、巣のある場所を探し出し、穴の中に煙を入れてハチを弱らせます。こうしてハチごと巣を持ち帰り、それぞれの自宅の庭でハチに巣を育てさせます。秋になって大きく育てたハチの巣の中には幼虫がびっしり詰まっているので、それをピンセットなどでほじり出し、そのままフライパンで炒めたり、ハチの子ごはんにしたりして食べるのです。
現在、高齢になった「もと子供たち」は伊那谷スズメバチ愛好会をつくり、自分の家のハチの巣の美しさを競うコンテストも毎年秋に開催しています。

漁業権が必要なざざ虫

ざざ虫とは水生昆虫のヘビトンボ・カワゲラ・トビゲラなどの幼虫の総称で、この地域を流れる天竜川で捕れます。漁をするには天竜川漁業協同組合が発行する免許が必要です。漁師は専用の道具を使って川底の石の裏に潜んでいるざざ虫を追い出して捕獲。12月から2月までの3カ月間限定ですが、多い時には1日数万円稼げると言います。
かつては元締的な販売業者がおり、郷土食として売り出すとともに、東京の料亭などに高級珍味として売り込んだというエピソードも残っています。そうした流通・販売経路があったためお金になり、小規模ながら一つの地場産業として根付いてきたのです。

養蚕業の副産物 蚕のさなぎ

養蚕業・製糸業は日本の近代化を支えた一大産業で、この地域でも非常に盛んな仕事でした。養蚕の主要産物はもちろん、シルクの原料となる、幼虫が吐き出す糸です。しかしその他にも副産物として、桑の葉の葉緑素が入った糞、繭から糸を取った後の残り殻、さなぎ、脱皮ガラ、成虫まで、この虫の一生は全く無駄なく利用されました。
中でも、さなぎの使い道は多く、食用として主に煮つけにして食べられていました。また油を搾って石鹸や食用油としても活用されました。

イナゴは家庭の味・弁当のおかず

この地域の人たちにとってイナゴは日常生活に浸透した、昔ながらの家庭料理。今回の展示を見学した人たちからも「保育園で散歩に出かけた時、クラスの仲間とイナゴを捕って持ち帰り、園長先生が佃煮にしてくれた」(20代女性)、「学生時代、学校に持っていく弁当のおかずの定番だった」(50代男性)といった思い出コメントが捧館長のもとに多数寄せられました。
子供たちが捕ってきたイナゴを袋に入れて一晩置いてフンを出させ、翌日、脚を取ってゆでて佃煮にするのが一般的な食べ方で、家庭の味として今でもこの佃煮を手作りしている家は珍しくありません。

今後、昆虫食を普及させるヒントに

昆虫食

ハチの子、ざざ虫、蚕のさなぎ、イナゴ。これらの昆虫がどうしてこの地域で食べられるようになったのか。それぞれ理由は異なっています。
しかし、いずれも伊那谷の生活環境の必然として生まれ、産業や経済と密接に結びつくことによって現代まで引き継がれ、人々に親しまれ続けていることに変わりありません。
たとえ一部の地域にでも、こうした伝統的な食文化がしっかり根付いていることは、今後、日本に再び昆虫食を普及させるヒントになっていくでしょう。

 
伊那の幸 塚原信州珍味

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