小糸在来®に魅せられた就農者
「小糸在来®に出会って、自分に農業という選択肢が生まれた」と話す宮本雅之さん。大学進学をきっかけに上京し、卒業後は、IT企業や不動産会社に勤務しましたが、思うような成果が上がらずに、職を転々とする日々が続きました。もともと「好奇心だけは旺盛」な宮本さんはデイトレードに関心を寄せました。商品先物の値動きに注目するうちに、農作物に興味を持ち、農業関連のセミナーに足しげく通うようになります。そして有機農業の講座で「小糸在来®の豆ごはん」と運命的な出会いを果たします。「豆だけでこれほど豊かな味や香りが楽しめるとは」と驚き、小糸在来®の「豆の力に感動した」と言います。その出会いをきっかけに、2009年から千葉県佐倉市の有機農家・林農園で研修を受け、自らも独学でタネについて学び、自身が「おいしい」と感じた農作物に共通することが「在来種である」という事実にたどり着きます。「在来種を受け継いでいくこと」に使命感を覚えた宮本さんは就農を決意。千葉県全体が、東日本大震災の風評被害真っ只中の2011年、家族で君津に移住し、農業家としての生活をスタートさせました。
小糸在来®を満喫できるオーナー制度
「小糸在来®」は、古くから千葉県君津市の小糸川流域で栽培されていた大豆です。7月にタネをまく晩生の大豆は、実が若いうちの10月中旬から11月上旬までに収穫する「枝豆期」は、甘味とうま味、上品で力強い香りが特徴とされています。11月下旬から12月上旬に収穫期を迎える大豆(乾豆)は、大粒で枝豆同様の甘みが際立っているのが特色。「小糸在来®」の大豆を原料とした豆腐は、全国豆腐連合会の主催する品評会での連続受賞の実績があり、豆腐製造者からは「豆腐界のロマネ・コンティ」と呼ばれているとか。また、千葉県南エリアだけで流通する納豆も常に人気で品薄状態が続いているなど、加工原料として高い評価を得ています。しかし、機械収穫に向かないことや、販売単価が一時期低迷したことなどの理由で、生産量の大幅な拡大には至っていません。
収穫に手間がかかり、生産性が低いことが常にネックとなってきた小糸在来®ですが、現在は、地元農家で構成する「小糸在来®愛好クラブ」のメンバーによって、毎年数十トンの生産が行われ、かつてのような絶滅の危機を脱しました。「小糸在来®のバトンをより太く、より強いものにするために何ができるか」。生産農家の出した結論は「小糸在来®の知名度を上げて、単価の向上と生産量の増大という好循環をつくる」というものでした。生産量を維持拡大するために「知ってもらって、ファンになってもらう」。知名度を上げるための活動は「小糸在来®オーナー制度」という形になって展開しています。
小糸在来®オーナー制度(主催:上湯江地区小糸在来®オーナー制度実行委員会)
「小糸在来®オーナー制度」は、1区画(5坪程度)5,000円で、オーナーを募る制度です。オーナーは収穫時期に、地元生産農家が播種、管理を行った畑で小糸在来®を収穫できます。
・1区(5坪程度) 5,000円(申し込み先着2,000区画になり次第締め切り)
・場所 千葉県君津市上湯江 小糸在来®栽培ほ場
・引き渡し日 2018年10月5日(金)、6日(土)予定
・地図など 後日郵送
・収穫終了日 2018年11月30日(金)
・代金支払い方法 引き渡し当日に現金払い
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君津で始めた農業の目指す先
小糸在来®に魅せられた宮本さんが君津に拠点を構えたのは、JAが仲介した就農希望者とベテラン農家のマッチングの機会に参加したことがきっかけでした。後に師匠と呼ぶ先輩農業者に出会い、まとまった畑を借りて、師匠の指導を仰ぎながらのニンジンの栽培が「宮本農業」のスタート地点でした。それから4年は、ニンジンを中心に、様々な農作物に挑戦する日々。販路の開拓が難しかったニンジンは、加工業者と接点を持ったのをきっかけに「君津三舟山のにんじんジュース」として売り出すなど、「縁に助けられながら」農業者としての地盤を築くことに力を注ぎました。
就農5年目の2015年、宮本さんの活動が地元の農業者に認められ、小糸在来®オーナー制度を運営する農家に参加。翌年にはより条件の良い畑を借りて、小糸在来®の規模を拡大し、それ以降、小糸在来®とニンジンの栽培に集中しています。
「ようやく、自分なりの農業の骨格が見えてきた」と話す宮本さん。小糸在来®のPRの一つの方法として、「にんじんジュース」の経験を活かし、小糸在来®を加工した「煎り豆」を開発するなど、新しい販売方法の開発にも余念がありません。
自身の将来に目標について聞くと「小糸在来®を枝豆の世界的なブランドにすること」という答えが。「最近、多くの超一流シェフの方々に小糸在来®を使って頂けるようになりました。フレンチ・中華・イタリアン・和食、どの分野でも非常に高い評価を得られたことはとても意外でした。」それらのエピソードを通して「改めて、豆を食べる文化は世界共通だと気付かされた」と言います。「大豆(乾豆)を料理で楽しんでいただくのはもちろん、できれば冷凍ではない枝豆を世界の人々に味わっていただきたい。EDAMAMEが今以上に世界の共通言語になるように、自分が感じた魅力を世界中の人々に伝えたい」。小糸在来®のバトンが次の世代、その次の世代に手渡されるように。宮本農業の8年目のシーズンが始まります。