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SOSA Projectから始める地方移住 髙坂勝さんが語る農業と「ナリワイ」

SOSA Projectから始める地方移住 髙坂勝さんが語る農業と「ナリワイ」

千葉県匝瑳(そうさ)市では、都市部に住む方々に農業体験を提供するNPO法人SOSA Projectが活動しています。2008年に始まった活動には、これまで300組ほどの方が参加。参加者の手作業により、これまで3000坪を超える荒れた土地が、田畑としてよみがえり、ここでの体験を機に就農や移住をする方々も。SOSAの活動は地域の行政からも注目を集めています。SOSA Projectの発起人である髙坂勝(こうさか・まさる)さんに、農業が持つ魅力や、就農・農業体験を希望する方々の姿、農業体験を成功させるコツについて聞きました。

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栽培経験0の人も惹き付ける、農業の魅力

SOSA Projectが活動する、千葉県匝瑳市の「マイ田んぼ」の様子

―SOSA Projectの内容について教えてください。
千葉県匝瑳市で、都市部に住む人にむけて、米と大豆の自給、地元の方々や移住者と共に作業する里山整備、匝瑳市周辺への移住あっせんといった活動をしています。活動の中で、地方に移住した時に地元の方々と交わる雰囲気を感じたり学んでもらったりする目的もあります。
地元の方から使っていない田んぼを提供してもらい、都市部に住みながら自給したいという人たちに向けたプログラムである「マイ田んぼ」を実施しています。毎年80組くらいに田んぼをあっせんしていて、そのうち新規で田んぼを始める方は30組ほどです。今年も、東京近郊在住の個人やグループが米の自給をしています。耕作面積の合計は1町5反歩(4500坪)くらいかな。それでも、参加者の口コミやリピーターさんによって、毎年マイ田んぼの応募は満員になっています。

参加者がそれぞれ田んぼ作業にいそしむ。参加できる日に思い思いに集まって作業を行う(写真提供=倉田爽)。

マイ田んぼの参加者の方々は、植物栽培経験がない方がほとんど(写真提供=倉田爽)。

―毎年満員なのですね。募集はどのようにされているのですか?
私のblog「たまにはTSUKIでも眺めましょ」やメールマガジン、口コミで募集をしてます。毎年2月ごろから希望者を募って、その年にもよるけど、3月末にはだいたい集まるかな。
参加するのは、植物を育てたこともない人がほとんど。自分で育てたお米のおいしさと、自分で作る喜び、体すべてを使っての作業の気持ち良さ、自然を肌身で感じることを覚えると、田んぼにはまっていきます。東京の生活に疲れた人が田んぼを通して、体も心も元気になって、生きる気力を取り戻していくのを何度も見ました。

―髙坂さんは元は大手百貨店のトップセールスマンという異色のご経歴ですが、髙坂さんがSOSAを始めるようになったきっかけは何だったのでしょう? もともと農業などにご興味があったのでしょうか。

30歳で勤めていた企業を辞め、日本一周の旅に出ました。その時は、料理も植物の栽培もまったく経験はありませんでした。しかし、旅で様々なものを見たり気づいたり学んだりする中で、環境を犠牲にする経済至上主義や欲望を煽るモノカルチャーや、化石資源に頼る農業や日本の食糧自給率の低さ、雇われて給料に依存する生き方に疑問をもつようになりました。その答えとして、少しでも自給をしたいと思ったのが自分で農作業をするようになったきっかけ。
そこから、知り合いを通じて千葉県匝瑳市の田んぼを紹介してもらい、自家消費分と私の経営していた店「たまにはTSUKIでも眺めましょ」(※2018年3月で閉鎖)で使うだけの米や大豆を自給し始めました。農作業のお手伝いをしてもらっていたお店のお客さんから、「自分もやりたい」という要望が増えてきたころに、匝瑳でお世話になっている方からの要望もあって、SOSA Projectを設立しました。

右側にあるのが自家栽培した米。左奥には、育てた大豆で仕込んでいる醤油や味噌。

―お知り合いやお客さんなど、人のつながりが重なっていますね。
「ご縁」ですね。SOSAでは都市と山村、参加者の中で仲間が育っていくことも狙っています。田んぼや畑を超えた交流が育っていってほしいし、SOSAをきっかけに、どうやって生きたらいいかを考えて、自分なりの「ナリワイ」に取り組んでいく仲間の姿を楽しみにしています。ナリワイというのは、雇われず、自分の好きなことで、労働に見合ったお金と「ありがとう」を言ってもらえるような、世の中の役に立つ仕事、という意味で使っています。

農業体験が人を、地域を変える!

―マイ田んぼをきっかけに就農される方や自給のための栽培を始める方も多いとうかがいました。
数えていないので正確にはわからないけど、自給を生活に取り入れて地方移住した人は、100組はいるでしょう。就農は、5~6組くらいかな。マイ田んぼやSOSAでの里山活動などを通して、都会での行き過ぎた消費や生き方への疑問を持った方々が、その答えを生きるべく、小さな自給を始めたり就農したりしています。
将来は就農したいと思ってSOSAに参加してくださる方もいるし、なんだかおもしろそうだなと思ってマイ田んぼをやってみたら農業の魅力にはまって就農した方もいました。
「就農をしたい」という方には、匝瑳だけじゃなくて日本中、知り合いのネットワークを通して、新しく農業を始められる場所や住むところの紹介をしています。SOSAには参加していないお店のお客さんや移住したいという方にも、同じように相談されたら紹介しています。

―就農、地方移住の世話人ですね。
世話人というより、案内人かな。自分では「ファシリテーター」と呼んでいます。移住や農業をファシリテイト(促す)するという意味で。
SOSA参加者の中には、就農や自給はしないけれども地方移住をした人がたくさんいます。SOSAの参加者で地方移住した人々は、就農には至らずとも、たいていが少々なりの自給をしています。いわゆる半農半X(※1)ですね。中には、地元農家さんの販売サポートなどをするなどして自分の「X」につなげている人もいます。
匝瑳への移住者はこれまででのべ30人以上、今年さらに10人以上が移住を検討中です。
※1 自給としての「農」業と、自分のナリワイを組み合わせて生計を立てる生き方のこと。

SOSA参加者や仲間とワークショップで作った。奥がトイレ、右が板倉造りの小屋、左がソーラーパネルを乗せる台兼薪置き。

―地域の方や農地を提供してくださっている方からはどんな反応があるのでしょう?
SOSAは地元の方々の協力があってのもの。田んぼや畑の指導は直接してもらっていないけれど、それでも土地の提供に留まらず、農作業や人生の知恵をたくさん頂いてます。なんでもできる60代の農家さんや、80歳を超えても田畑や土木をこなし小屋まで作ってしまう元気な長老方など、いつもSOSAの活動を温かく見守って応援してもらっていて、心から感謝しています。
SOSAに土地を貸してくださっている地主さんたちは、きっと不安に思われたこともあると思うけれど、それでも信頼して土地を貸し続けてくださったので、なんとか10年活動を続けてこられました。SOSAをきっかけに匝瑳に移住する人も出て、地域に根付いた活動に徐々になってきているかな。
移住したSOSAの仲間たちが、おのおの、味噌や小屋作りのワークショップ、古民家の再生やナリワイなど、地域で新しいことを始めています。中には筆文字セラピーという自分のナリワイを見つけて、サラリーマンから突然転身した人もいます。
役所の方からは「前年、匝瑳に移住転入した人が全員、SOSA Projectを通じての人だった」、長老からは「髙坂さんたちの活動のおかげで、死ぬことを忘れちゃいましたよ(笑)」などと言われたこともあります。SOSAが地域の環境や伝統を生かしながら、地域が元気になっていく活動につながっていると思うとうれしいですね。

農業体験をより広げるために

―10年活動が続いているとは、息が長いですね。
これからも自分たちのペースを守って活動を続けていきたいですね。そのために、耕地面積の拡大もここしばらくはせず、参加者人数もあまり増やしていません。
ちょうどこの3月に、都内でやっていたお店を閉めて、軸足を匝瑳に移しました。匝瑳で活動できる時間が増えたので、農体験をもう少し気軽に感じてほしくて、これまで1年単位でしか参加を受け入れていなかった田んぼ・畑の活動に、1日参加コースを設けました。毎回9名までの参加を受け入れています。当日は、農作業の他にも匝瑳に移住した人のお宅拝見や日々の暮らしの話、手作りロケットストーブ(※2)を使った料理を参加者みんなで食べるなど、小さな経済を新しく作っていこうと思っています。
※2 簡単に自作できる、暖房・調理機能を兼ねたストーブ。小さな木片や小枝などの燃料で高い燃焼効率を発揮し、災害の際にも役立ってきた。

写真提供=髙坂勝(別途表記があるものを除く)

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