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ドーナツ田んぼから農楽の輪 早大学生NPO「農楽塾」の農的生活

ドーナツ田んぼから農楽の輪 早大学生NPO「農楽塾」の農的生活

早稲田大学のシンボル大隈講堂。その脇にある大隈庭園の奥に入っていくとドーナツ型の田んぼが現れます。
6月最初の土曜日はこの通称「わせでん」の田植えの日。ほとんど農業未体験の大学生たちが歓声を上げて泥の中に裸足を突っ込み、不器用な手つきで苗を植えていきます。イベントに等しいこの田植えは、「農的生活」を楽しむことを趣旨に活動する学生NPO「農楽塾(のうがくじゅく)」が主催しています。

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わせでん開田ストーリー

農業

「早稲田」はかつては田園地帯

「“早稲田”なのにどうして稲も田もないのか?」という学生たちの疑問からこの田んぼは生まれました。1882(明治15)年の創立当時、東京府南豊島郡の早稲田村(現・東京都新宿区)にある早稲田大学周辺は田んぼが大部分を占める田園地帯で、早稲田という地名もそれにちなんで生まれたもの。しかし、明治時代後半、20世紀になる頃には田んぼはほとんどなくなっていたといいます。

「農的生活」を学内で実現するために

1世紀あまりの時を経た2003年、田んぼの復活を提唱したのは、「農山村体験実習」の第1期生たちです。
この年から早稲田大学では、学部に関係なく選択できる“オープン科目”として、山形県高畠町の「屋代村塾」(元早大教授が開いた私塾)などでの農山村体験実習を実施しています。
そこで農家体験や田舎暮らし体験を通して環境や地域文化、人の生き方なども含めた「農的生活」に感銘を受けた学生たちは、ぜひこれを学内で実現したいと同年12月、「農を楽しむ塾」、農楽塾を結成。大学から大隈庭園内の一角に敷地を借りて、翌2004年の2月に開田しました。

ハート型からドーナツ型へ変貌

敷地に根を張っていたサルスベリの木は伐採できないため、逆にいびつな地形を生かして、当初はかわいいハート型の田んぼに。それが10年余りの間に少し広がり、くぼみが取れて、サルスベリを真ん中に置いた、直径5メートル強のドーナツ型の田んぼに変貌しました。

それは新宿区における21世紀初の新田だった

一般に開放された大隈庭園内

一般の人たちも田植えをエンジョイ

ここでは農楽塾のメンバーの他、申し込めば一般の人たちも田植えや秋の収穫作業に参加できます。この日も一組の親子が学生たちと一緒に1時間ほど作業を楽しみました。
早稲田大学は平日・土日を問わずキャンパスを一般に開放しており、散歩に来た人たちが、にぎやかな田植え風景をのぞいていきます。
参加した親子も散歩中にここを知り、今回、田植えに加わったとのことです。

地域の教育やコミュニティにも活用

また毎年、別の日には近所の幼稚園の園児たちも田植えをしにやってきます。園児の田植えは開田当時からの恒例行事で、地域の教育やコミュニティにも活用されています。
農地がほとんどない新宿区では、開田当時この小さな「わせでん」は区内唯一の田んぼであり、21世紀初の新田として注目を集めました。
以来、都心の新宿区でも稲作体験の場を増やそうと、公園の一角を利用してミニ田んぼが新たに開かれるといった動きも起こっています。

毎年平均5キロを収穫

田植え後は農楽塾のメンバーがシフトを組み、毎日交替で世話をして無農薬栽培を行っています。収穫できる米の量は年によってばらつきがありますが、約5キロが平均量。メンバーと作業に参加した一般の人たち、そして幼稚園の子どもたちとでおいしく食べます。
今年植えたのは、2016年の日本穀物検定協会による「米の食味ランキング」で、神奈川県産の米として初めて特Aの評価を受けた「はるみ」という品種です。

広がる農楽活動

2018年度の中心メンバー。(左から)副代表:佐藤果南さん(3年)、代表:周校石さん(3年)、会計:廣田真由さん(3年)

SNSでメンバー倍増

農楽塾は毎年平均30人あまりのメンバーで活動してきましたが、2018年度は新入会員が大勢入り、60人近い大所帯になりました。
代表の周校石(しゅう・こうせき/教育学部3年)さんに理由を聞くと「これまでホームページとブログ主体で情報発信していましたが、今年になってTwitterやFacebookにより重点を置き、更新頻度を高めたので」。SNS効果は絶大のようです。

気軽さが魅力

メンバーが在籍する学部はまちまちですが、教育・環境・社会心理といった分野で学ぶ人たちが多いようです。入会動機は「農業を体験したい」「自然に触れたい」「土いじりがしたい」「泥んこになりたい」といったもので、難しいことを考えず、気軽に農業を楽しめるのが最大の魅力だと言います。

江戸東京野菜の栽培プロジェクトにも参加

農楽塾では「わせでん」における米づくりの他に、大規模な農業を体験するため、月に1回、埼玉県所沢市・関谷農園での「ところざわ農作業体験プロジェクト」、年に1回、前出の山形県高畠町「屋代村塾」での農作業に参加しています。
また、新宿地域の特産品であり、江戸東京野菜の一つである「内藤とうがらし」の栽培が今年から大学のすぐそばにある戸山公園でも始まりました。農楽塾はこのプロジェクトにも参加し、他の大学のサークルや企業の農業ボランティアの人たちとともに活動しています。

これから始まる人生への影響力は?

田植えには新入生が積極参加

メンバーらは「あくまで楽しむための農業活動」と言いますが、卒業生の中には北海道で牧場経営をしている人や、高知県で地鶏を使った地域活性化の仕事に携わっている人もおり、この体験が人生に及ぼす影響力は小さくありません。
環境や地域文化、人の生き方なども含む「農的生活」実現のために生まれた同団体の活動と「わせでん」は、学生たちの将来にどう働きかけていくのか、とても楽しみです。

農楽塾ホームページ

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