結婚式場と農福連携の全国団体が手を組んだ
2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて
2018年3月2日。株式会社八芳園(以下、八芳園)と一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会(以下、自然栽培パーティ)は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックとその先を見据え、農業と福祉が連携する「農福連携」の活動支援と自然栽培のブランド力向上のために、包括的連携協定(※)を結びました。
自然栽培パーティは、農薬や肥料に頼らない自然栽培農法を、障がいのある人々と共に実施する団体です。
今回の協定により、自然栽培パーティに参加している施設・農園で作った自然栽培の農作物を八芳園が購入したり、両者がともに食で健康になる大切さを伝えていくなど、さまざまな活動を展開していく予定です。
※ 社会的課題に対して、お互いの知見や強みなどを生かして協力しながら、解決を図っていくための枠組み。
300名に自然栽培野菜のフルコースを振る舞ったディナーショーがきっかけに
両者の出会いは2017年にさかのぼります。
自然栽培パーティが、自身の活動を伝えるためのディナーショーを企画し、その会場となったのが、八芳園でした。
自然栽培パーティでは企画当初、こぢんまりとした「おにぎりパーティー」というようなものを想定していたそうです。
ところが企画は大きく発展しました。
「ALL ATHLETE DREAM DINNER」と銘打たれ、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問で、フランス料理店オテル・ドゥ・ミクニのオーナーシェフとしても有名な三國清三(みくに・きよみ)シェフ、「奇跡のリンゴ」で知られるリンゴ農家の木村秋則(きむら・あきのり)さん、サッカー元日本代表の高原直泰(たかはら・なおひろ)さんなども集い、総勢約300人がディナーショーに参加しました。
これは、企画を進める中で八芳園も一緒に知恵を出し合うようになった結果でした。そして、このディナーショーがきっかけとなり、包括的連携協定へとつながりました。
互いに手を携え、力を合わせる
自然栽培野菜でライフサポートする八芳園
世界にはベジタリアンやヴィーガン、ハラル食など、多様な食文化があります。ですが、日本で対応できている飲食店は多くありません。また、アレルギー対応も飲食店の課題。八芳園の結婚披露宴でアレルギー対応の食事をした人は、大人4.06%(10万131人中4067人)、お子様ランチを提供したうちでは6.34%(3250人中206人)にのぼりました(2016年10月~2017年9月、八芳園調べ)。
八芳園は結婚式から始まるご夫婦・ご家族の人生を生涯にわたりサポートする「生涯式場」をコンセプトに、特に食に力を入れています。
八芳園企画課の高橋直樹(たかはし・なおき)さんは話します。
「私の上席は海外で多様な食文化への対応を視察し、おもてなしの国であるはずの日本の遅れを感じました。例えば披露宴で、アレルギーを持つ方へは他と違う料理を違う皿で先に出す。ですが、皆で一つとなって祝う場で料理に違いがあるのはおかしなこと。そこで7大アレルゲン(乳・卵・小麦・そば・落花生・エビ・カニ)を外した婚礼メニューを2018年2月から選べるようになり、皆が同じ料理を楽しめるようになりました。
さかのぼれば2017年に、八芳園が展開するレストラン『アニバーサリーガーデン』を、安心安全な有機栽培と自然栽培にこだわる“オーガニックライフレストラン”としてリニューアルオープンさせており、そこからの流れもありました」
安心・安全の面からも、自然栽培野菜を取り入れていた八芳園。
「それに加えて、自然栽培だと個性が出ます。形の差はありますが、味が濃く、おいしい」と高橋さん。
しかし、栽培は簡単ではありません。栽培農家は少なく、量が確保できません。このため、全国規模でネットワークを持ち、流通窓口を一本化できる自然栽培パーティとの連携は、八芳園にとってメリットでした。
かと言って、八芳園はただ窓口とやり取りするだけではありません。
「農園や施設にスタッフが手伝いにも行き、勉強しています。調理に関わるスタッフも行くことで調理アイデアも広がりますし、何より直接話すことで作物の良さが分かります」
従業員食堂にも自然栽培野菜を出すなど、社内的にも自然栽培を浸透させる取り組みが増えているそうです。
自然栽培パーティには、グローバルGAP認証を取得した会員施設も
一方、自然栽培パーティにも、連携は大きなメリットがありました。
そもそも、自然栽培農家が少ない理由の一つには、売り先の少なさが挙げられます。一般論として、収量が安定しなければ買い手は調理加工の計画が立てられず二の足を踏み、買い手がためらう作物は売れないため作らないという負の連鎖があります。加えて、自然栽培野菜は作物の出来に個体差があるため、調理加工がしづらいという問題もあります。
しかしこれを、八芳園は「全部買うから自由にやってください」と話すほど受け入れてくれるそうです。レストランやカフェ、従業員食堂と、さまざまな食事提供の形態を持つ強みでもあります。
自然栽培パーティ理事長の磯部竜太(いそべ・りゅうた)さんは「会員のモチベーションが上がりました」と話します。「ディナーショーで八芳園さんの料理を実際に食べた会員からは『うちの米をこんなにおいしくしてもらえるならもっと作ろう!』などの声がありました」
東京オリンピック・パラリンピックに向けた具体的な取り組みは模索中ですが、自然栽培パーティでは国際基準を満たすような作物を作れるようにとGAPの取得にも目を向けています。既にグローバルGAP認証を取得している会員施設もあります。
加速している「農福連携」の流れ
増え続ける自然栽培パーティの会員
2015年に5つの福祉施設から始まった自然栽培パーティは、2018年3月現在76施設(協力企業・個人含めた総会員数は102カ所)と増えました。今も毎週のように加入希望の問い合わせがあります。
農福連携は現状、福祉施設が農業に取り組みだすという場合がほとんど。障がい者の心身の癒やしを期待した園芸療法的な狙いも、理由に挙がることがあります。実際に、行動障がいを持ちテレビを投げたこともあるという人が農園では黙々と草取りをする姿も見られます。
課題を共有しながら連携する
会員数が増え、全国ネットワークを組んでいる自然栽培パーティですが、「八芳園さんのイメージする量を生産できるだけの能力はまだありません」と磯部さんは話します。いずれは婚礼のコース料理にと八芳園でも考えていますが、年間で収量を安定させることには、まだ課題があります。
八芳園の高橋さんは、「仲間意識でやっていますから、どこへでも足を運ぶし、困っていたら助けるし、うちも助けてもらいます。お互いの協力があって、ひとつの事業が成り立っています」と話しました。
今後、農業者からの声掛けで農福連携に取り組むケースが増えれば、農業のプロによる収量拡大など新しい可能性が広がるかもしれません。
6次産業化のスープ開発に向けて
八芳園と自然栽培パーティでは現在、6次産業化として、ストックの効くジャガイモやタマネギを加工して冷凍したスープを試作中です。これは、生産だけでなく加工も障がい者が働く事業所で行うそうです。2018年7月27日に開催する、ディナーショーの第二弾でお披露目したいと両者とも意気込みます。
これらにより、農福連携はますます進むことでしょう。農業と福祉、両者に可能性が広がります。
「自然と向き合って取り組んでいく農業の中では、皆が幸せに暮らせる社会のヒントがあると考えている」と磯部さんは強く語りました。
一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会
株式会社八芳園