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パッションフルーツ×ITで都会を冷やすクールアイランドシステム

パッションフルーツ×ITで都会を冷やすクールアイランドシステム

毎年夏になると、ヒートアイランド現象で高温が続く都市部。そんな都市部の救世主となる可能性を秘めているのが、なんと「パッションフルーツ」です。長崎県の鈴田峠農園では、パッションフルーツによる緑化とIoT、AIを組み合わせ、都市部の冷却を目指すシステムを開発しました。パッションフルーツで日陰を作り、ミストを噴射し気温を下げ、気温差を利用し風を吹かせて涼しい空間を作ろうというのです。鈴田峠農園代表の當麻謙二(とうま・けんじ)さんに詳しくお話を伺いました。

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パッションフルーツを有効活用

農業

──はじめに、都市部の暑さを緩和する「クールアイランドシステム」とは、どんなものか教えてください。

パッションフルーツの緑化装置「ミガナル」を通して、涼しい空気を循環させるシステムです。

まず、アーチ状の枠組みにパッションフルーツのツルをはわせ、天井部分に葉っぱがしげるようにして通路を作ります。そこにミスト噴射装置とセンサーを取り付け、葉の部分にミストを噴射し、涼しい空間を作り出します。これがミガナルです。

枠組みは折りたたむことができるので、持ち運びが可能です。ミガナルをさまざまな場所に設置することで、空気の温度差を利用して風の流れを作ります。空気には、冷たいところから暖かいところへ流れ込むという性質があるので、緑化装置で冷やした空気が、日向で暖められた空気に向かって流れ出るようになるのです。

このシステムは、都市を悩ませるヒートアイランド現象への対策や、地球温暖化の防止に効果的だと考えています。

──暑さに対してどのような点で効果があるか、それぞれ詳しく教えてください。

そもそも、夏に都市部の気温が上がるのには、いくつかの要因があります。

まず、地面を覆ったコンクリートが熱を吸収し、なかなか放出しないこと。コンクリートは熱しにくい半面、長時間日光によって暖められるとなかなか冷めないので、夜になっても地表が熱い状態が続くことになります。

また、水場や水分を多く含む森林が少ないことも挙げられます。森林や草地、水田や池などがあると、水分が蒸発するときに“気化熱”として周囲の熱を奪うので、気温が上昇しにくくなります。しかし都市部にはそういった水がある場所が少ないため、気温の上昇を抑えられないのです。

このほか、人工排熱も問題です。人口が集中する都市部では、社会活動などに伴う排熱が多いので、気温の上昇が進んでしまいます。さらに高層ビルが林立することで、海や森などから吹く涼しい風が届かず、余計に暑くなるのです。

これらの現象を緩和するために、クールアイランドシステムを提案しています。

まず大事なのは、コンクリートへの日射を遮ること。パッションフルーツを緑のカーテンとして使います。パッションフルーツの葉は光を通しにくいことに加え、虫が嫌う成分を持っているので害虫がつきにくく、無農薬で育てることができます。しかもすぐに大きくなるんです。これらの特徴を生かして、パッションフルーツで屋根を作り、日光を遮るのです。

ただ、素人が一からパッションフルーツを育て、緑化の枠組みを作るのは、手間がかかり難しい部分もあります。そこで私たちはビニールハウスなど別の場所でまとめてミガナルを作り、必要なときにコンパクトに折りたたんで届けるようにしました。使用したい場所にミガナルを広げるだけで、緑化スペースが完成します。標準サイズのミガナルを設置すると、幅2.5メートル、高さ2メートルほどの緑のカーテンが出現します。私たちはこのパッションフルーツの移動式緑化装置で、特許を取得しました。

これまでには、例えば東京の幼稚園にミガナルを設置しました。無農薬だから子どもたちにも安心です。夏と秋には実がなるので、景色としてもきれいですし、収穫して食べることができます。それも喜んでいただけましたね。ミガナルは、2020年東京五輪のマラソンコースへの設置も検討されています。

緑化地帯をつなぎ、涼を作るクールアイランドシステム

農業

──そこにITはどのように関係してくるのでしょうか。

パッションフルーツで日陰を作るだけでも涼しさは感じられますが、パッションフルーツにミストを噴射するとより涼しさが増します。水分が蒸発するときに周囲の熱を奪う性質を利用して、気温を下げるのです。これを自動化し、効率的に行うためにITを使います。温度を測定するセンサーを取り付け、特定の温度に達したら自動でミストを噴射。そうすることで気温の上昇を防ぐことができます。

しかしこれだけだと、ミガナルを設置した地点しか涼しくなりませんよね。設置できる場所には限度があります。もっと広範囲を涼しくするために、風を吹かせることにしました。

冷たい空気が暖かい空気の方へ移動する性質を利用して、場所ごとの温度差を作り風を吹かせるんです。大学の教授によると、これは京町屋の建物の造りに古くから利用されていた知恵だとか。京町屋では、植物の気化熱で涼しい空間を、日光で暑い空間を作り、その温度差を利用して室内に風を吹かせていたんです。これと同じことを、ミガナルを使って実現しようと考えました。

緑化してミストを噴射した地点は、ほかの場所よりも涼しくなります。そこと日光で温められた場所との温度差で風を吹かせます。

適切に風が吹き続けるためには、緑化する場所を綿密に考え、風の流れを読む必要があります。そこで、ミガナルに設置したセンサーで、温度に加え風向きや風量のデータを蓄積し、AIで分析する予定です。これがうまくいけば、涼しい空気が循環する仕組みができ、都市部の気温上昇を緩和することができます。

地球温暖化防止へ、農業界から提案を

農業

──パッションフルーツによる緑化とITの組み合わせで、広範囲で気温の上昇を抑えることが可能になるかもしれないんですね。今後は何を目指していきますか。

クールアイランドシステムを広め、都市の気温上昇に歯止めをかけるとともに、地球温暖化の防止にも役立てられたらいいと思っています。

パッションフルーツは日陰を作ってくれるだけでなく、植物なので光合成もしてくれます。電力を使わずとも涼しくなって、二酸化炭素も吸収・貯蓄してくれるので一石二鳥です。さらに、枯れてしまったら紙などに加工する計画もあります。枯れた植物は徐々に分解されて大気中に二酸化炭素を放出してしまいますが、加工することで二酸化炭素の放出を抑えることができるんです。

地球温暖化は世界規模の問題です。海外では、温暖化対策のビジネスが一攫千金につながると、多くの企業が参入していると聞きます。しかし日本にはまだそういった流れはありません。日本の農業界から世界に向けて、温暖化の防止に向けて新たな提案をしていきたいです。

鈴田峠農園

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