農業にビジネス視点がなぜ大切なのか

マイファームが経営する「アグリイノベーション大学校」でも、経営に関する講義がカリキュラムに組み込まれている
「元サラリーマンの生産者が百貨店へ作物の売り込みに行ったとき、『これが週に何キロ出せます』という具体的な提案をしたら、『そんなことを言ってくる農家さんは珍しい』とバイヤーに驚かれたという話を聞いたことがあります」
出荷量の計算や販売計画の立案・提案など、経営的な視点を持った行動をとることは、ビジネスマンにとって自然なプロセス。しかし、木本さんが話すように、農業界ではまだ完全に浸透していないようです。
「農業を営む際、経営的な視点が欠落していると、さまざまな問題が起こる可能性があります」と木本さん。「例えば、農作物の売り値を決めるとき。流通のフローを考慮せず、消費者感覚で値段を決めてしまうため、思ったような利益を得ることができない、といった話もあります」
経営的な視点が必要になるのは、価格設定のときだけではないようです。例えば、トラクターなど長期的に使うものへの投資や、ハウスを増やしたときのシミュレーションなど、経営判断のためにも必要不可欠。ビジネス視点を持ち、先を見据えた計画的な行動をとることは、安定した農業経営を続けていく上で重要なポイントと言えそうです。
就農=起業、必要なのは目標設定
「起業でも何でもそうですが、すべては目標を持つことからスタートします。目標を設定すると、具体的なイメージがわくため、まず何をどうするべきかが自然と浮かび上がってくると思います」。このように、「目標を決めることで、最初の一歩が踏み出せる」と木本さんは話します。
「実際に農業を始めた後も、目標は大切です。例えば目標がないと、“いま自分は何を解決すべきか”という問題すらわかりません。逆に目指しているイメージがあれば、それを共有することで、目的に合った研修先を紹介するなど、周囲もサポートがしやすくなります。人材を雇う際にも、私たちのような会社から、目的にマッチした人物を紹介することができます」
しかし、目標設定といっても、どのように行えばいいのでしょうか。もし具体的な目標が思いつかない場合は、“農業をやりたいと思った瞬間、頭の中に何を思い浮かべたか”を思い出してみることが大切なようです。「農業は、その人の人生そのものにかかわってくる仕事です。『田舎で暮らしたい』→『どんな暮らしがしたいから田舎なのか?』→『その暮らしができる田舎はどこか』といったように、農業をやりたいと思ったきっかけとなるイメージから突き詰めていくことで、具体的な目標へとつながっていきます」
「人生で何がやりたいか」と向き合える環境に身を置く
人に話を聞いてもらうことで、初めて目標を自覚することもあるそうです。例えば移住した時、「何がやりたいの?」と聞かれたり、意見を否定されたり、深堀りをしてもらうことで、「やっぱりこれがやりたい!」と自分の考えがブラッシュアップされていき、一人では見つけられなかった意外な気づきを得ることも。「移住先で暮らし始めてから目標を見つけた人もいたり、人それぞれ。モデルルートはありません。人生に寄り添った仕事の目標を見つけるのだから、時間がかかるのは自然なことだと思います」
「人生で何がやりたいか」と真剣に向き合える環境に身を置くことが、目標設定の大切なポイントのようです。先輩農家と話したり、セミナーに参加したりするなど、まずは、真剣に考えるきっかけを作るための行動を起こしてみましょう。
農業を行う上で掲げる目標は、単に「儲けたい」「ビジネスとして成功させたい」といったものではなく、個人としてどのように生きたいかを見つめることから始まります。しかし、それを叶える手段として、ビジネス的な視点が必要なようです。まずはしっかり自分と向き合いながら、目標を設定するところからスタートしてみてはいかがでしょうか。