減らすのが難しい廃棄野菜の現状と「おやさいクレヨン」の取り組み
環境省の発表によると、2014年度における国内での食品廃棄物等は約2,842万トンで、このうち、まだ食べられるのに捨てられている食品ロスは約646万トンです(※1)。農作物は、規格に合わないことや旬の時期に同じ作物が大量に穫れること、作物に虫がついたり病気になったりしてしまうことなどから、どうしても廃棄せざるを得ないことが多いと考えられています。
こうした廃棄野菜を有効活用しようとさまざまな取り組みが行われています。そのうちmizuiro株式会社は、野菜をクレヨンにするというアイデアを生み出し、同時に廃棄野菜を利用することで、注目を集めています。今回は、mizuiro株式会社の木村尚子社長に話を聞きました。
木村尚子(きむら・なおこ)さん プロフィール
青森市出身、弘前市の専門学校にてデザインソフトを習得。県内の情報誌会社、デザイン会社などを経て2012年に独立し、同市にデザイン事務所「デザインワークスSTmind」を開設。
2014年3月、野菜の粉末を原料にした、「おやさいクレヨンvegetabo」を発売。2014年9月に法人化し、「mizuiro株式会社」を設立、代表取締役を務める。
「おやさいクレヨン」はアイデアから生まれた
――「おやさいクレヨン」は、いつから発売されてこれまでどれくらい販売されたのですか。
2014年の3月に発売されて、これまでに約10万セットを出荷しています。発売当初はここまでの売り上げを想定していなかったので、多くのお客様に購入してもらえたなと嬉しく感じていますね。
――どのような野菜が使われているのでしょうか。
使っている野菜の約8割は青森県産で、青森発の製品というところにこだわりを持って作っています。青森県が生産量で全国1位のカシスやリンゴを使っているのもそうした理由からです。
――クレヨンの色に、素材の名前をそのまま付けているのですね。
「カシス色」「りんご色」というように、素材の色名をつけています。私たちは文房具メーカーから始まったわけではなく、あくまで青森発の今までにないジャンルの文房具を作りたいという思いが根底にあります。今までの色の既成概念に基づかないことで、新しい提案をしたいと考えました。あえて無理をして配色せずに、野菜そのものの色を楽しんでもらいたいと思っています。

カシスの加工品を作ったあとに残る部分
――クレヨンはどうやって作っているのですか。
たとえばカシスなら、加工品を作った後に残る部分を再利用しています。また、リンゴは皮の部分を乾燥させて、パウダー加工してクレヨンに配合しています。成分としては、作物をパウダー状にしたもの、ライスワックスという米ぬかを絞ったときにとれる油、そして食用色素を使っています。野菜もライスワックスも、本来は廃棄される部分を活用していて、食用色素は、製品の安定性を高めるために入れているのですが、クレヨンに使われることはほとんどないと聞いています。

「おやさいクレヨン」はこうして作られている
――すべて食べられる素材ですが、こだわっておられるのでしょうか。
クレヨンを一番よく使う年齢層である子どもたちは、何でも口に入れてしまいますよね。私も娘がいるので、消費者である親の気持ちがよくわかるんです。自分も母親なので、娘が使ってほしいと思えるものを作りたいと考えて、口に入れても安心な素材だけを使うことにこだわりました。
「自然由来の色」への興味から生まれた「おやさいクレヨン」
――木村さんは「おやさいクレヨン」を作られるまで、どのようなことをされていたのですか。
元々地元の制作会社で、編集や広告制作などデザインの仕事をしていました。出産後にワークライフバランスを考える中で独立したのですが、その後自分が生まれ育った青森県の魅力を表現する商品やお土産を開発してみたいと考え始めたんです。
そこで、たまたま藍染めの展示会に行ったときに目にした「自然由来の色」に心を奪われました。元からデザインの仕事をする中で色に興味はあったのですが、パソコンで作業することが多かったので、「自然由来の色」の美しさに改めて気づかされたのです。
――そこから、「おやさいクレヨン」の開発が始まったのですか。
始めは野菜から色を出して商品化できないかと考え始めて、県の助成を受けながら商品開発を行うことになりました。9か月以内に商品開発、制作、パッケージなどデザインの確定までしなければならず、その時期は正直言って大変でした。
――デザインの仕事から、文房具作りをするのはまったく違う分野のように思えますが、どのような苦労がありましたか。
これまで画材としては使っていたので文房具に馴染みはあったのですが、作ることに関しては全くの素人でした。クレヨンを作ろうと決めてから、作ってくれる工場を探したのですが、以前からのつながりもなかったので、全国から業者を調べて、企画を持ち込むという流れも大変でした。自分にとって未知の世界でしたし、ずっとデザインの仕事をしてきて営業も開発も初めてだったので、その点は苦労しましたね。
ただ、知らない世界に飛び込んだことによってできるかできないかを自分で判断せず、制限をかけずに取り組めたという部分は大きかったと思います。

加工される前の規格外のキャベツ
――製品としてクレヨンを作る上で苦労したことはありましたか。
素材の野菜を提供してくれる農家さんや野菜の加工会社も探す必要があったので、初めは大変でした。企画を持ち込んだときはその内容に驚かれましたが、廃棄野菜を使うということで、前向きに受け入れてくれましたね。
その後試作ができるたびに見せに行って、アドバイスをもらいました。それぞれの立場から意見や助言をもらうことでどんどん精度が上がり、製品として確立していくことができたと思います。
――使えなかった野菜もあったのですか。
たくさんの野菜で試作を作りましたが、商品にならなかったものもたくさんありますね。作ることができても、生産量が足りなかったり季節によって状態が変動したりすることもありました。通常、クレヨンではそういったことはありえないのですが、野菜が原料ですから仕方ない部分ですよね。最終的に、安定して作ることができる野菜を選び、無事に「おやさいクレヨン」を発売することができました。
廃棄野菜から「メード・イン・ジャパン」いう価値をこれからも広げたい
――「おやさいクレヨン」は廃棄野菜を使う取り組みとしても注目されていますよね。
「おやさいクレヨン」は、廃棄野菜を解決しようと始まった取り組みではないのですが、今回私たちの需要にぴったりと合致しました。実はこの商品を開発するまで、自分の目で廃棄野菜の現状を見たことはなく、大きな危機意識を持っていたわけではありませんでした。ただ今は、私たちが解決できるのはわずかだとしても、少しでもアプローチして取り組みたいと思っています。
――「おやさいクレヨン」を作るうえでも、廃棄野菜だからこそ商品の強みになっているという側面がありますよね。
まず子どもたちにとっては安全性が提供できますよね。そして、コストも削減できます。さらに私たちは、この商品を通して廃棄野菜のことを知ってもらい、当然のように捨てているものでもまだまだ使えることに気づいてもらいたいと思っています。
たとえば、お弁当や給食も残さずにちゃんと食べるという当たり前のことを学ぶきっかけになってほしい、そういった部分でも役に立ちたいですね。

「おはなのクレヨン」は限定数2000個で販売された
――「おやさいクレヨン」以外にも、「おはなのクレヨン」や「おやさいねんど」を開発し、販売されていますね。
「おやさいクレヨン」を作る中で、ほかにも現場で捨てられているものがあるという話を耳にすることが多くあったんです。そう聞いてぜひ商品にしたいと思い、野菜だけの着色にこだわった粘土や、間引かれた花の花びらを使って作ったクレヨンも開発しました。
――これからの展望はありますか。
これからも新しい商品ラインアップを増やして、青森発の企業として定着していきたいという気持ちが大きいです。また、国産野菜で作っており、「メード・イン・ジャパン」であることが強みなので、ずっとこだわっていきたいと考えています。
これだけさまざまな種類のクレヨンがある中で「おやさいクレヨン」を選んでもらえることから、環境問題や食育、国産の製品への関心の高さを改めて実感しています。私たちにも商品をどんどん新しく提案する使命があると感じているので、ぜひメーカーとして確立させていきたいですね。
※1 我が国の食品ロス・食品廃棄物等の利用状況等(平成26年度推計)の公表について(環境省)
写真提供:mizuiro株式会社