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農業女子を書いた小説が話題に 瀧羽麻子さんが紡ぐ等身大の農業

農業女子を書いた小説が話題に 瀧羽麻子さんが紡ぐ等身大の農業

デビュー以来、若い女性読者の共感を呼ぶ恋愛小説などを世に送り出してきた瀧羽麻子(たきわ・あさこ)さん。その瀧羽さんが新作に選んだテーマは、農業でした。月刊誌「小説宝石」(光文社)で連載中の連作短編は、各話で異なる“農業女子”を主人公に、農業者の現実をくみ取った丁寧な描写が魅力。「農業はすごく小説的」と語る瀧羽さん。身近に感じられるストーリーはどのように生まれているのでしょう。話題作家がとらえた「農業と女性」とは。(イラスト:高橋ユミ)

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農業と女性のライフスタイルが小説に

瀧羽麻子さん(撮影:浅野剛)
 

年齢も立場もさまざまな“農業女子”が登場

女性の農業者が主人公の連作短編小説が、「小説宝石」で2018年4月にスタートしました。著者は、最新刊「ありえないほどうるさいオルゴール店」でも話題の作家、瀧羽麻子さんです。
登場する“農業女子”たちは、SEから転職して就農したアラサー女子や、幼い頃出会った男の子と20年以上を経て再会するトマト農家女子など。仕事や恋愛や家族や友達など、それぞれに悩みは違っています。

女性ならではの視点が光るストーリー

連作短編の挿絵の数々(イラスト:高橋ユミ)

「小説宝石9月号」で発表された最新話「アスパラガスの花束」は、長崎の農業大学校に入学して、女子寮で生活を始めた19歳の学生が主人公です。
同級生40人のうち、女子は4人だけ。「卒業したら農家になろうと思とるけん」と言えば「家も農家やなかとに、なんでわざわざ?」。やる気と熱意を持って入学してくる場所だと思っていたのに、たるんだ態度で授業を受ける他の子たち。
気が合わないし、1人でいるほうが楽なのに、仲良くしようとしてきて……。
という、もしかしたら読者も身に覚えがあるのでは、というようなエピソードもあり、すんなりと入り込める内容でありながらも、意外性のあるストーリーになっています。

レタス、トマト、アスパラガス……1話ごとに異なる舞台

「アスパラガスの花束」は長崎の農業大学校へ取材に(写真は取材中の様子)

「アスパラガスの花束」は長崎県諫早市が舞台ですが、連載の最初に発表された「夜明けのレタス」は群馬県昭和村、続く「トマトの約束」は石川県小松市が舞台でした。
農作業のディテールの細かさや、全国各地の地名が具体的に出てくるのも、この連作短編の特徴です。

取材を基にして、なじみのなかった世界を書く

仕事の進め方や年間スケジュール、就農背景などを聞いて小説に落とし込む(写真は取材中の様子)
 

“農業女子”を取材しての創作

著者の瀧羽さんは、実家が農家でもなく農業が身近でもありませんでした。
「農業は未知の世界で、まったくの素人。取材では本当にびっくりすることばかりで勉強中です」と話します。
もともと農林水産省の“農業女子PJ(プロジェクト)”から「“農業女子”を題材に、楽しんで書いてくれる作家はいないか」と出版社に話があったことが執筆のきっかけでした。
「取材からフィクションを構築する力が優れている」と担当編集者から太鼓判を押され、さらに子供の頃から「野菜ばかり食べないで肉を食べなさい!」と言われるような野菜好きの瀧羽さん。
“農業女子”を取材した創作は2017年12月に始まりました。

 
【農業女子PJの記事はこちら!】全国で活躍する農業女子PJメンバーインタビュー

日本各地の実際の地名を登場させる理由

小説の特徴である「地名を登場させること」は当初からのアイデアでした。
「農業は土地に根付くものなので、その場所を生かして書きたい。私の作品の中にはファンタジー色が強いものもありますが、今回は“農業女子” の日常をリアルに描きたいと思いました。農業の細かいノウハウや、どんな気持ちで日々の仕事に取り組んでいるのかなど。登場人物はもちろんフィクションですが、『どこかにこういう人たちがいるかもしれない』と感じさせるような、足が地についた小説にしたいと考えています」
さらに、取り上げる土地は、日本各地に散らすと決めました。そのために使ったことのない方言で書くこともあり「自分の首を絞めている(笑)」とも。

畑に踏み入ってストーリーを考える

話ごとに、ある程度のアウトラインは頭に置きつつも、細かくは決めずに取材に臨むという瀧羽さん。
例えば「夜明けのレタス」の場合は、「東京の会社で働いていた農業経験のない女の子が引っ越して就農する」という程度。「何が起きるかは、取材しながら考えていきます。取材中は、どういう登場人物をどう動かしたらいいか想像して、わくわくしています」

あふれる農業愛をくみ取って

※画像はイメージです
 

「想像以上の農業愛があった」

瀧羽さんが取材相手から感じた“農業愛”には、想像していた以上のものがあったといいます。
トマト農家への取材では、変わった形のトマトを撮った写真を見せてもらい、我が子を自慢するような姿に「キュンとしました」。第一印象は寡黙に見えても、実際は熱い思いで語り出す人もいたそうです。
どの人からもあふれ出る農業愛がありました。
「一緒に食事をとりながら、その間も『聞き漏らすまい!』とメモ(笑)。お人柄もそれぞれ個性的。そのまま登場人物に投影するわけではありませんが、キャラクターのどこかに要素は入ってくる気はします」
農業を天職として愛する人がいる一方、例えば嫁ぎ先が農家で、「嫌々始めたけど、ちょっと面白いかも」というかたちの“愛”もあるだろうと瀧羽さんは想像しています。さまざまな女性の生き方が今後も描かれる予定です。

自分と地続きである世界を小説に

「取材していて思うのは、私のような門外漢の人間にとっても、農業は決して遠い世界の特殊な職業ではないということ。たとえ東京で会社員をやっていても、農家の女性に共感できる部分や、相通じる部分はある。もちろん農業特有の苦労もあると思うのですが、当然ながら恋愛や家族関係などの悩みもあって、身近に感じました」
こうした思いから瀧羽さんが小説に込めるものは何なのでしょうか。
「自分の知らない場所や人が、意外に地続きにあることを知って、世界がひらける……それが小説を読む楽しみの一つではないかと思います。今回は農業に焦点をあて、私の感じた魅力を小説に託しています。農業は従事する年齢層も広く、人それぞれの向き合い方があって、人生がある。一人一人のドラマを通し、農業の魅力を感じていただけたら嬉しいです」
描かれるのは、農家というくくりを超えた、一人一人の女性。等身大のストーリーは、誰しも、どこか重なる部分があることでしょう。

 
光文社「小説宝石」

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