食料不足でなく、タンパク質不足
途上国を中心に経済発展が進み、各国で中間層の消費力が高まってきました。食事は米やパン等の炭水化物中心のものから、嗜好品として肉や魚介類といったタンパク質を消費する傾向が出てきました。国連食糧農業機関(FAO)によれば、一人あたりの肉消費量は、1960年代の約23キロ/日から、2013年には約43キロ/日と倍増しています。
2050年には肉の全体の消費量が現在の約2倍になると言われ、将来的な供給不足が懸念されています。また、肉や魚介類の生産拡大による地球環境への負荷も問題視されています。この問題は「タンパク質危機」と呼ばれ、肉を中心とした既存のタンパク質源を置き換える食品が求められています。
世界中で注目される人工肉

Impossible Foodsのパティ
肉が足りないのであれば作ってしまおう。そんな発想で人工的に肉を生産するベンチャーがあります。米カリフォルニア州を拠点とするImpossible Foods (インポッシブルフーズ)は植物から人工的に作った肉を販売しています。主力商品はバーガー用のパティで、現在1000軒以上のレストランでハンバーガーとして提供されています。彼らの優位性は植物性食品を肉の食味に近づける技術です。同社は、技術を確立するために肉を構成する物質を徹底的に分析し、ヘモグロビンなどに含まれる「ヘム」という物質が肉らしさを作るのに重要だと発見しました。酵母を使ってヘムを作り出し、それを大豆やきのこ類と混ぜて、肉のような食味を作り出しています。実際に食べた消費者からは、「植物由来だと言われればわかるが何も言われなければ違和感はない」水準まで食味を肉に似せる事に成功しています。現在、ビル・ゲイツ等から累計約390ドル(約4.4億円)の資金調達を得て、研究開発と事業拡大を進めています。
他にも人工肉の領域には、Beyond Meat(ビヨンドミート)というベンチャーがあり、Impossible Foodsのように植物由来の肉を販売しています。ちなみに、日本でもインテグリカルチャーという人工肉培養のベンチャーが最近注目を集めています。
日本でも食べていた昆虫食がオシャレに生まれ変わる

画像は昆虫食のイメージ。粉末にしてクッキーなどに使用することも(EXOの商品ではありません)
タンパク質は、肉や魚だけではなく、昆虫にも含まれます。なので、昆虫を食べればよいのではないかという考えが、国連食糧農業機関をはじめ世界に広がってきています。突飛なアイデアにも思えますが、日本も含めアジアではもともと昆虫を食べる文化がありました。中国やタイではコオロギやイモムシが日常的に食されている上、日本でもイナゴやハチを食べる習慣はありました。
昆虫食というとグロテスクな見た目の虫をそのまま食べるイメージを持ってしまうかもしれませんが、最近の昆虫食ブランドはそのイメージを払拭(ふっしょく)するおしゃれなブランドイメージを作っています。
例えば、アメリカ拠点のEXO(エクソ)はコオロギを使ったプロテインバーを製造・販売しています。アスリートをターゲットにしたマーケティングで販売を進め、累計約500万ドル(約6億円)を調達しました。興味深いことに、日本の電通ベンチャーズ(電通が運用するベンチャーファンド)も出資しています。
この会社の他にも昆虫入りのチップスやパスタを販売するベンチャーは数多くあります。その多くが健康的で環境に優しいといったブランディングを行い、グロテスクさや奇抜さで売っているのではない事がわかります。
今回は、現在の食文化ではまだ理解しがたい人も多いと思われる、人工肉と昆虫食というトレンドを紹介しました。今は信じられませんが、もしかしたら、数十年後には当たり前の姿になっているかもしれません。
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