家庭菜園でナスを植えている人は最も多いように見えますが、ナス本来の能力を50%でも発揮させている人はごく一握りのようです。
一般的に4月下旬頃販売される苗は、おおよそ1~2月に播種(はしゅ)されています。ナスの一年間を見てみると、8~9月までかけて急激かつ長期間にわたって枝葉を茂らせ、涼しくなってきてようやく生育が鈍くなっています。
また、それだけ枝葉を茂らせながら次々と花をつけ、実をならせていきますから、ナス科作物の本領を発揮させることができれば、1本のナスの株で100本以上はゆうに収穫することができるはずです。
定植~活着期
最近では4月の上中旬頃から夏野菜の苗が店頭に並ぶようになりました。
苗木業界は、早ければ売れるし、失敗してまた買いにくるしと、年々早売り競争になっていますが、「苗半作」と言われるように、苗の選択が栽培の半分を決定するとも言われます。優良苗の入手は必須です。少なくとも売れ残りの品質が劣る苗で一年間栽培する訳にはいきませんから、売り出されたからには買わざるをえません。
購入時期に合わせて急いで畑を用意したり、時期が早いのに植えつけたりするようなことはやめましょう。5月のゴールデンウイークが過ぎてからでも十分に間に合いますし、好条件で植えられたナスはあっという間に悪条件の早植えナスを追い越していきます。
苗が小さくても、できるだけ葉が大きく、茎が太いものを選びましょう。背丈ばかり大きくて茎が細く葉も小さいようであれば、花が咲いていてすぐにでも収穫できそうに見えても、選んではいけません。
土壌条件を整えておくためにも、できるだけ早いうちから畑の準備をしておきましょう。
堆肥(たいひ)と石灰を入れて耕し、できるだけ高く、広い畝を立ててください。11月まで使う畝ですから、一生懸命やってあげましょう。長期間の栽培になるのでマルチング(土の表面をビニールやわらなどで覆うこと)を推奨します。
耐病性のある接ぎ木苗であれば、連作も可能です。ホームセンターの苗で台木の品種が分からないようであれば、少なくとも3年間はナス科を植えていない圃場(ほじょう)を選びましょう。最悪最凶の青枯病(あおがれびょう)や半身萎凋病(はんしんいちょうびょう)の心配が軽減されます。
平均的に、高さが20~30センチ、畝幅130センチほどの畝を立て、60~80センチ間隔で植え付けます。2本仕立て(※)なら株間50センチでもなんとかなります。3~4本仕立てなら70~90センチほど悠々ととっても隙間は埋まります。
※2本仕立て:主枝のほかに脇芽1本を第2の主枝として伸ばしていく育て方。主枝をさらに増やすことにより3本仕立て、4本仕立て……となる。
粒状の殺虫剤を植穴にひとつまみ入れておけば、定植後約20日間、この時期の天敵アブラムシなどの被害は免れますのでお薦めします。
家庭菜園において、「行灯(あんどん)」は必須と考えましょう。以降の生育が全く違います。
仕立て(誘引・整枝)
行灯を飛び出して草丈が50センチ程度になったら誘引(※)することができるようになりますが、それまでに約1カ月を要します。その間にしっかりとした支柱を組んでおきましょう。
※誘引:茎や枝を支柱などで固定し、倒れるのを防いだり、成長の方向を調節したりすること。
菜園現場では、いろんな人がいろんな工夫をして仕立てています。どんな仕立てをしているのか、よその畑を見学してみたり、インターネットで検索してみたりしても良いでしょう。
最も一般的なものは、園芸用の竹状の支柱を使用した下図のような形。
安価で組みやすく、誘引する直前で組んでも間に合います。しかし、強風に弱く、栽培途中で崩れちゃったという経験を持つ人も多いでしょう。支柱に更に補強を加えたり、ひもで引いてみたりして調整してください。
下図のようにひもでつるすやり方もありますし、畝の数が多い場合はキュウリネット用のアーチパイプなどを応用しても良いでしょう。他の夏野菜の仕立てにも使えます。
どの仕立てでも、倒れなければ構いません。
基本的に一番花(最初に咲いた花)より下の脇芽は全て除去してしまいます。できるだけ小さなうちにとりなさいとよく言われますが、実は生育初期はまだ葉の数が少なく、脇芽の葉も充分に戦力として働いています。三番花が見えるくらいまでは残しておいた方が初期成育にはプラスの側面が大きいようです。
そのころになったら、将来主枝に選ぶべき勢いの良い枝も判断しやすいでしょう。基本的に一番花の上下に発生する強い枝を使用します。ただし、台木(接ぎ木の元である根に近い部分)から出てくる芽は早めに除去しましょう。
一番果は摘果した方が良い?
ナス栽培において最も相談が多いのは一番果についてです。実はナス栽培においてそこまで重要なことではないのですが、中~後半のすさまじい勢いと収穫に追われる猛暑の最中よりも、栽培初期のまだまだ皆さんやる気満々の時期ですから、相談も多いのかもしれません。
「一番果はとった方が良い!」「いや! なり癖をつけるために残した方が良い!」
いろいろと言われていますが、結論は、「状況によりけり」です。
葉が大きく、茎も太く、生育順調で樹勢の強い時は、残しておいた方が花が咲き実を結ぶ「なり癖」と言われる成長に傾きやすく、収量が上がります。逆に樹勢が強くもないのに一番果を残していては、小さな体で果実を養わなくてはならず、木自体が完全に弱ってしまい大幅に収量を減らします。場合によっては二番果、三番果まで落とした方が結果増収することもありますので、そのときのナスの木に尋ねながら判断しましょう。
肥料と水やり
二番果の収穫頃から2週間に1回、化成肥料8-8-8(数字は窒素・リン酸・カリウムの割合を表します)をお持ちであれば一株あたりおよそ50グラム、一握りをばらまいていきます。1~2回目の追肥だけはマルチをはがすか、穴を開けてでも畝の中に放り込む必要がありますが、6月下旬頃からの追肥は、普段歩いている通路部分にばらまきしても充分に効果があります。暑くなってくると追肥もおっくうになり、ついつい株を弱らせてしまいがちですが、通路にばらまくだけならすぐに終わりますね。
そして何より水管理は非常に重要です。ナス栽培では肥料より水が足りていないことの方が多いようです。梅雨明け以降は、水をやればやるだけ綺麗な実がたくさんなります。
いつも生育中盤からは葉がボロボロになり、立派なナスができないという人は、窒素・リン酸・カリウムの肥料以外に、マグネシウムとカルシウムの不足であることが非常に多いです。いわゆる“苦土”と“石灰”ですが、液肥が手に入る人はぜひ定期的な葉面散布に挑戦してみてください。劇的に改善する場合があります。
病害虫
最も被害の多い害虫はテントウムシダマシ、カメムシ、ハダニ、オオタバコガになるでしょう。アザミウマやハダニは家庭菜園ではある程度黙認したほうが良いでしょう。どちらも専門的な薬剤が必要になります。この二つに目をつむればホームセンターの安価な有機リン系殺虫剤(スミチオンやマラソンなど)で対応可能です。
最近はプロの現場でも農薬散布より天敵利用を重視することが増え、研究も進んでいます。マリーゴールドやオクラ、ソルゴーなどをコンパニオンプランツ(※)として植えることで、アザミウマやハダニの天敵が増え、今まで後半はガサガサの汚い肌になっていたナスが、秋までピカピカ!なんてことが家庭菜園でも可能になるかもしれません。
※ コンパニオンプランツ:一緒に植えることで病害虫を予防したり生育を助けたりするなど、互いに良い影響を与え合う植物のこと。
収穫・剪定(せんてい)
ナス栽培のとき、皆さん支柱を立てて誘引はするのですが、仕立てきれないまま茂らせっ放しのことも多いようです。2本仕立て、3本仕立てといいながら、結局途中で10本仕立てや20本仕立てになってしまい、お盆には木が疲れ切っておいしい秋ナスにたどり着けていないことが多いです。
基本は、ナスの収穫と剪定作業は常に並行して行われます。
3本に仕立てたとすると、3本の主枝はずっと真っすぐ伸ばして誘引していき、7月中旬頃に摘心します(主枝の先端を切り詰める)。トマトでしたら主枝に生えてくる脇芽をひたすら除去しますが、ナスはその脇芽で収穫ができます。
しかし、その脇芽の果実だけを収穫すると、脇芽の脇芽からまた枝が生長し、あっという間にジャングルになっていきます。
そのため、ナスの収穫は脇芽の根元で枝ごと切り取ります。脇芽に一つならせて収穫すると、また同じ場所から脇芽が伸びてくるので、同様に枝ごと収穫します。
これを繰り返すことで、同じ場所で何度も何度もナスを収穫しつつ、全体が茂りすぎずに5カ月間ずっとコンスタントに収穫し続けることができます。実の付きが悪くなった木全体を短く切り詰めて回復させる「更新剪定」と呼ばれる作業も必要ありません。一時に有り余るほどならせ過ぎて株が疲れているということがないためです。
この収穫方法をきちんとできるかどうかが菜園ヒーローへの第一歩です。