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生花に減農薬・無農薬を広げたい! 生花店わなびやの挑戦

生花に減農薬・無農薬を広げたい! 生花店わなびやの挑戦

減農薬・無農薬に限定した生花店「わなびや」は、いろいろなものにあふれている東京にあっても珍しい生花店です。同店の店主、古庄佳苗(ふるしょう・かなえ)さんがお店をオープンしたのは2009年。開店前には、興味を持った有機農業を実際に体験しました。生産者の声を聞いて現場の実情を知ったうえで、減農薬や無農薬の花という選択肢を消費者に提供したいと語る古庄さんに、その思いに至った経緯などについて聞きます。

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自分でも経験したからわかる、無農薬の難しさ

無農薬の花がないなら自分で育てよう!と農業へ

幼い頃から環境問題に関心があったと言う古庄さん。農業系の短大を卒業した後は、生花を扱う会社に就職。この時期、もともと持っていた環境問題への意識が、日々花に触れる中で強くなり、「花屋も環境に配慮していきたい」と考えるようになりました。
無農薬の花がないか調べたところ、当時(2000年ごろ)はインターネットでも見つけることができなかったそうです。それならば自分で育てようと決め、有機農業を学ぶため住み込みで農作業をしたり、過疎地で地域おこしをする農業系のNPOのスタッフになったりと経験を重ねました。
実際に、畑の開墾をして、大豆や野菜を育てた後、無農薬でハーブと花を育ててみた古庄さん。「無農薬で作物を育てる難しさは、(自分が育てていた)規模なりに痛感しました。苦しんでいる時に農薬があったら、欲しくなるだろうな、なんてことも思いました」
また、実際に会って話す中で、無農薬が理想だとは思っていても経営を考えると移行できないという悩みを聞いたり、取り組んだけれども諦めたという生産者に出会ったりしました。それらの経験から、理想に対してストイックになりすぎず、現実とのバランスを考えるようになったと言います。

実情を踏まえて、減農薬・無農薬の生花店としてオープン

東京都豊島区にある「わなびや」。現在も店舗はあるが、基本はインターネットでの注文となっている

無農薬の花卉(かき)生産農家探しも続けていましたが、完全に無農薬の花卉生産をしていた農家は1軒しか見つからなかったそうです。「理想としては完全な無農薬がよかったのですが、化学農薬を減らそうと努力している生産農家さんも応援する気持ちで、減農薬のお花も扱うことにしました」
生産農家とのつながりができ仕入れ先の目途もついた2009年に無農薬・減農薬の生花店として「わなびや」をオープン。
オープン翌年の2010年には、従来の花卉に加えて、ハーブを取り入れたブーケやアレンジの販売を始めます。ご主人のつながりで以前に出会った無農薬ハーブ園から、ブーケ用にハーブを仕入れられることになったのがきっかけ。古庄さんもその前から、ハーブなら無農薬でも作りやすいかもしれないとは考えていたそうです。
ハーブのブーケは、その後サラダセットへと商品展開していきます。今では、花卉とともにハーブをも取り入れたセレクションを持ち、親子参加もできるワークショップの開催なども行っています。

商品の一つ無農薬のブーケ。見て楽しんだ後は水洗いをしてサラダやお茶として楽しめる

減農薬・無農薬の花という選択肢を作りたい

無農薬・減農薬の花の魅力

「これからは、お花も、作る人・活ける人・眺める人、そのすべての人の健康を考え、さらに未来の地球環境も考える必要があると思っています」という古庄さん。
古庄さんは、化学農薬を使用すること自体は、完全に否定はしないと言います。「むやみに怖がらせるような広め方をするつもりはないです。慣行栽培のお花と、減農薬と、無農薬のお花があって、その中から選べるという状況を作っていきたいと思います」

無農薬の草花で作ったアレンジメント。アレンジメントやブーケは、スポットでの販売とともに定期便も用意している

仕入れられる種類が少ないという悩みを営業形態で乗り切る

生産者からは「どんなお花を作ったら良い(買いやすい、売りやすい)ですか?」と相談されることも多いそうです。そんなとき古庄さんは、品種などを具体的にリクエストすることももちろんあるものの、できれば多品目を作ってほしいと伝えているとのこと。
減農薬・無農薬に限定すると、仕入れられる花やハーブの種類にどうしても限界がある、と古庄さんは言います。それもあって、オープン当初は月10日ほど営業するスタイルをとっていたそう。そうすれば、毎月入荷するものが多少変わり、いつも同じ種類ばかりという印象にならないようにできたそうです。「それに、子どもがまだ1歳ごろだったので、子どもと私自身へのストレスも少ない営業形態を試してみたかったのです」
現在は受注を受けての販売を中心にしているので、より花材を無駄にすることなく、注文ごとに違ったものを作れています。

志ある生産者を応援したい!

直接会って、信頼できる農家さんと取引をする

取引のある農家でハウス栽培されている減農薬・無農薬の花

古庄さんの「安心できる花を届けたい」という思いから、仕入れる花卉について、独自の基準を設けています。無農薬・減農薬が基本で、無農薬の花としては有機栽培と自然栽培のものを扱っています。
しかし「減農薬」の花卉は、特に規定がありません 。そのため、「MPS(※1)やエコファーマー(※2)などの認証認定を持っている方の他、特に認証が無くてもお話しをしてみて、一緒に頑張っていけると思えた方のお花は頂いている」そうです。
現在の仕入れは、農家からの直接仕入れと市場を経由しての仕入れが半分ずつほど。大事な花卉やハーブを無駄にせず、ロスを出さないためにも、その都度の判断をしています。互いにとって市場経由での入手の方が都合良い場合には市場ルートで仕入れ、近しいハーブ園などの場合は古庄さんが直接農家まで収穫に行くこともあると言います。

※1 花大国オランダ発祥の、花卉生産者と流通業者を対象とした認証システム。農薬や肥料、エネルギー、水の使用や廃棄物の分別など、複数の環境負荷要素について審査される。2014年時点で世界約55カ国、4000団体が認証を取得しているという。

※2 「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続農業法)」に基づいて認定を受けた農業関係者のこと。

思いに共感する生産者のアイテムを取り入れて

無農薬ハーブ&エディブルフラワーつめ合わせ。希望すれば、エディブルフラワーのドレッシングがつく

わなびやでは、アレンジメントやブーケを販売する他に、有機や固定種の野菜や草花の種、土、フェアトレードのバスケットなど、こだわりのアイテムを販売しています。どれも生産者の思いやもの作りの姿勢に共感して選んだものです。
ブーケやハーブのセットに使うケースやポットには、メードインジャパンで有名な野田琺瑯のものを使用。こちらは、野田琺瑯の社長夫人との出会いがきかっけで生まれたコラボレーション商品です。

また、ハーブ商品の一部につくドレッシングは、付き合いのあった有機農家の開発したもの。「開店当時から切り花を卸していただいていた農家さんです。2012年に大雪でハウスが倒壊して、それ以降はエディブルフラワーの加工品作りに注力されることになりました。ぜひ当店でも紹介したいと考えて、ハーブとセットにして販売することにしました」
じっくりと取引したい相手と向き合い、長期的な関係を作っていく古庄さん。信頼関係の強さが、新商品のアイディアにもつながっているようです。

減農薬・無農薬に関心があるお花屋さん、生産者さんへ伝えたいこと

最後に、古庄さんから、これから減農薬や無農薬の草花を取り入れてみたいと思っている生産者や生花店の方へメッセージをもらいました。

「無農薬だから何でもかんでも素晴らしい!とは言いません。無農薬のお花はすべてが長持ちするわけではないですし、今の市場で優秀とされているような大きくて長いお花がよくできるわけでもないです。オーガニックは高く売れそうだからとか、単にビジネス上の視点だけでは、取り扱いを続けるのは難しいかもしれません。
それでも減農薬や無農薬のものを、ぜひ取り入れてほしいです。ご興味があれば、私の知っている農家さんをお伝えすることはできますし、新しい農家さんがいれば、ぜひ教えていただきたいと思っています。
私は未来の地球環境に対して、自分の仕事の中でできることをしたいと思って取り組んでいます。それぞれの方が減農薬・無農薬に思いを持って、取り扱うことにやりがいを感じて頂くといいなと思っています」

【取材協力・写真提供】わなびや

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