平本貴広(ひらもと・たかひろ)さんプロフィール
横浜市神奈川区の羽沢地区で江戸時代から続く老舗農家の12代目。 敷地面積3000坪(約1ヘクタール)の土地で多品目栽培を行う平本ファームでは、年間100種類以上の野菜を出荷している。 また、神奈川県の気鋭農家グループ・神七(カナセブン)の一員として神奈川県の農業を盛り上げる活動にも従事。 |
課題1 神奈川県の農業の活性化
——平本さんは野菜を作ることのほかに神七としても活動されていますが、最近はどんなことをされているのですか?
神七はそれぞれが地域を引っ張っていけるようなメンバーの集まりなので、今は各メンバーがやるべき事を考えて活動していることのほうが多いですね。僕の最近の活動は、毎月第3土曜日に「横浜北仲マルシェ」で、神七ブースを設けて野菜を販売することです。神七のアピールの場になっていますね。
——今後、神七が目標にしていることなどはありますか?
神七が主になって「百姓一揆会」という名前で、県内の農家100人を集めて交流会をやった時に、神奈川県内でも場所によっては「販売先が足りない」という声を聞きました。そういう農家さんにこちらから販売先を紹介できないかと考えています。そこで出てくる永遠の課題が“物流”なんですよね。僕らは作物を作ることがメインの仕事なので、物流までやろうとすると本業に手が回らなくなって作物のクオリティーが落ちてしまうなんて本末転倒なこともあって。なので最終的には神七で流通まで手掛けられたらと模索しています。
課題2 子どもの野菜離れを克服するための食育
——平本さんは食育にも力を入れていますよね?
そうですね。毎年やっているのは、子どもたちとの収穫体験とバーベキューです。おもしろいのは、自分たちでとった野菜をその場で食べさせると、野菜嫌いの子でも「おいしい」と言ってばくばく食べるんですよ。都内でも食育のイベントをやっているんですが、その際もなるべくとれたての野菜を持って行って食べさせます。ここでも同じように、子どもが進んで野菜を食べますよ。親御さんによく「何が違うんですか?」と聞かれるんですが、「僕が朝とってきたもので、鮮度が全然違います」と答えます。野菜も生き物なので、時間が経つほど蒸散して野菜の水分が減って、食感や味が変化していく。そうなるとエグ味や苦味など嫌な部分が際立ってしまうんです。ピーマンやナス、ニンジンが苦手な子どもは多いですが、うちでとれたてのピーマンを食べさせると「甘い」と言いますね。子どもが野菜を食べると、必ず親御さんは購入します。だから子どもに野菜を好きになってもらうことは、最大の販売促進なんです。
課題3 農家サイドの意識改革
——平本さんは“作る”だけではなく、その先のマーケットを考えた農業の形を体現されていると感じます。市場ではなく直売で作物を出荷するうえでのポイントを教えてください。
地元で「はざわ育ち」というチームで動いているんですが、最初は市場出ししていたメンバーも最近はほとんど直売に切り替わってきています。市場だと自分が苦労して作ったものに自分で値段をつけられない。「相場」と言われてしまうと、しょうがないかと諦めてしまう農家さんはたくさんいます。僕はこれっておかしいなと思うんですよね。もちろん自分で値段をつけて販売するために、コストを削減できるところは徹底的にします。例えば、ダンボール箱を削減する方法を考えたり、出荷先のスーパーに交渉して集荷場まで野菜を取りに来てもらって物流のコストを削減したり。また、売るものにストーリーなど付加価値をつけていくことなども工夫しています。僕はいろんな農家さんの研修に行ったし、アメリカの農業も見てきたので一つのやり方がすべてじゃないと思っています。今後、農家サイドの意識改革も大事になってくるのではないでしょうか。
——平本ファームで今抱えている課題は?
去年ちょうど父親が亡くなったこともあって、平本ファームの農業の形を変えていかなければと考えているんです。飲食店やスーパーに毎日納品をしているので、年間を通して作物を出荷し続けないとならない。少量多品目なので「収穫が終わったらまた次の作物」というように、畑を片付けてすぐに次の準備をしてせわしなく作業が続きます。これまで、畑の片づけや準備などは母に任せていた部分もあるのですが、いつまでも任せていてはいけない。自分がやらなくてはと思うとまた仕事が増えてしまうので、出荷量を減らすべきかと考えていたところでした。
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さまざまな活動を精力的に行い、同時に課題も抱える平本さんのもとに、IoTを使った栽培ナビゲーションサービス「e-kakashi(いいかかし)」の実証実験を行う農場設立にあたり協力を求める相談が舞い込みます。ソフトバンクのグループ企業であるPSソリューションズが手掛けるこのサービスは、環境データを収集し気象データも利用して、科学的な知見と合わせることで作業工程や病害虫対策の計画策定を後押しするサービス。実際に行った作業も収集したデータと紐づけることができ、「経験や勘」をマニュアル化したり、共有したりすることもできます。平本さんは「e-kakashi」にどんな可能性を感じたのでしょうか?
次回は平本さんがスマート農業への挑戦を決意し、なんとその実証実験ができるようにハウスを建てて運営するための準備を始めます!
【取材協力】
平本貴広
PSソリューションズ「e-kakashi」
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