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老舗和菓子店が田んぼを借りて米を作る、その理由とは?

老舗和菓子店が田んぼを借りて米を作る、その理由とは?

江戸時代から続く老舗和菓子店の榮太樓總本鋪(東京都中央区・代表取締役社長 細田眞)は、2016年に全ての餅商品に使用しているもち米を、特別栽培米三ツ星の「マンゲツモチ」にリニューアルしました。また、「マンゲツモチ」を栽培するおかげさま農場(千葉県成田市 代表 高柳功)の一角を借り、田植えから除草、稲刈りまでの全工程を社員が行っています。老舗和菓子屋がなぜ産地に出向き、原料作りにまで踏み込んでいるのか。そのヒミツに迫りました。

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特別栽培米の米を自分たちの手で

餅菓子の原料となるもち米のリニューアルに際して、榮太樓總本鋪(以下、榮太樓)がこだわったのは歯切れの良さ。もち米というと、粘りがありよく伸びるイメージがありますが、東京・日本橋のたもとで愛された榮太樓の大福は、「せっかちな江戸っ子に食べやすく」と、歯切れの良い餅を使用しています。

加えて、美味しさと安全性を兼ね備えた品種を求めたところ、特別栽培米三ツ星(※)の「マンゲツモチ」に出会いました。弾力と力強い食感に加え、もち米本来の旨味がある品種です。また、天皇陛下が皇居内の水田で作付けされたこともあるもち米で、収穫されたお米は11月の新嘗祭(にいなめさい)などの神事に供えられることでも有名です。
この「マンゲツモチ」を委託契約栽培することになったのが、無化学農薬、有機肥料栽培にこだわる農業集団のおかげさま農場です。

※特別栽培米:その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された米のこと(平成19年 農林水産省「特別栽培農作物に係る表示ガイドライン」より)

おかげさま農場の田んぼには、様々な生き物がいる

おかげさま農場では、榮太樓の生菓子に使用する全てのもち米を委託契約栽培していますが、それだけではありません。田んぼの一角に榮太樓の社員たちが協力をして栽培するための場所を作り、一緒にもち米作りを行っています。社長から販売員まで、役職を越えて参加をします。機械を使わずに全て手作業で行っており、特に除草期間は2週間に1度のペースで田んぼに通うといいます。

こうした取り組みについて、おかげさま農場の山倉良太(やまくら・りょうた)さんは「来てもらう方も大変なんですよ!(笑)。でも、榮太樓さんや髙島屋さんと皆で一緒に作っていると、“良いものを作ろう”と気持ちが一つになります」

除草も全て手作業で行う

足で稼ぐ 原料へのこだわり

エリモショウズが作られる北海道十勝郡

榮太樓は餡にもこだわりが強く、小豆は十勝の「エリモショウズ」を使用しています。雑穀卸業者の山本忠信商店を通じて、生産者ビーンズ倶楽部が契約栽培を担います。

「エリモショウズは」、小豆のなかでも風味が菓子餡に適合していると言われており、菓子業者から絶大な人気を誇る品種です。一方で、土壌病害である落葉病に弱く、小豆は4年の輪作体系で作付けすることが一般的ですが、「エリモショウズ」は倍の8年を見越した輪作(※)が必要といわれており、栽培面積が減少しています。近年、落葉病抵抗性を有し、「エリモショウズ」並みの加工適性を持つ新品種もできましたが、長年の「エリモショウズ」ファンからは、切り替えたくないという声もあります。

※輪作:同じ農地で周期的に育てる作物を変えることで、土壌と栄養バランスを整えたり、病虫害を避ける農業手法

収穫したエリモショウズ

この生産現場にも、榮太樓社員は足しげく通います。
ビーンズ倶楽部の山崎さんは、「契約栽培といっても、十勝まで足を運んでくれる人は滅多にいません。榮太樓さんは季節ごとに農場に来ては草むしりをしてみたり、現場や原料を知ろうという熱意が伝わってくるんです。口で言うのは簡単ですが、行動するのは簡単なことじゃない。榮太樓さんの心意気を受けて、私たちも頑張ろうと思えます」

生産者が作り甲斐のある機会を

榮太樓は産地に通うだけでなく、生産者を招くこともあります。
本店で生産者が作ったもち米や小豆を使い、原料が榮太樓の商品となる過程を披露したり、消費者とともに語らいながらお菓子を食べます。
ビーンズ倶楽部の山崎さんは、「こうして自分たちのエリモが、何処に行ってどういう商品になって誰が食べているか、その道筋が見えるので作りがいがありますよ」と嬉しそうに話します。

生産者を前に、金鍔作りを実演す

おかげさま農場の山倉さんは、「仕事としてのつき合いを継続するためには、仕事を越えた気持ちがとても大切だと思っています」と言います。
共に米づくりに励み、猛暑や台風の時は一緒に心配をする。収穫の時は共に労り、美味しいご飯を食べる。
そんな生産者との関係性が、良い原料を作り、時代を越えて愛され続ける商品を生み出していくのでしょう。

* * *編集後記* * *
記事執筆にあたり、去年秋に行われた稲刈りに参加しました。田んぼには榮太樓の社員だけでなく、店舗を構える日本橋髙島屋の社員も参加し、共に汗を流していたのが印象的でした。稲刈りが終わると参加者全員で餅つきをし、つきたてのお餅と共に昼食を囲む―。
「今年は猛暑で除草作業が本当にキツかったなぁ」と笑いながら振り返る榮太樓の社員、「明日の台風が心配だね」と天候を心配する髙島屋の社員……その関係は、取引先ではなく一つのチームのような、大きな家族のような一体感を感じました。
また本文でもご紹介した、生産者を招いたイベント「餅米サミット」には、“榮太樓ファン”である消費者も参加しており、生産者から作り手、売り手、そして食べ手が全員集まるという画期的な会でした。ビーンズ倶楽部の山崎さんの言葉「筋道が見えているから、作りがいがある」は、他の農家さんにも同様のことが言えるのではないでしょうか。

【取材協力】
榮太樓總本鋪
おかげさま農場
ビーンズ倶楽部

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