植物の「生きる仕組み」を知って、ワンランク上の農家に
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植物の「生きる仕組み」を知って、ワンランク上の農家に

植物の「生きる仕組み」を知って、ワンランク上の農家に
最終更新日:2019年03月14日

植物はなぜ植物なのか。動物と何が違うのか、分かりますか?
動物は移動することができて、植物には移動する手段がない、という一つの定義に異を唱える人は少ないかと思います。我々動物から見ると、「植物さんは動くことができずに気の毒だな、動けないとはなんて不自由で健気な存在なのだろう」と考えてしまいがちです。普段植物の生育に接している農業者や菜園愛好家であっても、考えることすらないかもしれません。
私も明確にその一人でありました。この本に出会うまでは。

高度な内容を専門外の人にもおもしろく

「植物の体の中では何が起こっているのか」の著者嶋田幸久(しまだ・ゆきひさ)さんは、京都大学理学部卒、東京大学大学院博士課程修了(理学博士)後、理化学研究所のチームリーダーを経るなど、植物生理学の最先端に在る人物と言って申し分ない経歴の持ち主です。

さて、私のような文系出身の農業者からすると、この経歴のまばゆさに圧倒されて、とても理解の及ばない専門知識が羅列してあるに違いないと、言わば怖いもの見たさに本屋の棚から恐る恐る手に取った訳であります。

1ページ目で見知らぬ単語や化学式に殴打されノックアウトされるのを覚悟で開いた本書の世界は、確かに専門性を損なわない程度には複雑で、見知らぬ単語や化学式もありました。しかし、それらの言葉は予想に反して、私の頬を打つことなく、むしろ優しく私を迎え入れてくれたのでした。

共著者でサイエンスライターの萱原正嗣(かやはら・まさつぐ)さんの手腕も光ります。専門的な内容ですが、しょっぱなから「なるほど~」の連続で、特に農家や学部生にとっての植物生理学への入門書として書いたというのも納得できるような分かりやすい内容になっています。

植物を語る上で最も重要な光合成に関する記述では、少し難度が上がりますが、「ここからギアを上げますので、しんどい方は○○ぺージまで飛ばしても結構です。その場合は……」など配慮がなされており、私でも挫折することなく読み進めることができました(一回目は言われた通りに飛ばしましたが)。

この本を読み終えると、植物を哀れんでいたはずの私はどこへやら、むしろその無駄のない機能から、「なぜ我々動物は“動く”なんていう手段を選択しているのだろう」とすら考えるようになったほどでもあります。

植物ホルモンのはたらき

本書の紹介をするにあたって、やはり具体的に一部分を紹介する必要があるかと思います。原文よりも魅力的かつ専門性を保ったまま分かりやすい解説をすることは私にはできませんが、栽培者が普段何気なく認識している事象と、実際の植物体内で何が起こっているのかについて本書で述べられている箇所が密接につながっている部分を一つ例に見ていきましょう。

嶋田氏の研究分野の一つに、細胞の成長を制御する植物ホルモンの“オーキシン”があります。専門だけあってオーキシン関連の記述はどれも奥深く、個人的にもひと際面白く読めた部分です。

「頂芽優勢のカラクリ オーキシンとサイトカイニン」という節では、植物の先端の芽(頂芽)がその他の芽(側芽)よりも優先して伸長する性質、“頂芽優勢”について、二つの植物ホルモン“オーキシン”と“サイトカイニン”の働きを解説しています。

頂芽優勢の分かりやすい例として、ヒマワリやアサガオなどがあります。彼らには特にこの性質が強く表れるため、側芽はほとんど生育せず、頂点の芽だけが真上に一直線に伸びます。

多かれ少なかれ、すべての被子植物にとって共通のこの性質を我々栽培者は利用して、植物の生育を制御しています。例えば頂芽を摘む(摘心)することで、側芽の生育を促進させて実をならす数を増加させたり、頂芽へ渡る養分を果実に転流させたりするなど、栽培における多くの場面でその習性を利用するのです。
動くことができない植物は、例え何らかの原因で成長点の頂芽が切り取られたとしても、今度は側芽が、失われた頂芽に代わって新しい頂芽となり、強く成長を始めます。その原理を成立させるために動いているのが植物ホルモン“オーキシン”と“サイトカイニン”です。

“オーキシン”とは植物の成長を司る植物ホルモンでありながら、濃度が濃すぎると逆に成長を阻害したり、伸長する方向を決定付けたりと、植物を語るためには欠かせないものです。成長点付近(頂芽の部分)で生成され、植物体の中を移動して各部分の成長を促したり抑制したりします(文中では、はじめて名前を聞いた人でも詳しく分かるように解説されています)。

一方“サイトカイニン”は、この場合、オーキシンによって成長が抑制されている側芽の抑制を解除するスイッチの役割を果たします。

 「頂芽」がある場合、そこでつくられるオーキシンは、茎でサイトカイニンをつくる「IPT」遺伝子の発現を抑制し、「側芽」の成長を抑える。反対に、「頂芽」が失われてオーキシンの流れが途絶えると、「IPT」遺伝子が発現して茎でのサイトカイニンの生合成が始まり、それによって「側芽」が目を覚まし、新たな「頂芽」となって成長を始める──。
 これが、「頂芽優勢」を成り立たせる2つの植物ホルモンの合わせ技です。
3章 植物ホルモン──植物の成長を左右するカギ p.208  

例えば、市販されているオーキシンの作用を利用した成長促進剤に、有名な“トマトトーン”という商品があります。本来は着果促進などのために使用しますが、この仕組みを知っていれば、頂芽を切除(摘心など)した後に側芽が強く伸びることを防ぐために、切除した頂芽の先端部分にトマトトーンを散布すれば良いのではないか、など、次々と独自のアイデアが湧いてくるのです(この事例がうまく成立するとは限りませんし、もうすでにどこかで実践されているのかもしれません)。

私個人としては、特に果樹の剪定(せんてい)作業において“頂芽優勢”を強く意識するために、この部分を面白く読みましたが、農家それぞれの栽培する作物について有用な情報が必ず本書の中で説明されているはずです。

光合成や発芽のしくみ、開花のメカニズムなど多岐にわたる内容

その他にも、各章ごとに1ページずつ記載されているコラムも非常に有益かつ興味深いものばかりです。「酸素は生物にとって有害だった」「草と木の違いはどこにあるのか」「植物の記憶力」など、全てのコラムが渾身(こんしん)の力作で、“へぇ~”の尽きない内容となっています。

<目次>

序章 動かない植物が見せる驚異の力
1章 光合成 太陽の力を生きる力に変える仕組み
2章 環境応答 生まれた場所で生き抜くための仕組み
3章 植物ホルモン 植物の成長を左右するカギ
4章 生活環 動かない植物が送る激動の一生
5章 呼吸と代謝 植物の起源のナゾに迫る

どの章も面白く、農学部出身者に紹介しても、「習ってはいたけれど良くまとめられていて面白い!」とうなるような内容となっています。それだけに高校卒業程度の一般教養は要求されますが、植物のことを本気で学びたいと思う人の第一冊としては最高の書籍だと確信できます。

水を吸う、肥料を吸う、光を浴びて光合成する、といった普段何気なく捉えている事象を言語化し細分化することが、あなたの栽培を奥深くし、応用可能なものに進化させることは間違いありません。

植物の体の中では何が起こっているのか

著者:嶋田幸久、萱原正嗣
出版:ベレ出版

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