出荷量日本一のタマリュウを支える農福連携~地域とつながるノウフク#3~
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出荷量日本一のタマリュウを支える農福連携~地域とつながるノウフク#3~

出荷量日本一のタマリュウを支える農福連携~地域とつながるノウフク#3~
最終更新日:2019年04月16日

F1の鈴鹿サーキットで有名な三重県鈴鹿市は、実は日本有数の植木の産地。植木の根元に芝生のように敷き詰めるマット植物「タマリュウ」の生産も盛んです。このタマリュウの出荷量日本一の企業を支えるのは、特定非営利活動法人ベルプランツで働く障害者の皆さん。「日本一のタマリュウ」への誇りを胸に昨日の自分より成長しようと仕事に励む姿を取材しました。

意外と身近な「タマリュウ」

タマリュウのマット(画像提供:ベルプランツ)

「タマリュウ」という植物の名は知らなくても、マンションの植え込みや屋上緑化に使われるカバープランツを見たことがある人は多いのでは。土の上に置くだけで定植ができ、その後の管理にも手間がかからないことから、都市部の緑化などに使用されています。

駒沢オリンピック公園の屋上緑化にも使われるタマリュウ(画像提供:ベルプランツ)

このタマリュウの出荷量全国1位の企業が、株式会社イシイナーセリー。代表取締役社長の石井正二(いしい・しょうじ)さんは、植木の盛んな三重県鈴鹿市で20年以上「タマリュウひとすじ」です。

「タマリュウひとすじ」の会社が農福連携に取り組む理由

20年ほど前、石井社長は知り合いの社会福祉法人から「障害者の受け入れ」をしてくれないかと依頼されました。試しに受け入れてみると知的障害と身体障害がありながら一生懸命働いてくれたため、そのまま就労を受け入れ続けることに。
しかし、施設側の事情でこれまでの働き方が難しくなりました。この人に働いてほしい、かといって健常者と同様に雇うことには無理がある……。

そこで、県に相談したところ「就労継続支援事業所」という形で障害者を雇用できることを知りました。「そのころはA型とかB型とかもわからなかった」という石井社長。当時鈴鹿市内にはA型事業所が1か所しかなかったため「だったらA型にするか」と決め、2011年に特定非営利活動法人ベルプランツを設立、就労継続支援A型事業所「きらら」が発足しました。

イシイナーセリーが農福連携に取り組むきっかけになった細江さん。20年間ずっと「タマリュウひとすじ」で頑張っている

A型の事業所は障害者が雇用契約に基づいて働く施設。雇用する側は最低賃金を保証しなければならないため、給与として支払う額も多く、福祉事業所としてだけでなく事業としてもきちんと成り立つ運営をしなければ持続できません。
現在は19名の従業員のうち13名の知的障害・発達障害・精神障害・身体障害のある人が所属しています。

働きやすさのための改善が品質向上へつながる

タマリュウの品質と出荷量を維持するために、作業分解やその改善は細かく行われています。

①台の高さの工夫だけで楽に


タマリュウはマット植物と呼ばれ、浅いトレーに土を詰め株を植えます。品質の向上と作業効率アップのために「軽い土」を使っていますが、土の上げ下ろしはやはり重労働。そこで、作業台の高さを調節し、土の山からトレーへ土をスライドさせるだけで土入れができるように工夫しました。
「改善後、土入れ担当者は『とても楽になった』と喜んでくれました。自分ではうまく表現できない人も多いので、スタッフの方から改善ポイントを見つけていくよう心掛けています」と、サービス管理責任者の辻明(つじ・あきら)さんは語ります。

②器具の開発

土入れしたトレーにタマリュウの株を均等間隔で植えていきますが、これが至難の業。
改善のきっかけは、特別支援学校から実習に来た生徒が「どこに植えたらいいかわからない」と困ってしまったこと。確かに「均等に植える」という説明は曖昧です。
そこで、土に株を植える場所が一目瞭然にわかる器具の開発に取り組み、知り合いの業者に頼んで作ってもらうことに。

開発した器具。これをトレーにはめて、上から土を詰め込む

このままだとどこに植えたらよいかわからない

金具を外すと株を植える穴ができる

この器具ができる前は土に指で穴をあけて植えていましたが、その手間がなくなり、スピードアップ。一つ一つのトレーの質も上がり、利益が向上しました。

③作業の仕方・ポイントを掲示

図で示してわかりやすくすることで仕事の質が安定する

人によっては、耳で聞くより目で見たほうが理解しやすい場合があります。きららでは注意点を見えるように掲示したり、全体で問題になっていることを紙に書いて貼ったりなど、注意を促す工夫をしています。

④生産量の見える化で適切なフィードバック

1日の作業量がわかるように、自分の植えたトレーは自分の名前のところに重ねます。

1日の成果がわかるように名札を付けてマットを重ねる

作業の速さだけでなく、ゆっくりでも正確な作業は評価。「ほかの人と比べられたくない」と最初は名前を付けてトレーを重ねることを嫌がっていた人も、自分の作業に自信を持って「見てほしい」と重ねてくれるようになるそうです。
また、作業に出来不出来の波があることも。「一緒に振り返ってみると、『忘れていた』とか『体調が悪くて』とか、理由がわかります。その都度対応をすることで、その利用者の状態も、商品の質も維持できます」と管理者の石井信子(いしい・のぶこ)さんの丁寧な気づきが利用者を支えます。

⑤チームの調整で「自分自身で成長する力」が開花

障害の種類やその人の個性によって、同じ台で作業するメンバーや台の場所を変えることで、よりストレスなく仕事に取り組めるように工夫も行います。
また、一人で作業をしていた人が、チームになることで仕事の質・量ともに上がった例もありました。
スタッフの注意は聞かないのに仲間に同じことを言われると素直に聞き入れたり、仲間をフォローしたりといった行動が見られるように。「自分がいないとチームが回らない」と休みがちだった人の欠勤が少なくなったそうです。

3人の協力チーム。互いが互いを伸ばしあう

「品質が良いから」選ばれる

これまで改善してきた様々な作業の問題点は、障害のある人と働いていたからこそ気づけたことばかり。「この人に能力を発揮してもらうにはどうすればいいのか」と考えて工夫したことが、品質の向上につながったのです。
今やここで生産されるタマリュウは「福祉事業所が生産しているから」選ばれるのではなく、「品質が良いから」選ばれる商品になっています。
そのタマリュウがどこで使われているかを実感するために、作業場での仕事だけでなく外で定植作業も行います。

第35回日本パラ水泳選手権大会の飾りつけの様子。東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムをイメージして市松模様に配置(画像提供:ベルプランツ)

いい仕事は給与に反映

きららの給与は全国のA型事業所の利用者の平均給与に比べ、高い水準にあります。時給に加え、仕事の量や質に応じて評価した給与形態をとっているためです。
「毎日なんとなくきららに来て仕事をすればお金がもらえるんじゃない。タマリュウが売れたお金がお給料になる、とわかってもらうことで、仕事の質も上がりました」(管理者の石井信子さん)

また給料で休日を楽しむことも、モチベーションになっています。きらら利用者の皆さんはとても活動的で、旅行や日曜大工、祭りへの参加など、充実した休日を送っています。行動範囲が広がることできららや家族以外のつながりも増え、彼らが障害者としてではなく一社会人として生活しているさまも垣間見えました。

自分で買った材料で、仲間のためにハサミ入れを手作りする手芸好きの利用者も(画像提供:ベルプランツ)

卒業生の存在が励み

きららでは毎年1人ほどの“卒業生”がいるとのこと。精神障害や発達障害のある人が毎日働くことで生活のリズムが整い、更に仕事によって自信をつけて一般企業の障害者雇用や一般就労などにつながることもあるそうです。
「どんなことがあっても手を離さないと決めて、大変な状況の人にも真摯に向き合ってきました。うちを離れてもたまに電話をしてきて、いろいろと報告してくれます」と管理者の石井信子さんはうれしそうに語ってくれました。

一方、障害者を支える人材は不足しています。「障害者福祉と地域の植木生産を一緒に盛り上げてくれる人材がもっといれば」とイシイナーセリーとベルプランツでは、共にタマリュウを支える社員を求めているそうです。

三重県全体に農福連携を広めたい

平成29年度、ベルプランツは三重県の事業の一環で、福祉事業所の施設外就労先として県内の植木関連企業をマッチングする事業に取り組みました。三重県の植木産業を農福連携によって盛り上げる事業です。
同じ植木の仕事とはいえ企業によって細かく作業内容が違うため、聞き取りを丁寧に行い、それにマッチする福祉事業所を紹介するという難しい仕事。「障害のある人にウチの仕事は絶対無理」という企業の担当者も多く、少しずつ理解をしてもらうために「農福連携をまな部会」という勉強会を重ね、マッチングを進めました。
この事業をきっかけに、11人の障害者が今でも植木を生産する会社で働いています。

参加した福祉事業所も「やってみる前は植木の仕事にこんなに障害者ができることがあると思っていなかった。やってみたら作業内容も作業のスピードも利用者に合わせて調整できるし、達成感も感じてもらえる仕事だった」と、植木分野での農福連携の可能性を評価しています。

畑での草取りの様子。外で太陽の光を浴びて働くことも心身の状態に良い影響を与えるとのこと(画像提供:ベルプランツ)

ベルプランツでの取り組みをきっかけに、三重県全体に広がりつつある植木分野の農福連携。障害の有無に関係なく、「その人の働きやすさ」に着目した改善によって、高い品質を維持することが可能であることを証明しています。そしてその品質の高さによって、働く障害者一人ひとりのモチベーションとプライドが育まれています。
 

株式会社イシイナーセリー
特定非営利活動法人ベルプランツ

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