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【東京大学狩人の会】学生たちはなぜ狩るのか?

【東京大学狩人の会】学生たちはなぜ狩るのか?

「東京大学狩人の会」は、東大の学生が運営する大学非公認のサークルです。農業と狩猟には獣害対策といった関わりがある事から、農業大学には狩猟サークルがあっても不思議ではないのですが、「なぜ東大の学生が?」と不思議に思われる方も多い事でしょう。彼らがどんな事を考え、何を目的として狩猟を始めたのか。その思いやサークル活動に迫ります。(画像提供:東京大学狩人の会)

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「東京大学狩人の会」代表の小林さんが狩猟をする動機

くくりわなの見回りをする小林さん

◆プロフィール◆
東京大学狩人の会 代表 小林義信(こばやし・よしのぶ)さん
茨城県出身/東京大学農学部
農学部でフィールド科学を専修中。第一種銃猟、わな猟、網猟の免許を所有し、昆虫食にも興味あり。東大うどん部の副部長。


 

──「東京大学狩人の会」とはどんなサークルなのでしょうか。

この会は2016年10月に、東京大学所属の狩猟に興味を持つ有志によって設立されたサークルです。メンバーは卒業生を含めて50人。狩猟免許を取得して、それに付随する解体や皮なめし、加工などを行っています。

──東大生50人が狩猟に魅力を感じ、サークルに参加する理由は何だと思いますか?

狩猟自体が非日常体験である上に、「私たちは他者の犠牲により生きている」という事実から目を背けたくない、と思う学生が多いからではないでしょうか。また、登山やDIY、料理のサークルではそれ単体の活動しかできませんが、狩猟はそれらをまとめて体験できる、総合サークルの側面があるからだと思います。

写真提供:東京大学狩人の会

──設立の目的は何でしょうか?

地方の中山間地域に行くと、シカやイノシシによる農作物被害によって農作物が取れないから、と離農する農家が増えています。

写真提供:東京大学狩人の会

離農後の農地は耕作放棄地になり、誰も手入れをしないヤブになります。このヤブは野生動物のすみかとなり、さらに野生動物が増える事で農作物への被害が増えます。その結果、離農する農家も増えるといった負のサイクルを断ち切る為、増えすぎた野生動物の数を管理する必要があります。

現状の狩猟界は高齢化が進んでいることから、若い世代に狩猟や獣害問題に興味を持ってもらいたいと思い、サークルを設立しました。

──小林さん自身はなぜ狩猟に興味を持ったのでしょう。

僕は小さい頃からサバイバル術の本を愛読していて、プランターで野菜を作ってみたりするなど、自給自足を実現しようとしていました。ちょうど中学生の時に東日本大震災が起こり、地元の茨城県でもしばらく電気や水道などが止まったのですが、その時に「ライフラインが完全に止まってしまったら、現代人は生き残れないのではないか?」と感じたのです。

昔の人は食べ物から住居まで自給自足で暮らしていましたが、現代人はコンビニなどで食べ物を簡単に入手できるし、住む場所にも困らない。便利な生活に慣れすぎて、現代人は生物として退化しているように思うんです。

そこで狩猟を行い、自らの手で食べ物を捕って処理して食べられるようになる事で、ライフラインが止まっても生き延びられるのではないか、生き残るための手段を得られる上に、生の実感が得られるのではないかと考えているのです。

捕獲したシカを解体中(写真提供:東京大学狩人の会)

「東京大学狩人の会」の活動

──春休み中はどんな活動をしているのでしょうか?

埼玉県入間市では、自然環境とのバランスをとるために鳥獣の生息数・生息域の適正な管理や対策を行う「第2次埼玉県第二種特定鳥獣管理計画(イノシシ)」に基づき、通常の狩猟期間より1カ月長くなる3月15日までわなを用いたイノシシ猟が可能です。そこで、東京大学狩人の会では山中に「くくりわな」(動物が仕掛けを踏み抜くと足を捕えて動物を捕えるわな)を仕掛けています。

複数箇所に設置してあるわなは、野生動物を捕獲できているか確認する為に毎日見回る必要があります。僕たちが設置している場所は、最寄りのJR駅からアクセスが簡単なので、学生数名でシフトを組んで見回っています。もし捕獲できていたら、止め刺し(命をいただくこと)をして内臓を出し、解体という流れになります。

イノシシが足を滑らせた痕跡を発見した小林さん

わなに獲物がかかっていなかった場合は、野生動物の残した痕跡を見て「明日はここにわなをかけよう」などと話し合います。

──他に、サークルで行っている活動を教えてください。

期末テストが終わる1月末から2月15日までは、千葉県君津市にある廃屋を改築した拠点で「わな合宿」を行っています。多いときは10人くらいで泊まり込み、共同生活をしています。

写真提供:東京大学狩人の会

──そこではどんな活動をするのですか。

くくりわなをかけて動物を捕獲します。他には、解体に使うナイフを研いだり、皮をなめしたりと狩猟にまつわる活動をします。

写真提供:東京大学狩人の会

──今期の成果はどうでしたか?

今期の春休みの合宿では、15日間でイノシシを1頭、シカを4頭捕獲しました。捕獲した野生動物は解体し、肉だけではなく肺や心臓、レバーといった内臓も調理して食べます。イノシシの大腸は沢で洗ってモツ鍋にしたり、シカの胃袋であるハチノスと呼ばれる部分をトマト煮込みにしたり、皮や骨も余す事なく利用します。

写真提供:東京大学狩人の会

──狩猟期間以外は、どんな活動をしていますか? 

野生動物の頭骨のスカルトロフィー(シカなどの頭骨の剥製)を制作しています。また、学園祭でイノシシ汁などのジビエ料理を出したり、いろんな高校で獣害問題や解体についてのレクチャーを行ったりしています。

学園祭に出店し、スカルトロフィーやTシャツを販売中(写真提供:東京大学狩人の会)

「東京大学狩人の会」の展望と小林さんの夢って?

──「東京大学狩人の会」と小林さん自身について、今後の展望や夢を聞かせてください。

東京大学狩人の会から、熊本の解体所に就職した卒業生がいます。また、他大学の狩猟サークルからは、滋賀にある野生動物管理施設に就職した人もいるので、今後は狩猟に関わる企業に就職する卒業生を増やしていきたいですね。そうする事で鳥獣被害を解決していく糸口が見えてくるのではないかと思います。僕自身は千葉の演習林(林学の研究や教育のための実習林)で狩猟をしながら、野生動物の生態や個体数管理といった研究活動ができればいいなと思います。

写真提供:東京大学狩人の会

 
* * *

狩猟界は高齢化が進み、30代でも若手と言われる状況にあります。そんな中、若いうちから狩猟に親しみ、生きるということの本質を理解しようとしている彼らの活動は、同じハンターとしてとても心強く感じました。彼らの今後を、楽しみに見守りたいと思います。
 

東大狩人の会
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