◆プロフィール◆
茶圓武志(ちゃえん・たけし) 株式会社ENWATERFARMS代表取締役。 1967年、鹿児島市生まれ。久留米大学商学部を卒業後、関東の商社に6年間勤務。その後鹿児島市に帰郷し、雑貨小売業で起業。2011年に水耕栽培での農業を開始する。2015年から農福連携にも取り組み、現在は水耕栽培で育てた小松菜、バジル、みつばの生産・加工・販売を行う「イーエヌ水耕栽培」「小松菜屋」を運営している。 |
水耕栽培で農業を目指したわけ
――小売店のオーナーから農業へ転身されたそうですが、なぜ農業をしようと思ったのでしょうか。
農業にはもともと興味があって、モノを作る仕事がしたかったんです。街中よりも郊外で働きたかったことも理由の一つです。
――農業の中でも水耕栽培をするというのは初めから決めていたのですか?
水耕栽培をしようと思ったのには主に2つ理由があります。まず鹿児島市は一つ一つの農地が狭いので、大規模にやるよりは面積あたりの回転率を高くした方が収益が見込めると思ったからです。水耕栽培であれば、土でするよりも回転を早くすることができます。
2つ目は障害者が働く場として農業を考えていたことがあります。水耕栽培は足の高いベッドの上で栽培するので、しゃがまずに立ったまま作業ができます。またトラクターなどの機械も使わないので、誰でも安全に作業できるのは水耕栽培の大きな魅力でした。
――なるほど。生産拡大のために雇用を始めたのではなく、障害者の働く場所として初めから考えられていたのですね。
そうです。もともと小売店をしていた時から、あえて社会に馴染むことが難しそうな人を率先して採用し、彼らがきちんと社会で自立していけるようにとやっていました。その時は気づかなかったのですが、その中には障害を抱えている人もいて、農業をやるときも初めからそういった人たちの働ける場としてスタートしています。
導入している水耕栽培の仕組みについて
――ちなみに初期投資はどれくらいかかっているのでしょうか。
だいたいハウス4棟で1000万、水耕栽培の設備で1500万くらいですね。普通はこれの3倍以上かかることもあるので水耕栽培の初期投資としてはかなり安い方だと思います。特に土台が鉄ではなく、全て木製なので価格をかなり抑えられています。就農する前にネットで水耕栽培について調べていたところ、関西でこのシステムを扱っている会社があり、そこから導入しました。木製でも10年使っていて一箇所修理したくらいで全然問題無く使えています。水温の変化も少ないし、修理が行いやすいのも木製のメリットですね。
――ここで行われている水耕栽培の仕組みを教えてください。
はい。まずは水を含んだ専用のスポンジの上に種まきするところから始まります。種まきした後は暗室で3日間置いておき、芽を出させます。芽が出た後は外に出し、追肥をしながら4~5センチほどまで育てます。そのあとに水耕栽培のベッドの上に定植していきます。スポンジは一つ一つ千切れるようになっているので、それをベッドの穴に入れていきます。定植後、夏は2週間、冬は3週間ほどで出荷できる大きさになります。
――このベッドに流れている水はどこから引いているのでしょうか。
この水は全て雨水を利用しています。ハウスの屋根に溜まった水をため池にためておき、それをポンプでくみ上げて野菜のベッドに流しています。
――水耕栽培といえば大量の水を使うイメージでしたが、雨水だけでまかなえるんですね。
そうですね。これだけで十分足りるので水道代はかかりません。さらに雨水にはたくさんの酸素が含まれているので、葉物栽培には地下水よりも適していると考えています。
――水の中の栄養はどのように補給・管理されているのでしょうか。
水耕栽培用に調合された肥料を使用しています。専用の濃度計があって、それで濃度を確かめながら栄養の量を調節するだけなので、とても簡単です。なので、栽培に関しての問題は特にないですね。
――病気や害虫などの問題はないのでしょうか。
温かい夏場はどうしてもコナガやアブラムシなどの害虫はでますね。最初は無農薬で頑張っていましたが、今は農薬を夏場だけ若干使用することで対策しています。病気はほとんどなりません。病気が発生したとしても24本あるベッドは全て独立しているので、他のベッドで栽培している野菜には広がらないようになっています。また予防策として、スタッフには土を触れた手で野菜に触れないこと、ハサミなどの物を床に置かないことなど、土の菌がハウスのベッドの中に入らないようにだけは徹底しています。
あと病気ではありませんが、水耕栽培ではアオコというノリのようなものが水面に広がって、問題になることがあります。これも収穫が終わったあとに全てベッドを洗浄しているので、うちでは問題になったことはほとんどないです。
水耕栽培で生産面の課題をクリアし、さらに販売を強化
――最後に、これからの課題や展望を教えてください。
生産面での問題はないので、今後は販売面にさらに力を入れて行きたいですね。障害のある方のきちんとした就労の場として機能させ、今よりも賃金を上げていきたい。そのためにまず販路の拡大と商品の付加価値を上げていくことを考えています。今までは市場への出荷が主でしたが、加工品を作るなどの6次産業化や、都市部飲食店などへの販路開拓を行なっています。このあたりは前職で培った経験がうまく活きているところだと思います。
――なるほど。普通、農家さんは生産の方に必死になってしまい、販売面に注力するのが難しいイメージがありますが、水耕栽培のシステムを採用したことで、早い段階から生産面が安定し、販売の方に注力できるようになるのは大きいですね。
そしてさらに重労働や高度な作業が難しい障害者の方と一緒に働く場を実現できている。農福連携が注目されている中で、水耕栽培の可能性を改めて感じることができました。
ありがとうございました。