農業経営を強くする! 特効薬はユニバーサル農業
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生産者の試み

農業経営を強くする! 特効薬はユニバーサル農業

農業経営を強くする! 特効薬はユニバーサル農業
最終更新日:2019年05月31日

静岡県浜松市で江戸時代初期から13代にわたって農業を営み、10年前に法人化した京丸園株式会社は、ユニバーサル農業の先駆的取り組みで第48回日本農業賞大賞を受賞。注目の集まる農家です。多様な人々と共に農業をすることが経営改善につながり、収益もアップしているという京丸園。その秘密はどこにあるのでしょうか。

農業経営の存続のための障害者雇用

「障害のある社員のおかげで儲かってます」と堂々と語る京丸園株式会社社長の鈴木厚志さん。障害者を雇用するのは経営戦略だといいます。
「農を通した働きの場づくり」をめざして1996年から障害者雇用を行い、現在は「心耕部(しんこうぶ)」という障害者雇用のための部署を立ち上げ、年に1名ずつ障害のある社員を採用しています。
「僕が優しい人だから障害者雇用をしているんじゃない。農業経営の存続のためには、彼らを農業の現場に入れることが必要だと思っているんです」
それは単に“人手不足の解消のため”というわけではないようです。


鈴木 厚志(すずき・あつし)さん プロフィール
京丸園株式会社 代表取締役、NPO法人しずおかユニバーサル園芸ネットワーク事務局長。
静岡県浜松市で江戸時代から続く農家の13代目。水耕栽培による姫ねぎ、姫みつば、姫ちんげんなどのオリジナル商品をJAとぴあ浜松と共同開発し全国に出荷。ユニバーサル農業の取り組みなどが評価され、2019年、第48回日本農業賞大賞を受賞。

きっかけは「経営の視点」を持ったこと

今ではユニバーサル農業の先駆的取り組みで知られる鈴木さんですが、以前は障害のある人々と一緒に働けるとは思っていなかったそう。「農家は一人でなんでもできて当たり前。農家はみんな自分の農業がベストだと思っていますからね。でも、彼らと出会ってそんなことはないとわかりました」という鈴木さん。最初に障害者雇用の視点を持てたのは、経営の勉強を始めたからだと言います。


ミニちんげん検品梱包作業の様子(画像提供:京丸園)

道に迷っていた20代

「20代はとにかく朝早くから夜遅くまで働きました。30になったとき、地元の同級生にベンツを自慢したくてね(笑)。なのに、がむしゃらに働いても10年前と同じ車が車庫にあった。おかしいな……と思って、経営の勉強を始めたんです」

まず経営の師匠が鈴木さんに問うたことは「何のために農業をしているのか」「どんな農園にしたいのか」「どんな仲間と歩んでいきたいのか」の3つ。しかし、鈴木さんはどれにも答えを持っていなかったと言います。
「経営はゴールからの逆算。でも僕の農業にはゴールの設定がなかった。『そういう状態のことを“道に迷っている”というんですよ』と言われ、はっとしました」

一生懸命考え「目の前の人を笑顔にしたい、いろんな人が働ける農園にしたい」という思いが自分にあったことに気づいた鈴木さん。
「僕が農業を始めたときは祖父母・両親・僕たち夫婦の6人でした。いろんな人がいる経営体は強い。祖母は90歳まで働きました。90まで働ける農園は障害のある人も働ける農園であるはず」
そして、経営理念を「笑顔創造」として、今の京丸園につながる一歩を歩みだしました。

そして、最初の一人がやってきた

そのころ、半身麻痺の身体障害と知的障害がある人のお母さんに頼み込まれ、1週間の実習を受け入れたのが障害者雇用始まりでした。
「受け入れてすぐ、職場の空気が和やかになったのがわかりました。それまでギスギスした雰囲気だったのが、その子を周りが支えようとして優しくなった。1週間たつころには、作業効率も上がっていたんです」

障害者を雇用するために福祉関係者のアイデアを取り入れ、作業分解などの工夫を重ねることで効率が上がり、品質も利益もアップしました。
「結局、僕の仕事は全部彼らにとられちゃった。だから今は社長業に専念してます(笑)」

ミニちんげんの定植作業の様子(画像提供:京丸園)

福祉の専門家の視点を経営に取り入れる

直接面接はしない

障害のある社員を受け入れ始めると、あちこちから障害のある子を持つお母さんが「うちの子を働かせてほしい」とやってきたそう。その対応の中で苦い経験がありました。
「絶対この子は無理だろう、と思って断ったんです。そしたらそのお母さんが『差別だ』と言って怒り出した。僕のどこが悪いんだと思って、知り合いの福祉関係者に一部始終を話したら『社長、あんたが悪い』とはっきり言われましたよ。もう、僕の人生叱られっぱなし(笑)」
相手の見た目だけで障害者のことを専門的に学んだわけでもない自分が、その人が働けるか働けないかを判断するのは間違っている、と初めて気づいたそう。

そこで、雇用する際は特別支援学校や障害者就業・生活支援センターからの紹介を受け、直接面接をしないことにしました。
「プロが『京丸園で働ける』と言って寄こしてくれるんですから、信頼しています。このスタイルにしてからトラブルはありません」

入社7年目の中村高博さん。以前の仕事よりも今の仕事がチームプレイで楽しいと話す。休日の趣味はラーメンの食べ歩き

優しさだけで解決しない

障害のある社員で最も長くいる人は18年以上働いているとのこと。障害のある社員が所属するのは、京丸園の最も特徴的な部署「心耕(しんこう)部」。現在は25人が働いています。障害者雇用を始めたころは、鈴木さんと妻の緑さんの二人で、障害のある社員に合わせたプログラムを考えていましたが、数が増えたことから、担当の社員を置くことに。
「最初は優しい人なら良いと思って、農業の勉強をして入社した若い女性を付けたんです。でも全部優しさで解決しようとして、自分を守れなかった。素人の福祉の考え方じゃダメなんですよね」と当時を振り返って反省する鈴木さん。
そこで、しっかり障害者の特性や彼らへの対応の仕方を学んだ人を雇用することを決意します。彼らにとって最も適切なことは何かと、更に考えるようになったと言います。

現在の心耕部主任は内山美穂(うちやま・みほ)さん。精神保健福祉士など福祉関係の資格を持ち、心耕部に所属する社員のサポートを専門的に行っています。

心耕部主任の内山美穂さん。京丸園に入社してから農業を勉強し、JGAP指導員まで取得

その他の農業専門の社員であっても「2号ジョブコーチ(第2号職場適応援助者)」の講習を受けることを推奨しています。それでも、彼らの生活に関する様々な悩みの相談などをすべて受け止めることはなく、役割を分け、生活面の支援は基本的に障害者就業・生活支援センターや浜松市の就業支援センターなどの支援員に担当してもらっているそうです。

ユニバーサル農業でできる野菜

普通のものづくりは、消費者ニーズから逆算して商品を作るもの。一方、ユニバーサル農業はその逆だと鈴木さんは語ります。
「ユニバーサル農業は『働く人の視点から作る』農業。うちの場合、障害のある社員がたくさんいる。障害ってオリジナル。だから、オリジナルで差別化できる商品ができるはずだと思ったんです。要は、経営者の判断なんですよね」

京丸ミニちんげんはJAとぴあ浜松と共同開発

先代から水耕栽培に取り組み、姫みつばや姫ねぎなどの小さくて見た目が重視される「魅せる野菜」を中心に生産していた京丸園ですが、障害者雇用向けに新たに開発した品目が「ミニちんげん」です。
「彼らは細かい判断は苦手なので、例えば姫ねぎの種を取る作業などは難しい。チンゲンサイはその作業がなく、彼らに向いていると思いました。普通は人手をかけないために大きく育てて重さで稼ごうとするが、うちには彼らの人手がある。単純作業の繰り返しが得意な面を活かして、短い期間で小さく作ってすぐ出すようにしたんです」
軟らかく使いきりサイズのミニちんげんは、火の通りが速く包丁を使う手間が省けると人気に。ホテルのフカヒレ料理に添えたり、鍋料理に使えたりと、販路は多様です。
「もともと浜松はチンゲンサイの産地で有名なんですが、一日に25000本も出せるのはうちだけ。彼らのおかげで儲かっちゃいました(笑)」

給与は「今のあなたのままでいい」というサイン

ミニちんげんの包装機を使った作業の様子(画像提供:京丸園)

京丸園は就労継続支援B型の作業所ではないため、原則として社員には最低賃金を支払う必要がありますが、中には「最低賃金の減額特例許可」の申請をしている心耕部社員もいるとのこと。入社が決まると、本人と京丸園、紹介した就業支援センターなどと3社で給与に関して協議が行われ、合意のうえで手続きを行います。

「普通の会社なら『うちのやり方に合わせてください』と言って社員を雇う。でもうちは『あなたの働き方に合わせます』と言って社員を雇う。その代わり“能力給”で支払います。これは、福祉の方々からのアドバイスなんです。給料と能力を一致させることは『今のあなたでいいよ』というサイン。もし能力以上の給料をあげていたら、僕も素直に『ありがとう、お疲れ様』と言えないかも」

B型作業所で働くよりも高い賃金を得られ、働きに応じて賃金の向上も見込めるため、社員やその家族からの苦情はないそうです。

ユニバーサル農業を広めるために

ユニバーサル農業の導入で利益を上げている鈴木さんは、これをもっと広めていきたいと言います。
「これまでの農業のどこがダメだったかというと、基本的に農家の息子ばっかりが農家になってたという点じゃないかと思うんです。だから新しい視点を取り入れることが難しいし、工夫もない。でも、彼らと組むとガラッと違った視点で農業が見えてくるんです」

福祉的な思いがないとユニバーサル農業に取り組めないと思ってほしくない、という鈴木さん。農業経営を強くするために、これからの農業をより良いものにしていくために、障害のある人たちが戦力となる。それがユニバーサル農業の本当の姿なのかもしれません。

姫ちんげんの収穫の様子(画像提供:京丸園)

京丸園株式会社

 

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