獣害をもたらす野生動物を捕らえる! 箱わなの種類と、捕獲のノウハウ
今回のイベントを主催するグッドハンティング代表の虎谷健(とらたに・たけし)さんは、管理捕獲事業でイノシシを箱わなで捕獲している、専業ハンターです。わな猟の魅力を聞いたところ「無人でも24時間動物を待ち続けて自動で捕らえる、効率の良い狩猟法であるところですね」とのこと。プロのハンターからじきじきにわな猟を教わる事ができる当イベントでは、大まかにこんな事を学べます。
- 箱わなの種類を解説
- くくりわなの解説と、模擬設置体験
- ヒヨドリの解体とジビエ試食体験、ソフトエアガン(玩具の模擬銃)での標的射撃
早速、檻(おり)状のわなに餌をしかけて野生動物を捕らえる、箱わな3種について教えてもらいました。
1. 獣害をもたらす野生動物を捕らえる! 箱わなの種類を解説
「まずはタヌキやハクビシンといった、中型獣向けのわなについて学びましょう。こちらはわなの中に餌を設置し、野生動物が餌を食べようとわなに入り、中に設置されている『板』を踏む事で入口が閉まる仕組みになっている、踏板式箱わなです。比較的動物を捕らえやすいのですが、目的外の動物を捕らえてしまう事もあるのがたまにキズですね」(虎谷さん)

踏板式箱わなの踏み板を説明する虎谷さん
一方、つり餌式箱わなは、わなの中にフックで餌をつり下げ、野生動物が餌を食べようとわなに入り、フックに引っ掛けた餌を引っ張ると入り口が閉じて捕らえる仕組みになっています。こちらは踏板式と比較すると、フックを引っ張らせるというハードルがありますね。では、どちらのわなが一般的なのでしょう?と聞くと「自分がわな猟を教わる師匠の好み次第ですね」と、虎谷さん。

つり餌式箱わなの仕組みについて説明する虎谷さん
次に、周りをミカン畑に囲まれた広場に設置してある、大型獣向けの箱わなを見学しました。こちらはシカやイノシシなどの大型獣が餌を求めてわなの中に入ると、わなの中に張られたワイヤーにひっかかり、扉が閉まる仕組みになっています。屋外とはいえ、民家から約20メートルしか離れていない所に箱わなを設置してあった事から、こんなに人里近くまで野生動物が接近している事に驚きました。
虎谷さんにこれらの箱わな設置のコツを聞くと「私が行っている管理捕獲では、わなを設置した場所にどんな野生動物が来ているのか把握する為、センサーカメラを設置しています。体の大きさや頭数、親子連れなのかをカメラに写った画像から確認する事で餌の置き方やトリガーの位置を調整し、捕獲率を高めています。わなの怖さを学習すると警戒されるようになるので、一度で確実に仕留めるのがコツです」。相手を知る事で、対応も変えているようですね。

箱わなにかかったイノシシ(写真提供:グッドハンティング)
2. くくりわなを使った、「ある動物」の模擬捕獲体験
さらに場所を移動し、輪っか状のワイヤーがついた仕掛けを落とし穴の要領で野生動物に踏み抜かせ、足を捕らえるくくりわなについて学びます。「くくりわなの本体は、ワイヤーとアルミ製の箱でできている事から軽く、一見扱いやすそうに見えるでしょう? ただし、野生動物が頻繁に通るけもの道に設置して足をくくるので、野生動物の足の運び方や習性を知った上で設置しなくてはなりません」(虎谷さん)
さらに虎谷さんから「野生動物にとって足を滑らせて傷つけるのは死活問題になります。そこで丸い石や丸太といった障害物を嫌って避けたり、またいだりする習性があります。下り坂を注意深く歩いてきて足を着くであろう地点や、丸太や枝をまたぐ地点を作ってわなを仕掛けるのがポイントです」と、野生動物の習性についても教わりました。
これらの情報を踏まえたうえで、くくりわなの設置手順を教えてもらいました。
1. わなをかける場所を決めたら、けもの道の近くにある立木や切り株などにワイヤーを巻き付けて固定します。
2. 通称「弁当箱」と呼ばれる箱の縁を一周するように、ワイヤーをかけます。
3. 穴を掘り、くくりわなを埋めます。
4. わなが見えないように隠します。
5. 地上に露出しているワイヤーを、落ち葉などで隠します。
6. さらに木の枝を置いて道を作ったり障害物を置いたりしながら、わなの場所に足を置かせるよう細工をして出来上がり!
ここで虎谷さんから、「これまで学んだ知識を応用し、模擬くくりわなを使って『ある動物』を捕獲してみましょう!」と提案がありました。捕獲するのは、この狩猟体験に参加している私たち。すなわち人間です。狩猟の知識を持つ虎谷さんと私がリーダーとなって参加者を2グループに分け、相手チームをわなにかけるべく、知恵を絞ります。
わなを仕掛けるのは、緩やかな下り坂になっている林の中です。出発地点から目印がついている木までの約15メートルがわなの設置範囲になっており、わなを仕掛けた後で相手チームの陣地を歩き、わなにかけたチームが勝ちとなります。彼らがどのようなルートをたどるかを考えながら、くくりわなを仕掛ける場所を考えます。その際に相手の裏をかけるよう、わなが埋められていそうな痕跡をわざと残したり、木の枝を障害物として置いたり(実はこれもカモフラージュ)と、心理戦が繰り広げられるのがたまりません!

どこにわなが設置されていそうか、わかりますか?
結果、虎谷さんたちをくくりわなで捕らえる事はできなかったものの、空はじき(獲物がわなを踏んだが、捕らえられなかった状態)にした事から私のチームの勝ちとなりました!
3. 獲物を取ったら解体は必須! ヒヨドリの解体体験とソフトエアガン体験
わな設置体験後はお待ちかねのランチタイムですが、そう簡単には食事にありつけません。猟には解体がつきものという事で、ヒヨドリを解体し、食べるまでの流れを教わりました。
その後、ソフトエアガンを使った標的撃ちの体験や、伊勢原射撃場に移動してシューティングシミュレーターでクレー射撃を楽しむなど、狩猟体験が盛りだくさんの一日となりました。

シューティングシミュレーター
虎谷さんから教わる、わな猟を行う上で大切な考え方
イベント終了後に、虎谷さんにわな猟を行う上で注意すべき点について聞きました。「長くわなにかかった状態で野生動物を苦しめないよう、毎日の見回りや迅速な止め刺し(命をいただくこと)は必須です。それと同時にわなをかける地域の住民とのコミュニケーションが重要になります。というのも狩猟期間に猟犬がうっかりわなにかかったり、わなをかけた地域には既に他のわな猟師の縄張りがあったりと、トラブルが起こる可能性があるからです。わな猟を始める時には地域住民に挨拶をする。また、わなをかける上での地域ルールがあるか、きちんと確認した方が良いですね」
良いわな猟師になるには、人と野生動物の両者の立場に立ち、思いを巡らす人間力が必要なのだな、と感じたイベントでした。これからわな猟を始めたい人は、ぜひ参考にしてみてくださいね!