「スマート農業」の普及・定着を目指して

熊本県の九州農政局に各県や農業者が一同に集結し、発足式を行いました。
現在、生産現場では高齢化や担い手不足により、農作業の省力化・無人化や技術の継承が課題となっています。これに対し農林水産省では、ICTやAI、ロボットなど成長の著しい先端技術を農業の抱える問題を解消する有効策とし、「農業技術×先端技術=スマート農業」の社会実装を推進しています。中でも九州では全国の2割にあたるプロジェクト実証農家の15事業が採択され、成果や課題および解決策を検討しています。さまざまな地域や品目に対応したスマート農業技術を導入しやすい環境へと整備することが目標です。
そこで九州農政局は、情報の共有とスマート農業の社会実装の底上げをはかるため、九州各県庁、九州沖縄農業研究センター、実証農家と連携。さらに、農家に身近な地元IT企業などとのマッチングを図ることで、農業全体の生産性の飛躍的な向上を狙いとしています。
九州農業の「今」を知る
収穫ロボットやアシストスーツ、ドローンを活用した遠隔調査などの技術革新においては、作業時間の短縮・労働力軽減など農業者の負担を減らすとともに、自動化による生産規模の拡大や熟練農家の技術をこれから農業を担う若手世代に継承することが可能になります。このような技術を利用した実証プロジェクトにより、どのような課題が見つかったのでしょうか。
~各県庁及び実証農家の取り組み事例~
■ 福岡県
【実証例】 水田地帯におけるAIとIoTを活用した葉菜類大規模経営の実証
全国有数の生産地であるミズナ・コマツナなどの葉菜類が県の重要な経営類型となっている点から、安定生産や労働環境の改善を目指す。
■ 佐賀県
【実証例】 2年4作大規模水田スマート一貫体系の実証
大区画化した水田での収穫・収益増化や熟練農家者のノウハウを伝承するラーニングツールの開発・実証に取り組む。
■ 長崎県
【実証例】 生産から出荷をデータ駆動でつなぐスマート農業技術一貫体系の実証
農業産出額は8年連続で増加しているが、農業従事者の減少と中山間地域の多い地形に適応した技術確立に向けて、所得向上と産地の意地と拡大を目指す。
■ 熊本県
【実証例1】 スマート農業技術の開発・実証プロジェクト
【実証例2】 機能性食品素材加工工場を中核とした需要確定生産スマート農場クラスタの実証
【実証例3】 ICT技術やAI技術等を活用した「日本一園芸産地プロジェクト」の実証
情報の蓄積の再構築や災害緊急速報のメルマガ配信など普及活動の高度化・効率化を図り、スマート農業に対応した県民サービスの向上に取り組む。
■ 大分県
【実証例1】 大規模施設園芸の生産性を飛躍的に向上させる技術体系の実装
【実証例2】 大規模経営体における大苗定植と省力機械の導入による新たな効率的生産体系の実証
環境モニタリングシステムを導入による県オリジナル品種の早期ブランド確立や、技術の「見える化」を利用した新規就農者の早期技術確立などを目指す。
■ 宮崎県
【実証例1】 加工業務向け露地野菜における「機械化・分業化一貫体系」モデルブラッシュアップと水平展開の実証
【実証例2】 多様な人材が集う農業法人経営による全員参加型のスマート農業技術体系の実証
少ない労働力の下でも効率的かつ高収益を構築するため、先端技術を駆使する生産者や指導者の増加・技術を向上し、農業を魅力ある産業へ発展させる。
■ 鹿児島県
【実証例1】 中山間地における水田の高度利用技術省力化と乳用牛育成管理省力化の実証
【実証例2】 センシング技術に基づく統合環境制御の高度化によるピーマン栽培体系の実証
【実証例3】 次世代酪農業トータルスマートファーミングの実証 など
全国をリードするスマート農業先進県を目指し、農業者と企業の連携会議や農高・農大生対象の普及活動、人材育成環境の整備を実施し、稼げる農業の実現に取り組む。

スマート農業実証に採択された農家代表者による取り組み内容が発表されました。
【実証例レポート】~佐賀県の大規模水田での試みを見学~
上記の実証例のうち、令和元年6月13日に開催された佐賀県での自動運転田植機の実証見学会に参加してきました。会場はスマート農業実証農家現地圃場に採択された有限会社アグリベースにいやま圃場(佐賀県神埼市城原)です。見学会には100名以上が参加し、スマート農機の経営体への導入効果を実証するとともに、生産者等の見学の受け入れ等によりスマート農業の普及を推進する貴重な機会となりました。
誤差数センチ以下! 自動運転田植機とは
『RTK-GNSS』という言葉はご存知でしょうか? 人工衛星を利用して自分が地球上のどこにいるのかを正確に割り出す“GPS”のさらに高精度の測位を実現する新システムのことです。GPSのみ使用の場合、位置情報データは2メートル前後の誤差が生じますが、このRTK-GNSSはわずか数センチ内の誤差に止めます。
RTK-GNSSを利用した田植機は、運転操作を自動化することで、田植え・資材補給・監視を作業員1人で実現します。田植え作業のめに圃場最外周の3辺を有人運転で植え付ければ正方形や長方形だけでなく、不整形な圃場でも自動で走行経路の作成が可能となりました。さらに、切り返し不要の高速旋回により、誰でも熟練者並みの直進制度を得ることができます。ちなみにこのシステムを導入した自動運転田植機は、西日本では1号機となるそうです。
「能率向上により、力や労働時間の削減とともに規模拡大や増収を図ることができるので、収益2割増収を目指したい。今年5月からは人員も整えたので、問題改善にもめたい。今後は全過程の実証を行い、3年後にはモデル農家となり、佐賀から九州全域へ皆さんと一緒に盛り上げていきたいですね」と、担当者は話します。

見学会にて、実際に自動運転田植機を使用し、無人運転作業を行う様子。
九州農業の「これから」
徐々に広がりを見せるスマート農業ですが、地域間での取り組みの差や投資額の高さなど、いまだ数多くの普及を阻む課題があるのが現状です。今後、農林水産省は2019年夏を目処に「農業新技術の現場実装推進プログラム」を策定。2025年までには、農業の担い手のほぼすべてに対しデータを活用した農業の実践を計画しています。
これに伴い、九州農政局、各県庁、九州沖縄農業研究センターが強い連携を保ち、共有の農業データベースを構築することが不可欠となります。
今回の発足式で得られた情報や共通の方向性は、九州農業の明るい未来の礎になったと言っても過言ではありません。農業のさらなる発展に向けて、”オール九州”が大きく一歩前進したことでしょう。
問い合わせ先
九州農政局 生産部生産技術環境課
〒860-8527
熊本県熊本市西区春日2丁目10番1号
電話:096-211-9111(代表)
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