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駆除しても被害が減らないのはなぜ? ~“捕獲による対策”の落とし穴を知ろう~

駆除しても被害が減らないのはなぜ? ~“捕獲による対策”の落とし穴を知ろう~

イノシシやサル、シカなどの野生動物が田畑に侵入して農作物を食い荒らす被害が大きな社会問題になっています。全国で起きている野生動物による農作物被害は年間200億円前後で20年近く推移してきました。一方、獣類の捕獲頭数は年々増加し、現在は年間120万頭以上が捕獲されています(1997年は20万頭程度)。
捕獲しても思うように被害が減らないのはなぜでしょう。その理由を解説します。

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“捕獲による対策”の落とし穴

突然ですが、台所で生ゴミにハエがたかっていたらどうしますか?
庭に落ちているあめ玉にアリが集まっていたらどうしますか?
ハエやアリを追い払うと思いますが、それだけではないはずです。台所の生ゴミや庭に落ちたあめ玉をそのまま放置していたら、またハエやアリが集まってくるので掃除をするでしょう。
ところが、イノシシなどの野生動物による農作物被害への対策の場合は状況が異なります。

農作物の鳥獣被害はなぜ起こる? ~野生動物の素顔を知ろう~でご紹介したように、私たちは、放任果樹や放置された作物残渣(ざんさ)、耕作放棄地などによって、知らず知らずのうちに野生動物を誘引し、隠れ場所を提供しています。調査研究によってこれらのことが明らかになったのですから、生ゴミやあめ玉と同じように、放任果樹や作物残渣を野生動物の餌にならないように処理する環境管理が必要です。

農地の周囲に放置された作物の残渣

しかし、ほとんどの被害現場では、捕獲だけに頼ってしまうことが多いのです。残念ながら、野生動物を誘引してしまう要因を除去していく対策はほとんど行われていません。したがって、野生動物を次から次へと人里に誘引してしまう状況がなくなりません。これではきりがありません。

「駆除すれば被害が減る」は誤解?

なぜか私たちは、野生動物が相手となると「捕獲が一番良い対策だ」「捕獲すれば被害はなくなるはずだ」と考えてしまいます。
現在、イノシシとシカだけで1年間に120万頭以上捕獲されています。ところが、20年前に被害が社会問題となって捕獲が奨励されるようになってから今日に至るまで、被害は6倍以上に増えてしまいました。

被害を出す個体、特にイノシシは集落周辺を生活の拠点とすることが多く、山奥から通ってくる個体はあまりいません。
ところが、駆除されるほとんどの個体は山の中で捕獲されます。農地に侵入していない個体が、無実の罪によって命を奪われているのです。
なぜこのような事態になっているのでしょうか。

ハエやアリであれば、生ゴミやあめ玉の周辺で捕まえることもできますが、イノシシ、シカなどの野生動物をその場で捕まえることは困難です。
野生動物は、耕作放棄地や竹林など、農地周辺で隠れながら人の動きを察知しています。そして、人の気配を感じるとすぐに逃げてしまいます。

茂みに隠れるイノシシ

そのため、仮に野生動物を見つけても、ハンターが駆けつけた時にはすでに姿を消しています。
こうして多くのイノシシやシカは、人目を避けて夜に農地へやってきます。

たくさん捕獲して、野生動物の個体数や密度を調整すること自体は悪いことではありません(適切な個体数や密度の議論は非常に難しいのですが)。
しかし、人里に侵入する個体の行動特性を考えると、現在行われている捕獲手法では、農作物被害を減少させるのに効果的な手法とは言えません。しかし、個体数調整と被害対策のための捕獲は混同されることが多く、個体数調整が進めば農作物被害が減るような誤解をしている人々が多いのです。

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農村伝説に惑わされるな

私は野生動物に関して、科学的根拠がなく一時的な効果しかない対策や、昔ながらの言い伝えや勘違いを「農村伝説」と名付けました。
野生動物は、農家が思っている以上に農作物に価値を見出しているのですが、農家は農地の周囲に柵を設置する労力を避け、野生動物が嫌がる忌避物質等で野生動物を手軽に追い払えないかと考えてしまいます。

私たちは、野生動物の「本能」に目を向けて、本能的に忌避するものがあるはずと考えがちです。
例えば、イノシシの天敵であるオオカミの尿や猛獣のふんなどのにおいを用いてイノシシの行動を調査しましたが、イノシシがオオカミの尿や猛獣のふんを忌避する可能性はきわめて低いことがわかっています。

におい、音、光による忌避効果は「ハチに刺されたら尿をかけとけば大丈夫」と同じでおまじないのようなものです。

確かに病害虫に効果のある忌避剤は存在します。科学的根拠もあります。しかし、イノシシやサル、タヌキなど、哺乳類は優れた脳を持ち、さまざまな学習や経験をふまえて行動します。

イノシシの学習能力は高い

例えば、農地ににおい物質をまいた場合、野生動物はまず、環境に変化があることを認識して、その環境の変化が自分にとって安全であるか否か、様子見を行います。様子見は数日で終わることもあれば、数週間、数カ月続くこともあります。この様子見を、人間は「野生動物は怖がっている、忌避している」と勝手に判断してしまいます。

しかし、野生動物は冷静に判断し、環境の変化に危険は無いことを確認して田畑に侵入するようになります。さらに、野生動物は餌と餌のある条件とを結びつけることができます。人間が設置した光やにおい、音のある場所には餌がある、とそれらを目印として学習します。

また、イノシシやシカは本来、昼間でも行動する動物です。しかし人里では、危険を回避するために夜間活動します。そのため人間は、「野生動物は夜に活動するから光が苦手なはずだ」と勝手に勘違いしてしまいます。一方の野生動物は、人が来ない時間帯に田畑が光で照らされるため餌探しにとって好都合となるのです。

妨害のためのLEDライトの下を通るイノシシ

このように、「イノシシは夜行性だ」「最近のシカは双子ばかり産むようになった」「シカの唾液には毒があり植物を枯らす」「サルに石を投げると投げ返されるから危険だ」「モグラに野菜を食べられる」など、農村伝説は枚挙にいとまがありません。

これら根拠のない説に惑わされず、きちんと野生動物の生態や特性を理解して対策をとることが、鳥獣被害を減らすためには大切なことなのです。

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