親戚のブドウ畑を継ぐことに
──中岡さんは、なぜブドウの栽培をはじめたのでしょうか。
9年ほど前、親戚のブドウ畑を木ごと継ぐことになり、ブドウの栽培をはじめました。ブドウの木は樹齢約30年になります。継いだのは、藤稔(ふじみのり)、ピオーネ、マスカット・ベーリーAの3品種です。今後は品種を増やしたいので、自分でも追加で何品種か植えました。
──畑にたくさんの草が生い茂っていますが、草刈りは。
草を刈らなくてもブドウが育つのなら、やらないでいいと考えています。踏み倒したり、上半分だけ刈ったり、自然に枯れてもいきますし。
でも、作業をする上でどうしても草刈りが必要な時期があり、湿度が高くなる頃は風通しを良くするために刈っています。5月末から6月初旬にかけてブドウの花が咲きますが、特に満開が落ち着くまでは、土、草花、ブドウの木、それに微生物や虫、小鳥や小動物が創り出している畑の生態環境を壊したくないので、もうちょっと先まで待って梅雨入り前に草を刈ります。
私は、畑全体の生態系が作用しあって、さまざまなものが調整されていると考えているんです。そのため、肥料も農薬も施さず、できるだけ自然に近い状態を目指して栽培しています。
良い肥料を探し続け、ある日を境に「やめた」
──肥料も農薬も施していないとのことですが、どうして肥料を使わないのでしょう。
当初は肥料を使っていたのですが、ある日、ネットで調べていたら「肥料を施さない栽培」っていうのが出てきて、とにかく驚きました。新たな扉が開いたような感覚でしたね。その時に2つのことを知ったのがきっかけで、肥料を使うのをやめようと思いました。
1つ目は、全ての肥料というわけではありませんが、量や成分次第では肥料が作物を腐敗させてしまう原因になりうること。2つ目は、農薬も同じですが、水や土、畑、ひいては自然環境を汚染する可能性があるということでした。
あとは何より、野菜でも米でも果実でも、肥料を使わずに育てたものはメッチャおいしいと思うんです! おそらく、風土や品種の特徴などが生かされていて、植物の持つ本質的な成分がより多く含まれているからではないでしょうか。
──肥料も農薬も使わずに、収穫量は保てるのですか。
肥料を施す目的は、もともとは増産だったと思うのです。そういった意味から、肥料をやめた年は、やはり下がりましたね。それに、肥料も農薬も施さない私のやり方だと、継いだブドウの木は大きすぎるのだとわかりました。今は収量制限をして、毎年の収穫量を保っています。その収穫量が、この樹木にとって無理のない収穫量なのだと捉えています。一度、収量過多にしてしまったら、次の年に花が減ってしまったことがありました。それ以来、木に負担がかからないように気を付けています。肥料を施さなくても、ちゃんと育ちます!
──中岡さんの畑では種ありのブドウを育てていますね。種ありにこだわる理由は。
こだわっていると言うより、これが普通だと思っています。確かに、最初はこだわるような思いがあったかもしれませんが、私にとっては、ありのままの種ありブドウを育てるのが、ごくごく普通の感覚としか言いようがなくなりました。
初めて種ありのピオーネとマスカット・ベーリーAを食べた時はおいしさに感動して、そのことを今でもよく覚えています。最近売ってるブドウって種なしが多いでしょ。種ありブドウは本当においしいと思うので、もったいない感じがしちゃいますね。
──種ありブドウには、ブドウ本来のおいしさが詰まっていると。
人工的な介入があると、雑味が生じてしまう気がするんです。この畑には、ブドウ、草、微生物、いろんな生き物がいて、自然の生態系が育まれています。その中でたくましく育つブドウは、本当のおいしさを表現してくれていると思います。
委託醸造とワインの手売り
──中岡さんが販売しているのは、生食用のブドウとワインですね。売り先を教えてください。
生食用は、地域の自然食品店に卸すほか、個人販売で毎年買ってくださるお客さまもいます。ワインは委託醸造で、3カ所の醸造所にお願いして造っていただいています。現在ワインは、個人販売をメインに、ファーマーズマーケットなど地域のマルシェでも販売しています。その他に飲食店さまとも取り引きがあります。
──天然酵母で造るワインは「ナチュラルワイン」や「自然派ワイン」などと呼ばれ、食通のあいだで人気が上昇しているようです。中岡さんは、このワインをどんな人に、どんな場面で飲んでほしいですか。
それこそ地産地消で、地元の人に飲んでもらえるのが一番うれしいですね。
自園から生まれるワインは、飲み口は優しく、親しみやすさとなじむ感じがあり、スルスル飲めます。和食や家庭の味には、日本で育ったブドウで造られる日本ワインが合うと思うんです。地元で多くの方に、食卓の1本に選んでもらえるワイン、っていうのが私の目標です。