異色すぎる三足のわらじ、岡村さんが農業を始めたワケ
──農業と音楽、岡村さんの本業はどちらでしょうか?
nobodyknows+はメンバー全員がミュージシャン以外の生業(なりわい)を持っており、音楽スタジオや居酒屋の経営をしているメンバーがいます。僕の生業を割合で言うと農業が9割、音楽が1割。2018年までプロレスラーとして活動していた時も、農業が8割くらいだったので、本業は農業と言えますね。
──農業に関わったきっかけについて教えてください。
僕の友人が農家から野菜を買い取り、販売していたのを手伝ったのがきっかけです。といっても八百屋の店舗ではなく、軽トラに野菜を乗せて、知り合いの駐車場などでゲリラ的に移動販売をしていたんですけどね。その時にタスクファームの社長に声をかけ、僕たちに野菜を販売させてほしいと交渉したのがご縁で、今の職場に勤めることになりました。
──八百屋から生産側に回ったのは、何か理由があってのことでしょうか。
当時、野菜の事をお客さんに聞かれても何も答えられなかったので「これは勉強しなきゃあかん」と思っていたんです。そこでタスクファームの社長に「畑を手伝いに行きたいんだけど」と伝えたところ「バイト代は安いけどいいか?」とOKがもらえて。「やったぁ! 野菜の勉強をしながらお金もらえるなんて、くそラッキー!」と思い、就農しました(笑)。その後、八百屋は移動販売スタイルからひとつの店舗を設けるくらいまで軌道に乗ったけど、野菜を作る方が楽しかったから生産の方にシフトしました。
──八百屋を経験したとは言え、就農にはハードルがあったのでは?
僕にはタスクファームの社長という師匠がいて、農地も資材もタスクファームの物を借りることができたので、初期投資などのハードルはなく、恵まれていたと思います。ただ、日々越えていかなきゃいけないハードルはありますよ。毎日寒いし、暑いし、給料は安い。おまけに堆肥(たいひ)は臭うしね(笑)。それを上回る楽しさがあるから、のめりこんでいます。
岡村流・農業とのつき合い方
──農業はどんなところが面白いですか。
思い通りにいかないところですね。10年間野菜を作っていても、天候や害虫の発生率、人気のある野菜も毎年変わる。前年度と同じように作っても収穫量が年によって違うので、毎回違うドラマを見ているかのようです。農家が手をかけないと如実に野菜の収穫量や品質に表れるので、うまくいかなかったところは反省しながら克服していくのが楽しいなと。
──岡村さんが農業を楽しんでいる一方で、離農する若者が減らないのはなぜだと思いますか?
夢と希望を持ちすぎなんだと思いますよ。思い通りにいかない事が多いので「うまくいけばラッキー」と考えればいいと思う。僕はもともと八百屋で成功したいという願望があり、副産物的に生産が楽しいとわかったので就農しましたが、自分の目的の為に農業を利用しようと思うくらいでいいと思います。あと、なぜ農業をやるのかというビジョンがあると、結果が変わってくるんじゃないでしょうか。
──岡村さんの将来のビジョンについて聞かせてください。
音楽では紅白歌合戦に出たし、プロレスでは東海地方で一番有名な団体「今池プロレス」でチャンピオンになったし、結果は出したと思います。これからは農業で成功して、長久手市のいち農家として、市外への発信力を高めたいと考えています。
と言うのも、最近、長久手市では農家が増えており、直売所での販売も頭打ちになってきているんです。
そこで、長久手市の野菜をもっとお隣の名古屋市に流通させ、長久手の農業に貢献していきたいのです。タスクファームの売上で例えると、名古屋市の野菜市場のうち50分の1でも出荷ができれば、売上が今の250倍になると予測しています。市外への流通は、それだけ地元農業を盛り上げる可能性を秘めているんです。
スーパーに行くと他県で作った玉ねぎが並んでいます。愛知県にはおいしい野菜がいっぱいあるのに他県の野菜を買っていると、物流が止まった時に何も買えなくなり、生活に影響が出てしまいます。そこで自分達の住んでいる地域の野菜で生活できるよう、地産地消ができるようにしたいんです。将来的には長久手市の農業を市の産業になるまで発展させ、地域社会の中で経済が回るようにしていきたいですね。
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雑談がてら「半農半Xのように本業以外にも生業をもつ農業スタイルは、今後増えると思いますか?」と聞いたところ「僕の場合は、やりたい事をやっていたら何足ものわらじになったんです。生業を増やせばいいというものではないけど、辛い時には他にもできる事があると思うと、気分的にも楽ですよ」と、岡村さん。これから就農を考えている人は、これまでの本業を生かしつつ、自分にできるところから農業を始め、徐々に生業としての割合を増やしていくと良いかもしれませんね。