マイナビ農業TOP > 販路・加工 > 野菜嫌いの八百屋がドローンを飛ばす理由

野菜嫌いの八百屋がドローンを飛ばす理由

野菜嫌いの八百屋がドローンを飛ばす理由

農産物や加工品の卸・販売や食と農に関するイベント企画のほか、ドローンを使ったプロモーション活動なども行う「株式会社よろぎ野.菜(よろぎの)」。野菜を中心に取り扱っていますが、代表の吉田巧(よしだ・たくみ)さんは「野菜嫌い」を公言しています。そんな吉田さんが八百屋になった理由や農業の魅力、ドローンが解決する農業の課題などについてお話を伺いました。

twitter twitter twitter

【吉田巧さん プロフィール】

よろぎの 1978年生まれ。音楽活動に専念した20代前半を経て、2003年から08年まで情報通信業の株式会社光通信で営業職として勤務。同社を退職後、農産物の卸・販売等を行う2つの企業で経験を積み、2011年3月に「株式会社よろぎ野.菜」を設立。農産物の卸・販売のほか、マルシェなどのイベント企画やドローンの空撮映像を使ったPV制作等も行っている。

野菜嫌いが八百屋になった理由

「絶対に必要なものを売りたい」

──農業に関わるようになったきっかけを教えてください。

もともと音楽をやっていたんですが、25歳までに芽が出なかったらやめると決めていて、25歳で情報通信の会社に就職しました。ゆくゆくは起業したいとも思っていたので、5年で営業を覚えて辞めようと決めて入社したんです。

その5年が過ぎた30歳の時、退職の挨拶のために全国のお客さんを訪ねたのですが、その中に茨城県つくば市で野菜の卸をやっている会社があって、「まだ何も決まっていないなら1年間手伝いに来ないか」と誘われたのがきっかけです。

それまではグイグイいく営業で、いろんなものを売っていたんですけど、だんだん本当に必要なものを売りたくなってくるんですよね。コピー機でもパソコンでも通信機器でも、より便利なものはあるけれど最悪なくても大丈夫。それよりも衣食住に関わりたいと思っていた時にたまたま食の分野で声をかけていただきました。

ニンジン嫌いが人にすすめたくなったニンジン

──でも、野菜が苦手だそうですね。

そうなんです、野菜ダメなんですよ。特にニンジンが苦手で。

でも、その会社に誘われている時に、たまたまニンジン農家さんのところに一緒に連れて行ってもらったことがあったんです。農家のお母さんとみんなでしゃべって最後にニンジンをもらったんですけど、みんなその場でおいしいおいしいって生で食べるんですよ。

僕はニンジン嫌いじゃないですか。でも、お母さんは見慣れぬ子の反応を知りたいからじーっと見ているんですよ。仕方ないから頑張って一口食べてみた。そしたら意外とおいしくて、二口目までいけたんです。

で、そのときは俺も大人になったなぁなんて思って終わりだったんですけど、後日、カレーを作るときにそのことを思い出して。この間はおいしかったしなぁと思ってニンジンを入れてみたら、やっぱり僕の嫌いなニンジンの味だった。それで初めてすごく興味が湧いてきたんです。

「野菜嫌いの八百屋」は自己紹介の定番になったという

──お母さんのニンジンはどんな味だったんですか。

うーん、なんというか、僕は野菜の後味が苦手なんですけど、その野菜臭さが残る感じがなかった。もちろんニンジンらしい香りや甘みもあったんですけど、後にむわっと残る嫌な感じがしなかったんです。

それで、カレーを作った翌日、東京から茨城までニンジン農家のお母さんに会いに行って、野菜が苦手なことも正直に話して聞いたんです。お母さんのニンジンと昨日食べたニンジンの違いはどういうことなんだって。そしたら「当たり前じゃない」って。「人が作るものなんだから味や特徴が変わるに決まっているでしょう」って言われて、ああそうか、と。

やはりニンジン嫌いな実家の父にもすぐに送りました。いいものを見つけたらみんなに教えたくなるじゃないですか。そういう感覚になれたので、これは胸を張ってみんなに提案できる仕事になりそうだなと。

──それで茨城に移住されたんですね。

その卸の会社に1年弱、そこから独立された方の会社で副社長として2年働いてノウハウを身につけ、2011年3月に茨城県つくば市で起業しました。

社名に込めた思い

すべての生きている野菜を扱いたい

──「よろぎ野.菜」という社名の由来は?

「よろぎ」は漢字にすると「万木」と書きます。八百万(やおよろず)の神というように「万」はすべてのという意味。それに植物の木がついて、「万木」はすべての植物を表します。すべての生きている野菜、新鮮な野菜を扱う会社を目指そうという意味でつけました。

ただ「よろぎ野菜」ではひねりがないので、「よろぎ野」にしようかなと思っていたところ、ロゴのデザインを考えてくれた方が「菜」はマークみたいな扱いにしてしまえばいいのではないかとアイデアをくれて。「菜」は読まずに「よろぎの」。「野」と「菜」の間にある「.」は野菜の種に見立てています。

──事業の柱は?

メインはやはり農産物の卸・販売ですね。主に東京のスーパーや百貨店に入っている八百屋さん、飲食店などとお付き合いがあります。あとはショッピングモールなどで食のマルシェを開いたり、銀座にある茨城県のアンテナショップで野菜の販売イベントをしたり、料理教室や勉強会などを開催することもあります。

食のマルシェや野菜の販売イベントを企画している

ドローンが解決する農業の課題

ドローン映像で野菜の健康診断

──ドローンも飛ばすそうですね。何に使っているんですか?

大きな目的が二つあるのですが、一つは空撮のプロモーションビデオ(PV)を作るためです。スーパーでも百貨店でも生産者のコーナーがよくありますよね。顔写真が付いていて「私が作りました」っていう。それを空撮映像も入った1分くらいのPVにしてPOP広告として店頭で使ってもらいます。農家さんがホームページに載せる映像のために飛ばすこともあります。

もう一つは畑の管理のためです。簡単に言うと健康診断のようなものですが、植物が光合成をしている度合いが色分けされてわかるカメラがあります。熱で色を表すサーモグラフィックのようなものですね。

例えば、キャベツ畑の上からそのカメラで映像を撮って、あるプログラムで解析すると、緑色の濃いところは活性化して順調に成長しているとか、薄くなっているところは生育が遅れているとか、病気がちだとか、ここにダニがいるとかがわかる。そのデータをもとに農薬をまいてくれる大きいドローンもあります。

ドローンが栽培管理を手伝ってくれる

篤農家とシステムの判断にギャップが生じた

──人間が動かなくてもドローンがやってくれるんですね。

ところが、実はここに問題があって。おいしい野菜なり米なりを作る農家さんの判断と、大学の先生やメーカーさんが作ったシステムの判断との間にギャップが出てしまったんです。

システムは平均的なやり方に従っています。でも、おいしくていい野菜を作っている篤農家の方は、わざと農薬をまかなかったりすることがある。いまは野菜を厳しく育てているときだから少しやられていていいんだとか、わざと成長を遅らせているんだとかあるわけです。その人なりの技術の奥義が!

それでいま、「ドローン・ジャパン株式会社」さんや、東大農学部の先生と協力して、腕のいい農家さんに合わせてカスタマイズするようなシステムを作ろうとしています。その人のやり方をシステムに入れておけば、就農間もない人も技術を分けてもらえるじゃないですか。

──熟練の農家さんとの技術の差をシステムで埋めようとしているんですね!

ある米農家さんがこんなことを言っていたんです。「米は1年に1回しか作れない。人生でも30〜40回しか試せないから一回一回がすごく真剣なんだ」と。その言葉はものすごく響きましたね。でも、その30回もドローンのデータで早め早めに修正できたら、もっと短期間に理想に近づけるんじゃないかなって。

収穫減はドローンで確認して早めに手を打つ

野菜の生育状況を早めにチェックするのもドローンの役割

──八百屋としてもドローンを飛ばすメリットはありますか?

実は、ドローンを飛ばしたい理由は、うちが抱える最大の問題点にも深く関わっているんです。

例えば、うちがあるスーパーさんと8月から12月まで毎月10トンずつタマネギを売る契約をしたとしますよね。でも、その通りに野菜が育つことなんてなかなかないんですよ。天気が良くなって野菜がたくさんできたから早く売ってくれって13トン届いたり、逆に7トンしかできない時があったり。

一番困るのは量が足りない時で、取引先さんでも3トン分の事業計画が狂ってしまうし、うちも3トン分の信用を失ってしまう。でも、これをドローンで早めにチェックできたら早めに手を打てるんじゃないかと。他から少し融通してもらったり、取引先の方でも対策を考える時間ができたりしますよね。

契約販売の仕組みと物流を整備したい

──いま課題だと思っていることや、今後やりたいと思っていることはありますか?

解決したいと思っている課題が二つあります。

一つは飲食店が抱える課題ですが、仕入れ価格が安定しないことです。メニューの値段はそんなにコロコロ変えられないから、相場価格で仕入れをするのって会社経営としては怖いですよね。それを解決するために、最初から決められた価格と量で契約して野菜を納める仕組みにしていきたいと思う。

もう一つは物流の課題です。農家さんの販売先は、農協や近くの直売所に出すほか、個別契約の飲食店に売るというのがメイン。ですが、いま宅配便が値上がりしているので、それだけで高くついてしまいます。

そのため、東京23区に配達の便を持っている八百屋さんとタッグを組んで、安価に届けられる仕組みを作ろうと、いままさに動いています。この仕組みができると、運搬にかかる料金は従来に比べて5分の1程度になる見込みです。そうなれば配送料が高くて買えなかった人も買いやすくなるし、農家さんも売りやすくなるのではないか、と。

「食の課題を解決し、農業に新たな経済価値を創造する」というのが僕のビジョンです。物流についてはつい最近23区について見通しが立ったところですが、できるならもっと広げていきたいと思っています。

茨城県土浦市のレンコン畑にて

株式会社よろぎ野.菜

関連記事
“日本一のさつまいもオタク”が語る、イモと経営とIT
“日本一のさつまいもオタク”が語る、イモと経営とIT
サツマイモの生産・販売から、サツマイモ関連のコンサルティングやイベント企画なども行う「さつまいもカンパニー株式会社」の橋本亜友樹(はしもと・あゆき)さん。幼い頃から農業を志していた橋本さんは農学部を卒業するも、一度はIT…

あわせて読みたい記事5選

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する