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移住した集落で歌う農家ユニット「開墾のうた」が農家の心に刺さるワケ

移住した集落で歌う農家ユニット「開墾のうた」が農家の心に刺さるワケ

神戸市北区で「ささやき村農園」を営む坂東暁(ばんどう・あきら)さん(46歳)、由規(ゆき)さん(37歳)夫妻。不耕起、無肥料、無農薬の自然農法で年間約60種の野菜を生産しています。農業と並行して音楽活動を行い、畑から生まれたオリジナル曲で地域の人々に農の素晴らしさを伝えます。農園を訪ね、2人に詳しく伺いました。

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音楽と農業を両立

開墾のうた

ささやき村名物の四葉(すうよう)きゅうり。スーパーマーケットでは見かけない品種

シンガーソングファーマー「お花畑heads」とは

坂東さん夫妻は、お花畑heads(ヘッズ)というユニット名で音楽活動をしています。学生時代から作曲やライブ出演を趣味でやっていた暁さんと、友人に誘われて暁さんのライブに行ったのをきっかけに歌をはじめた由規さん。結婚する少し前から、2人で活動をはじめました。暁さんは「ナポリタ~ン暁(あきら)」という名前で、アコースティックギターとボーカルを、由規さんは「フランソワ・ユキ・春マリア」という名前でボーカルを担当しています。

開墾のうた

「聴く人の頭の中で花が開くような歌を届けたい」との思いで、由規さんがお花畑headsと名付けたそう

農業をはじめたワケ

中学の頃から農作物に関わる仕事がしたかったという暁さん。近畿大学農学部を卒業し、和歌山県の農業法人で住み込みで働いていました。その後、アルバイトをしながら音楽活動をしていましたが、結婚をきっかけに大阪にある老舗の八百屋に再就職。由規さんは事務職に就いていました。
通勤しながら細々と音楽活動を続けていましたが、暁さんは始発で出勤して終電で帰る毎日。由規さんも連日の残業。多忙すぎる暮らしに疑問を抱き、夫婦で話し合いを重ねました。結局、2人でできる音楽の道を選び、ライブに出演したりCDを作ったりと、本格的に音楽活動をはじめました。しかし、音楽だけでは経済的に厳しく、短期アルバイトへ。「アルバイトに行くなら、本当にやりたいことをやった方がいいのでは」と思うようになり、由規さんから「農業をやったらいいんじゃないの? 私も頑張ってみるよ」と暁さんに提案したそうです。
その時のことを、由規さんは次のように話してくれました。「結婚当初は農業に対して、屋外でのきつい体力仕事、経済面、すべてにおいて大変そうなイメージを持っていました。やったことのない私にはとてもできないと思っていました。でも、暁さんは農学部出身で農場勤めの経験もあり、そういうことが好きだと分かっていたから提案したんです。もともと暁さんがやりたかったことをやるのが一番自然だし、都会で消費しながら生きるということに疑問を感じていたので、就農を考えました」

農村への移住を希望し、いろいろと調べているうちに、由規さんの実家がある神戸市北区で農業塾が開催されているのを発見。農業未経験者の由規さんが「農業というものを勉強したい」と、暁さんと共に農業塾に通いはじめました。農業塾では、慣行農業を学んだそう。そして、農業塾の人から紹介された神戸市北区大沢町(おおぞうちょう)にある小さな空き家に移住し、就農することに。今から10年前のことです。

川口式自然農

どんな農法で作物を育てるかを2人で検討し、無農薬、無肥料、さらに大型機械を使わない「川口式自然農」を坂東さん夫妻は選びました。

自然農の畑で、毎日土に触れて、太陽や雨の恵みに感謝しながら野菜を育てていると、農作業をしながら曲や詞が浮かんでくることもあると暁さんは話します。畑で生まれた「はたけうた組曲」はお花畑headsの代表作です。組曲の中にある「開墾のうた」は、就農したばかりの頃、耕作放棄地を整備して畝立てをしているときに、自然と口ずさみながらできた曲なのだとか。

「開墾のうた」

荒れた畑の草を刈り/笹の根を切って/スコップとクワで畝を立てる

重い土を起こし/クワの背でたたいてほぐし/種をおろし/苗を植える/家を作る/息は白いが玉の汗が落ちる

僕の後ろに畝はなく/僕の前に畝ができる/春は、春はそこまで

後ろに進む僕の前に/明日へ続く畝ができる/春は、春はそこまで、春はそこまで

「畑をやりたい人が必ず通る、一番はじめのダイナミックな作業を表現したのが『開墾のうた』です。春、種をまくために畝を立てなければならないのですが、機械を使わない開墾作業はとても力のいる作業でしんどい。しんどいけれど、はじめたばかりの頃ってエネルギーに満ちているからやりきれるんです。ライブでは、新規就農者のやる気を後押ししたいという気持ちも込めて歌っています」と暁さんは話します。
聞いてくれた人からは「畝ができあがった時の感動を思い出した」とか、「キツかった時の記憶がよみがえって胸が熱くなった」などの感想をもらうそうです。

移住先での里山暮らし

開墾のうた

「耕さない」、「肥料や堆肥(たいひ)を入れない」、「草や虫を敵としない」を原則とする川口式自然農を少しだけアレンジして栽培

集落に溶け込むまで

「大沢町に来たばかりの頃は、不思議そうな目で見られることもありました。住んでいるのも小屋みたいな家だし、畑も自然農ですし。時間を重ね、今は地域の方にも仲良くしていただいています」とほほ笑む由規さん。「自然農の認知度が上がって、僕たちのような暮らし方自体も受け入れられやすくなったのかもしれません」と暁さんは言います。

開墾のうた

夫婦2人暮らしの小さな家。トイレがなかったため、暁さんが作ったそう

開墾のうた

家の奥にあるのは、アースバッグハウスと呼ばれる、土のうを積み上げて作る建物。2年前から作りはじめて、もうすぐ完成の予定

自然農と音楽がある「農的暮らし」

由規さんは次のように話します。「自然農をすることで自分たちの食べ物を得て、そして自然農のお野菜を愛してくださる人たちにも食べていただける。自然農の、自然の営みの中に混ぜてもらいながら感じたこと、そして出会った人たちとの交流などで感じたこと……、それを音楽で表現しています。さらに、自分たちが必要な建物は、なるべく周りの自然にある竹、カヤ、ササ、土、木などで作り、古くなったら土に還す。あとは、まきを使って調理するなど、模索しながらですが、そういう農的暮らしがしたいと思って取り組んでいます」

お客さんと農的暮らしを共有する

開墾のうた

農業体験を開きたい

いろんな人に、この農的暮らしを体感してもらうのが次の夢だという2人。以前、農業体験を希望する人から連絡をもらって、やってみたのだそう。「家族連れで訪れ、お子さんがすごく喜んでくれたのが印象的でした」と優しくほほ笑みます。

「家の前のスぺ―スにカマドを作りたい」とも言う由規さん。これから、みんなで食事ができるようなスペースも整える予定なのだとか。

開墾のうた

農園を訪れた子が書いてくれたと言う作文

しんどさも楽しさも、歌に思いを込めて

「自然農の野菜は、小さくてもギュッと味の詰まったおいしい野菜です。自然の命の巡りの中で作物を育てさせてもらう感謝、おいしいものを食べる幸せをお客さんや友達と共有したい」と2人は話します。

農業体験や歌を通じて、農的暮らしの素晴らしさを伝えるお花畑heads。自然農の大変さ、そこから得られる喜び……ささやき村農園で生まれる歌には、坂東さん夫妻の計り知れない気持ちが込められています。ぜひ「開墾のうた」を聞いてみてください。誰しも胸がいっぱいになるはずです。

ささやき村農園

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