食の安全が叫ばれる今だからこそ、安心・安全な国産キクラゲを食卓へ
福島県の北西に位置し、新潟県との県境に位置する西会津町。霊峰飯豊山に抱かれ、ゆったりと阿賀川が流れるこの自然豊かな町で、国産のキクラゲとシイタケ栽培に取り組んでいるのが『株式会社きのこ屋』です。
中国ではその栄養価の高さから『食べる漢方とも呼ばれるキクラゲですが、国内消費の98%は中国産で、国内自給率はわずか2%というのが現状。食の安全性が叫ばれる今、なぜ、国産キクラゲは流通していないのでしょう。
「キクラゲは国内での栽培数がまだ少なく、栽培技術も未確立な部分が多いことが理由の1つだと思います」と、分析するのは代表取締役の三留弘法さん。もともとシイタケの菌床栽培を行なっていた三留さんですが、生産者が多く、価格にも浮き沈みがあるため、安定した収益を上げるために新たな作付けを模索していました。キクラゲは生産者が少ないからこそビジネスチャンスがあると考え、2010年に菌床栽培によるキクラゲの一種、アラゲキクラゲの生産をスタートします。
三留さんが手がける国産キクラゲは首都圏を中心に販路を広げていきます。豊富な鉄分や食物繊維、ビタミンDを含むキクラゲは学校給食に多く用いられ、順調に売り上げも伸びていきました。
ところが、キクラゲ栽培を始めた翌年、東日本大震災が発生。原発事故による風評被害により出荷停止という窮地に陥ります。これからという時期に襲った未曾有の災害から三留さん、家族、スタッフ、そして国産キクラゲを救ったのは、地元の郷土料理でした。
「キクラゲと言えば西会津」。国産キクラゲの産地定着化を目指して
会津地方に古くから伝わる郷土料理『こづゆ』は、ホタテの貝柱でだしを取り、豆麩(まめふ)、ニンジン、シイタケ、サトイモ、糸コンニャク、キクラゲなどを加え、薄味に味を調えた具だくさんのお吸い物です。
会津藩のご馳走料理としてうまれたこづゆは、現在も正月や冠婚葬祭などの特別な日には欠かせないおもてなしの料理。三留さんは郷土料理にこそ西会津産のキクラゲに需要があると考え、地元のスーパーや直売所を中心に販売を開始。国産の生のキクラゲが地元で購入できることから徐々に注文が増えていきます。
さらなる経営の安定化を目指し、三留さんは2018年に『株式会社きのこ屋』を設立。2019年3月には農業生産の環境的、経済的及び社会的な持続性に向けた取組みを証明するグローバルG・A・P(以下、GGAP)を取得しました。
「震災後、NPO法人を立ち上げ福島産の農畜産物を首都圏で販売する活動を行なっていたのですが、そこで痛感したのは食の安全性を示すには裏付けが必要ということです。国際的な規格のGGAPを取得することで、首都圏への販路拡大のきっかけにしていきたいと考えています」。
2020年の東京オリンピックにおける選手村の提供食材にはGAPの取得が義務付けられているため、世界に西会津産キクラゲをPRするチャンスと三留さんは期待を寄せます。「中国産には負けない美味しさと歯ごたえを味わっていただき、“国産キクラゲといえば西会津”と認識してもらうことが目標です」。
また、GAP指導員の資格を持つ三留さんは、これから取得を目指す人への技術指導を通し、日本の農業経営に一石を投じたいと考えています。
「日本の農業は家族経営が多く、栽培技術や経営も感覚に頼る部分が多かったのは否めません。農家ではなく農業を職業として確立するためには安定した経営が必要不可欠です。農業の未来のために、自分の経験を生かすことができたら嬉しいですね」。
独立就農を目指して修行中! 国産キクラゲに見た、農業の可能性と希望
三留さんのもとで働きながら独立就農を目指し、栽培技術や経営を学ぶ安田悟さんは、福島県田村市の出身。希少な国産キクラゲにビジネスチャンスを求め、2019年5月からスタッフとして働いています。
「田村市の移(うつし)地区にある実家の土地は、農作物栽培に適していない山がちな地形と石だらけの地盤です。そんな土地で農業をするためにはどんな作物がよいだろうと探しているときに、きのこ屋の国産キクラゲを知りました」と話す安田さんの前職は国内大手の車メーカーの部品を製造する工場長。よりやりがいのある仕事を求めて就農を決意しました。「農業の面白さは発展途上の部分がたくさんあることです。自分の裁量でいろんなことに挑戦できるし、変えていくことができる分野だと思います。それを実践している三留社長は師匠であり、目標です」。
20度以上の温度帯が必要なキクラゲの収穫期は6月から10月。きのこ屋では年間を通した収益確保のために冬場はシイタケを栽培しています。そうした経営のあり方も安田さんのお手本になっているそうです。「スタッフを通年雇用し、企業として成り立たせることが自分の目指す農業です。農業は儲からないのではなく、企業体にすることで他の職業と同レベルで語ることができることを三留社長から教えてもらいました」。
震災による風評被害により、一時は廃業の危機に陥ったきのこ屋は、安田さんのように農業に希望を持つ研修生を受け入れることで、福島県の農業復興を担っています。「収益を上げ、経営が安定すれば農業はもっと魅力的な職業になるはず。それはやがて、農業県・福島の復活にもつながるのではないでしょうか」と、話す三留さん。
きのこ屋では現在10名のスタッフが西会津産キクラゲの産地定着を目指し、力を注いでいます。国内消費の9割以上が中国産のキクラゲがやがて国産に取って代わり、さらには西会津のキクラゲがシェアを占める日を目標に、きのこ屋の挑戦はこれからも続きます。
株式会社きのこ屋
住所:〒964-4401 福島県耶麻郡西会津町登世島字さゆりが丘1230−41
電話:0241-45-3372
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