農業経営は無限の可能性がある
――なぜ農業に転身しようと思われたのでしょうか。
もともと祖父が農業をしていたので、身近な仕事ではありました。ただ、父は継がず、母が細々とやっていました。私は消防士の傍ら休日に手伝う程度だったのですが、徐々に農業経営に興味を持つようになったんです。
ターニングポイントは全国屈指の農業経営者が集う次世代農業サミットでの出会いでした。私の地域の農業とはまた違う世界を垣間見た印象でした。
自分がいかに狭い世界にいるかを知ったと当時に、農業の可能性を感じたんです。それで専業農家になろうと決めて、10年勤めた消防士を辞めました。
――就農1年目から6500万円の売上を上げられたそうですね。一体どんなことをされたのでしょう。
まずは需要のある九条ネギを栽培することにしました。京都では年間通して収穫ができ、収益性の高い品目です。台風に弱いなどのリスクもありますが、植え直せばやり直しがききます。季節によっては収穫後1ヶ月でまた収穫ができるという点もメリットに感じました。
まずは見様見真似で作ってみて、その様子を近隣の農家さんに見てもらい、指導いただきながら覚えていきました。堆肥づくりからこだわって、栽培技術が上がってくると、身が詰まった良質なネギができ、単収も上がります。
収穫したネギは、加工業者を中心に、多岐にわたり独自に開拓した販路に販売しています。「畑にあるネギはすべて売る」をモットーに、廃棄を極限まで減らすことで反収をどんどん上げていく仕組みづくりをしました。
良いものを作り、出荷して需要を増やし、近隣の地権者から農地を借りて拡大する……をスピード感を持って繰り返しています。
去年は4ヘクタールだったのですが、来年には9〜10ヘクタール程まで広げる予定です。
人が集まる採用力
――今年の春から社員も増やしたそうですね。人材不足が深刻な農業界で、どうやって採用されているのですか?
社員4名に加えて外国人実習生やアルバイト、パートタイムの方など、20名超在籍しています。
私自身、農業を始める前はこの仕事に魅力的なイメージを持っていなかったので、正直「やりたい人いるかなあ」と不安でしたね。採用活用を始める前に、雇用に関して実績のある農業法人の話を聞こうと探していたところ、たまたま知り合いの方がいて、採用のポイントを聞きに行きました。
結果、私が気をつけたことは3つです。
1つめは、自分や農場の紹介。現状だけでなく、今後の事業展開やビジョンまで書くようにしました。自分の想いが伝わる文章になっているかを見直し、納得がいくまで文章を書き直しました。
2つめは収入などの条件。分かりやすく明記し、キャリアパスなど入社後の先までイメージできるようにしました。
3つめは写真です。プロのカメラマンに来てもらって、1枚1枚にこだわって撮影しました。ちょっとしたことですが、自分が求職者の立場に立った時に、少しでも検討しようと思えることが大切かなと思っています。
結果、予想に反して結構な応募を頂きました。面接に来ていただいた方に聞くと、農作業に興味を持ったというより、私の、「乞うご期待!」みたいな事業展望を面白いと感じて、期待してもらった方が多かったですね。
来春には四年制大学を卒業する学生が入社予定なのですが、インスタグラムを見て「見学に行きたい」と電話をもらい、決して近い距離ではないのに会いに来てくれました。
いきいき働ける職場環境
――経営も採用も順調ですね。これまでに失敗は無かったのでしょうか?
もちろんあります。一気に仲間が増えて、社員教育や業務管理では社員を苦しめてしまったこともあります。最初は私自身で全部やらないといけないと思い、対外交渉も農場のことも見ようとしました。でも当然、全部は見られず、現場のことは一部しか分からない状態になってしまったんです。中途半端に分かった状態で営業活動をして、たくさん契約を取ってきてしまい、出荷調整が追い付かずに負担を増やしてしまったこともありました。
そもそも、社長がいつまでも現場にいると邪魔なんだと気づきました。時々現場に入っては、作業に細かい注文をつける。社員からすると「それなら最初からやってくれよ」となるんです。そこに気づいてからは、私じゃなくてもできる仕事は任せるようにし、畑ではリーダー的な動きをすることは止めました。
社員も「こんなに早くから任せてもらえる」とモチベーションが上がり、結果良かったです。
農業は年に1回しか経験できないこともある。どんどん任せて経験してもらうことで、同年代の農家より成長を実感してもらいたいと思っています。
――職場環境で工夫されている点もありそうです。ベンチャー企業のような素敵なオフィスにもこだわりがありそうです。
従来の農業のイメージや「農家だからオフィスなんて無くていい」といった考えにとらわれず、社員が働きやすい環境を考えた時にオフィスは欲しいなと思いました。社員が作業をするスペースや休憩する場所もなるべく広く取りたい思い、オフィスの隣に出荷作業用のハウスを2棟建てています。
――その他にこだわりはありますか?
「ロック6箇条」という企業理念を掲げ、社員の指針にしています。
社長は技術力だけでなく人間力も大事だと思い、勉強会に参加して色々な人の話を聞いたり本を読むようにしているのですが、会社のビジョンや方向性を社員に浸透させることはやはり大事だと実感しています。
また未来開発部という部署を作り、社員にも新しい事業アイデアがあれば発信してもらって、事業化の目途が立てばチャレンジしてもらえる体制にしています。ロックファームが私だけの会社にならないよう、皆で作っていきたいと思っています。
仲間と実現した安定供給
――これだけスピード拡大していると、新規開拓や受注に見合う供給も大変ではないですか?
2018年12月頃から「京葱SAMURAI株式会社」という九条ネギの販売会社を作りました。
農地が限られた京都では、一軒ごとの農家の規模が小さく、供給しきれず欠品を出してしまう。そんな状況から、九条ネギを使いたくても使えないお客様もおられました。
この状況でロックファームだけが頑張っていても限界があると感じ、販売ルートをまとめて需要と供給のバランスをとり、九条ネギ自体をもっと普及したいと思いました。
そんな私の考えに賛同してくれた2人の農家と共に作ったのが、京葱SAMURAIです。
ロックファーム京都で栽培した九条ネギも、販売ルートは京葱SAMURAIにまとめることにしました。
――こちらもまだ設立間もないですが、実績はいかがですか?
3人でチームを組めたことで、京都府内で10箇所の圃場で生産できるようになりました。異なる地域で栽培することで、台風の被害や収穫時期も異なります。結果、欠品なく安定供給が叶い、高級スーパーや全国展開している大手スーパーとも取り引きさせてもらえるようになりました。今年は3億円近い売上になりそうです。
また、私は販売ルートの開拓や商談会のブース作りなど対外的な動きが得意で、彼らは高い生産技術と広い圃場を持っています。京葱SAMURAIを作ったことで、それぞれが補い合うことが出来ています。3人でもっと大きなビジネスをしていきたいと話しています。
――まだまだ大きくなっていきそうですね。
京都が農業としての認知度が低いからこそ、京都の農地を守り、農業を盛り上げていかなくてはいけないと思っています。そのためには拡大しかない。現状に満足せず、自由な発想で新しい挑戦をしていきたいですね。
【取材協力】ロックファーム京都