農業用プラスチックごみの削減に有効? 「長期展張が可能なフィルム」
近年、農業活動から排出されるプラスチックごみが問題になっています。
プラスチックの農業ごみと言えば、マルチシートとビニールハウスなどがすぐに思い浮かびますね。
なんと、日本国内での農業由来のプラスチックごみは年間10.4万トンも排出されているそうです(2016年、農林水産省調べ)。
また、これまでプラスチックごみを有償で受け入れてきた中国が、リサイクル施設での環境汚染等の影響から2017年末に受け入れを中止しました。
ちだ
これを受け、農林水産省は廃プラスチックの排出抑制のために、耐久性が高く3〜5年にわたって使用できる中長期展張タイプのフィルムを農業用ハウスなどに使うことを推奨しています。
農業で使われているフィルムには、いくつかの種類があります。
通称「農ビ」
農業用ポリ塩化ビニルフィルム
よく使われていましたが、農POと比較すると劣化が早く、かつ寒くなると硬くなります。劣化とともに透明性も落ちるため、1年経たずに張り替えるという場合もあります。
通称「農PO」
農業用ポリオレフィン系フィルム
PO系フィルムとも。展張できる期間は2年から10年と、種類によって違いがあります。
農ビに比べて軽く扱いやすい、強風に強いなどの理由から、農業用のハウスに使われているのをよく見かけます。ここ数年で、利用量が農ビを超えました。
フッ素フィルム
フッ素樹脂の特性を生かした耐久性の高いフィルムです。主に使用されているのはETFE (4フッ化エチレン-エチレン共重合体)という強い素材で、10年から20年以上張りっぱなしが可能なものもあります。
短期間で廃棄されるフィルム、それが長期展張のフィルムであればモノによっては10年20年使える!となると、処分費用の削減、張り替えコストの削減につながるのではないでしょうか。
今回は、そんな長期展張が可能なフィルムを実際に使っている方の声を聞いてきました。
伊豆の国市のミニトマト農家:井上さんに長期展張のフィルムについて聞いてきた!
今回お邪魔したのは、実際に長期展張が可能なフッ素フィルムを使って7年になる静岡県伊豆の国市のミニトマト農家、井上俊夫(いのうえ・としお)さんです。
元々は商社マンだったという井上さん。
50歳で会社を早期退職し「稼げる農業」を目指してミニトマトを選択。
研修制度、独立支援制度が充実していた伊豆の国市を選んで就農。現在農家11年目。
ハウスは20アールで、屋根部分にフッ素フィルムを使い始めて7年目。
長期展張のメリット
ちだ
井上さん
ちだ
井上さん
ちだ
1つは、ビニール張り替えコストの低減です。
もう1つは光の透過性ですね。
井上さん
ちだ
その中には20年はもちろん、30年張り替えなし、というものもあります。
農POを使っていると定期的に発生する張り替えコストが無いのは魅力でしたね。
井上さん
ちだ
具体的な金額って聞いちゃってもいいですか??
一方、エフクリーンに張り替えた時の総額は2反、屋根部分のみで550万円程度でした。
井上さん
※ 金額は当時のもので、かつ井上さんの場合。
ちだ
また、資材費と人件費は共に上昇傾向にあります。その上昇分を考慮してどの時点でどのくらいの投資を行うか、というところですね。
また、農POは年数を経ると透過率が落ちてきやすいので、その部分の考慮も必要です。
井上さん
ちだ
最初に使っていたPOは、3年目にはだいぶ透過性が下がっていたなと感じました。汚れや傷が原因ですね。
10年、20年と張り替えがなく、かつ高い透過性が維持できるのであればコスト的にもエフクリーンの方がメリットがあると考えました。
井上さん
ちだ
井上さん
仮に、2反のハウスを20年使うとして考えてみます。
5年で交換する農POフィルムを利用した場合、フィルムに関する投資は初回に張る費用に加えて5年目、10年目、15年目の3回の交換の際に必要になります。
1回あたり200万円とすると、200万円×4回分で総投資は800万円。
しかも、資材費と人件費は今後も上昇が予想されます。
一方、フッ素フィルムの場合は初回の投資は大きいものの、屋根など必要な部分だけに使用することで、井上さんのように600万円ほどに抑えることも可能です。
使用部分以外で状況に応じた張り替えは発生するかもしれませんが、大きな投資は初めの一回だけで済むでしょう。
※ いずれも骨組みを除く、フィルム代と人件費の合計。途中の修繕等は発生しないものとする。
また、光の透過率の経年による減少率は長期展張フィルムのほうが小さいので、その点も加味する必要があります。
長期展張が可能なフッ素フィルムのメリット
- 耐久性が高い
30年以上使われているものも。使用年数によってはコスト削減になる。 - 光の透過性が高い
高い透過性が持続するため、長期間使用できる。
長期展張のデメリット
ちだ
フィルム代だけで、ざっくり通常のハウスと比較して3倍から4倍のコストがかかります。
最初に大きな金額を用意しないといけないですからね。
ですが、張り替えコストを考慮すると合理的な投資であると私は思います。
井上さん
ちだ
物理的な刺激はどうでしょうか。ヒョウが落ちると破れるのでは、という声を聞いたこともありますが。
7年でヒョウも何度か降っていますが、穴が開いたりということはありませんでした。
井上さん
ちだ
井上さん
長期展張が可能なフッ素フィルムのデメリット
- コストが通常のものの3、4倍になる。
- 物理的な刺激に関しては、地域ごとの気候に合わせて対応が必要。
保険はどうしてる?
長期展張が可能とはいえ、通常の農業用ハウスの素材よりも初期投資が高額なフッ素フィルム。
となると気になるのが保険です。
大雪で潰された
台風で物が飛んできて壊れた
という話は珍しくありません。
そこで、農業用ハウスの保険を取り扱っている、農業共済組合連合会(以下、NOSAI<のうさい>)に行ってみました。
※ 農業共済組合連合会は、各都道府県に必ずあります。気になる方は、お近くの事務所をチェック!
NOSAIでかけられる保険を確認しておこう!
NOSAIでかけられる保険の主なポイントはこの3つです。
- 保険料は掛け捨て
- ハウスの構造によって掛け率が変化
- オプションでハウス本体だけではなく付帯施設なども対象にできる
作物によってハウスの構造や内部の施設は変わりますので、詳細な見積りが必要な時はこれらの点を具体的にしておくとスムーズに話が進むと思います。
また、フッ素フィルム部分のみに保険を掛ける、ということはできないそうです。
保険はあくまでも施設全体に掛かる、ということですね。
フッ素フィルムは他のフィルムと比較して高額なので、万が一の時の保険も一緒に検討するのがいいかもしれません。
まとめ
長期展張が可能なフッ素フィルムは、初期投資は高額になるものの、張り替えコストや高い光の透過率、フィルムの長期的な品質維持などを考慮するとそのメリットはあると言えます。
また、光の透過率が高くかつそれが長期間維持されることから、収量の面でもトータルで見るとプラスになると言えます。
もちろん、長期利用をすることでプラスチックごみの減少につながり廃棄費用も減少します。
高額なので保険も加味しつつ、効率的な経営判断を行いたいところです。