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今秋成立の見込み 肥料取締法改正で何がどう変わる?

小島 和子

ライター:

今秋成立の見込み 肥料取締法改正で何がどう変わる?

肥料取締法が15年ぶりに抜本的に改正される見通しです。粗悪品の流通を防ぐために非常に厳しく作られている肥料取締法ですが、そのため多様な原料を使いにくいなど、農業生産の実情にそぐわない点が目立ってきたためです。改正の背景と見直しの方向性、また農家への影響などについて、農林水産省消費・安全局農産安全管理課課長補佐の野島夕紀(のじま・ゆき)さんに話を聞きました。

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土壌の栄養バランス改善に欠かせない肥料

──そもそも、肥料取締法とはどのような性格の法律なのでしょうか。

安全で効果的な肥料を農家が適切に使えるように設けられた法律です。肥料には、見た目では品質の善し悪しを判断できないという特質があります。実際に使った後でさえ、効果がはっきりしないこともあります。農業には天候その他、多くの要因がからんできますから、農作物の出来不出来と肥料の関連が特定しづらいんです。
また、肥料メーカーと農家の間には、どうしても情報格差が生じやすいものです。そこで、メーカーが品質に関する正確な情報を提供し、公正な取引が行われるよう肥料の規格や登録肥料を法で定める必要があるわけです。

──今回の改正にいたった背景や見直しのポイントを教えてください。

肥料の効果や安全性を確保することは重要なので、規格や登録制度は維持します。
しかし現行法ができたのは1950(昭和25)年とたいへん古く、最後に実質的な改正が行われたのも2003(平成15)年です。農業現場の実態に合わなくなってきたため、主に2つの視点で見直しを進めてきました。
1つは、地力の回復と土壌の栄養バランスの改善です。これには、全国的に地力が低下し、収量の低下が懸念されているという背景があります。水田への堆肥(たいひ)の投入量は、過去30年間で約4分の1にまで減少しています。農家が高齢化し、重くて扱いが面倒な家畜ふん堆肥が敬遠されているためです。その結果、コメや大豆の反収が減っている地域があります。
また、肥料の三要素といえば窒素、リン酸、カリウムですが、実は農産物の成長にはマンガンやホウ素などの微量要素も欠かせません。微量要素不足でバランスが悪化した土壌では、作物に病気が発生するなどの悪影響があります。
こうしたことから、これらの問題の改善に貢献する肥料制度のあり方を検討してきました。
2つめは、肥料原料の海外依存度を下げることです。肥料価格は、リン鉱石やカリ鉱石といった輸入原料の需給動向に左右されがちです。実際、2008年には価格が2倍に跳ね上がったこともありました。農家に肥料を低価格で安定的に供給するため、国内で調達可能な未利用の産業副産物などを、これまで以上に有効活用する必要があります。

堆肥投入量の減少に伴い、全国的に水田の地力も落ちている(農林水産省「肥料をめぐる状況と見直しの方向について」より)

改正によって何が変わる? 農家のメリットは?

──改正によって大きく変わるのは、具体的にどのような点なのでしょうか。

見直しの方向は規制強化と規制緩和に大別されます。強化については、肥料メーカーの原料管理制度を徹底します。2015年に肥料の偽装表示が発覚し、使用していた農家が大きな損害を被るという事件がありました。あのようなことは二度とあってはなりません。そこで改正法では、肥料の原料として利用可能な産業副産物の範囲を明確にした上で、原料の虚偽表示を罰則対象とすることが盛り込まれます。
緩和については、肥料の配合に係る規制を示す公定規格を見直し、さまざまな農家のニーズに応じた新たな肥料の開発や利用が進むようにと考えています。肥料は、家畜ふんなどから作られる「堆肥」などと工業的に作られる「化学肥料」がありますが、この2つを自由な割合で配合して販売できるようにします。また、さまざまな微量要素などの組み合わせ方も柔軟にできるようになります。

時代の要請に合わせ、15年ぶりに見直しが進む(農林水産省「肥料をめぐる状況と 見直しの方向について」より)

──改正によって、農家にはどのようなメリットがあるのでしょうか。また、注意すべき点はありますか。

堆肥と化学肥料を自由な割合で配合できるようになることで、実はかなりのメリットが生まれると考えています。これまで堆肥と化学肥料を別々に散布しなければなりませんでしたが、1回の作業に集約できれば農家にとって大きな負担軽減になります。堆肥には窒素、リン酸、カリウムの含有量が不安定という弱点がありますが、化学肥料と配合できればその点を補うことができます。堆肥利用を進めれば、地力の回復につながるでしょう。
また、肥料価格が下がることも期待できます。現在販売されている配合肥料には、なたね油かすなどの有機質肥料が用いられているものがありますが、実は有機質肥料は価格が高い。そこを安い堆肥と置き換えれば、肥料価格が10〜30%程度下がると見ています。
また、注意すべき点は特にありませんが、これまで同様、品質表示をきちんと確認した上で、利用していただきたいと考えています。配合の規制が見直されることで、多種多様な肥料が流通するようになるので、ご自身にとって、どんな肥料が適切かを見極めることが重要となってくるでしょう。

──規制強化という側面もあるとのことですが、肥料メーカーにはどのような影響が出るのでしょうか。

肥料メーカーが産業副産物を原料に肥料を生産する場合は、原料帳簿を備え付けることが義務付けられます。一方で、利用可能な原料を国が明確化することで、むしろ肥料メーカーにとって透明性が高く、わかりやすい制度になると考えています。これまで副産物肥料の規格においては、どんな原料が安全で使用してよいのかは示されておらず、登録審査時に弾かれていたからです。さらに、堆肥と化学肥料を自由な割合で配合できることで、市場の細かいニーズに合わせた多種多様な肥料を作れるようになりますから、商品開発の幅が広がります。ビジネスチャンス拡大と考えていただければと思います。

農林水産省消費・安全局農産安全管理課課長補佐の野島夕紀さん

改正法を生かして生産性をアップ

──改正法の施行に備えて、農家が取り組むべきことはありますか。

この秋の臨時国会で通れば、規制緩和の部分については成立から1年後、強化の部分は肥料メーカーの準備期間を見て、2年後をめどに段階的に施行される見込みです。
その間、ぜひ農家の方に取り組んでいただきたいのは土壌診断です。従来より多種多様な肥料が製品化されるようになりますが、自分の田んぼや畑の状態を正しく知っておかないと、どの肥料を使うのが最も効果的なのかわかりません。慣行農業の場合、土壌診断を行っている農家は4割程度に過ぎないというデータもあり(※)、地力が落ちているという認識がないまま生産を続けている農家も多いのではないでしょうか。
農家自身で土壌診断結果を読み解くのが難しい場合もあるでしょうから、ぜひ専門家の力を借りていただきたい。各都道府県の普及指導センターやJAでもいいですし、「土壌医」や「施肥技術マイスター」といった土づくりに関する有資格者に相談するのもいいでしょう。農水省のサイトにも「土づくり専門家リスト」を掲載していますから、参考にしてみてください。
今回の改正は、とにかく農業の現場に役立つようにという方向性で進めてきたものです。ぜひ法改正を機に、さらなる生産性アップに取り組んでいただきたいですね。

※ 「平成30年度 環境保全に配慮した農業生産に資する技術の導入実態に関する意識・意向調査」(農林水産省)より、農林水産情報交流ネットワーク事業の農業者モニター1024人の回答結果。

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