内容は盛りだくさんで難しそうに感じるかもしれませんが、育てること自体はとても簡単で、強靭な植物の桃。サクラにも負けない美しい花を見るだけでも楽しめる果樹です。初めての収穫を迎えた後、もっとおいしい果実をたくさんとりたい!とスキルアップしたくなって、またこの記事に戻ってきたときのために、ちょっと詳しく書いておきますね。
桃の品種
まずは主要な桃の品種を紹介します。
大まかに二つの系統に分かれていて、花粉を有しており一本でも結実・収穫できるものと、授粉樹が別に必要なものがあります。家庭果樹の場合は、一本でも結実するものをおすすめします。
ひめこなつ
市販されていて皆さんがよく見る桃よりも一回りも二回りも小さい桃です。糖度もそれなりですが、極早生(ごくわせ)種で、春に花が咲いてから2カ月後の梅雨前には果実が収穫できるため、袋かけも不要で、とても簡単に桃を楽しめます。一本でも結実します。
日川白鳳(ひかわはくほう)
早生(わせ)種の桃で、梅雨時期の収穫になりますが、この辺までは袋かけなしでもなんとか桃が収穫できます。とはいえ天候によっては病害が出てしまいますので、袋かけをした方が安心でしょう。一本でも結実します。
あかつき
関東でよく出回る本格的な中生(なかて)品種の桃です。梅雨が完全に明けてからの収穫になりますので、糖度ものりやすく、比較的作りやすい優秀な品種です。本格的な桃栽培をしてみたいのであれば、この“あかつき”や“白鳳”がいわゆる王道だといえます。一本でも結実します。
川中島白桃(かわなかじまはくとう)
晩生(おくて)品種で、硬くガリガリとした食感のとてもおいしい白桃です。袋かけや農薬散布ができる人であれば白桃に挑戦してみるのもよいでしょう。糖度も高くなるためとても人気の桃です。花粉を持たないため、白鳳系統の花粉を持つ品種と一緒に植えなければ実りません。
それでは栽培について説明します。
桃の植え付け
植え付け時期は11~12月、凍害の恐れがある寒い地域では3月頃の春植えを推奨します。
大きめの鉢やプランターでも、小ぶりではありますが、充分に楽しめます。
50センチほどの穴を掘り、堆肥(たいひ)20キロと石灰500グラム、肥料1キロ程度(窒素-リン酸-カリが8-8-8の場合)をよく混和して埋め戻します。深植えにならないように気を付けて、根をできるだけ四方に伸ばして植え付けましょう。
鉢植えの場合は、市販されている花木用の土(なければ野菜用の培養土でもかまいません)7割に鹿沼土を3割混和して植え付けます。
添え木にゆるく結び、接ぎ木部分から10芽(鉢植えの場合は思い切って5芽)くらいまで切り詰めます。
桃の剪定
桃の生理を理解して剪定(せんてい)に挑みましょう。一つ一つの木がそれぞれに個性を持っており、これが正解、というものがないのが難しいところでもあり、また楽しいところでもあります。
落葉した12月に切るのが最も適切です。
幼木期の剪定
植え付け2~4年目の剪定、仕立てが、将来の木の骨格を決定付けます。基本的に家庭果樹での桃栽培は、2本主枝をオススメします。植え付け後にしっかり切り詰めておけば、2年目には四方に強い枝が広がっていると思いますので、立地スペースに応じて、木の伸びる方向を考えてひもや添え木によって方向を矯正します。
枝がたくさん出ていると切るのが惜しいですが、将来メインとなる骨格を優先して残し、真上に立ち上がった枝(立ち枝)は除去するか、メインの枝よりも樹勢が強い場合にはそちらをメインに切り替えましょう。また、伸ばしたい枝の先端は今年伸びた分の1/5ほど切り詰めておきます。詳しくは成木の剪定の項で説明します。
成木の剪定
桃の木の剪定でまずやるべきことは、立ち枝の除去です。真っすぐ上に立ち上がっている立ち枝を根元からバッサバッサと切り落とします。
植物は高い位置に優先して養分を送る性質があるため、これを残していると、立ち枝ばかりが成長し、肝心の伸ばしたい枝が弱ります。立ち枝には、葉はよく茂りますが、花も実もあまり期待できないので問答無用で切り落としましょう。
5月の摘心 これを春にやっておけば……
成木になっても立ち枝が茂りすぎて全部落とすのに一苦労、という状況は、おいしい桃をとるために適切な状況とは言えません。肥料の効きすぎ、剪定のし過ぎ、という二つの原因が考えられます。5~6月に、これは立ち枝になりそうだぞ、と思える枝を軟らかいうちに摘んでおけば、立ち枝が茂りすぎることを抑えることができます。
立ち枝を落として幾分すっきりしたところで、細かな剪定に入ります。
基本的には日当たりが良くなるように、太陽の角度を考えながら、日陰になる恐れがある枝を抜いて、まんべんなく日照を得られるようにします。
伸ばしたい枝の先端を切り詰めるのですが、木の先端というものは、今は数ある枝の一本ではありますが、将来の骨格を担う部分です。
外芽を先端に残して切除することによって、木は横へ横へと広がっていきます。必ず内芽ではなく、外芽の上で切りましょう。
また、切り詰める長さによって、次の年に出る枝の強さが変わってきます。切り詰めれば切り詰めるほど翌年は枝が強く伸び、長く残すほど翌年の枝の伸張が短くなり、花や実がつきやすくなります。樹勢にもよりますが、木の先端の枝は今年伸びた分の1/5程度は切ってしまい、強い枝の発生を促しましょう。
桃の肥料
肥料を与えるタイミングは、桃の場合は特に果実の食味に直接影響します。
元肥として10月下旬に有機肥料3キロ(8-8-8の場合)、7月に“お礼肥(おれいごえ、おれいひ)”としてお疲れ様の意を込めた追肥を2キロ散布します。
栽培カレンダーにあるように、6月に収穫を終えて疲れきった木は、目には見えずとも、7月の盛夏期に来年の花をせっせとこしらえています。7月のお礼肥は、来年の花芽づくりを促す意味があります。
ただし、川中島白桃などの晩生品種があったり、収穫が遅かったりする冷涼地域では、収穫が終わるまでお礼肥は遅らせましょう。食味の低下につながります。
桃の摘蕾・摘果
桃の摘果は、早ければ早いほど効果が高いです。桃農家は、花が咲く前につぼみを半分以上落としておく“摘蕾(てきらい)”をおこないます。結実率の高い桃だからこそなせる技ですね。
花を楽しみたい方は開花終わりでも良いので、できるだけ早いうちに数を減らしておき、最終的には一枝一果になるように調整します。
いきなり一つだけにしてしまうと、何かあった時に替えが利かないので、2~3回に分けて実施します。
桃の袋かけ
最終的な摘果が終わり、一つの枝から選りすぐりの一果を残したら、できるだけ早くに袋かけを実施します。
晴れの日を選んで、殺菌剤の散布をして袋かけに入ります。袋かけ直前の薬剤散布が最も高い効果を発揮します。病原菌も一緒に袋で閉じ込めることのないよう、このタイミングの殺菌剤は必ず散布しましょう。
桃の病害虫防除 コスパ最高?の手作り防除体系
桃は、病害虫さえなければ、肥料がなくてもよく育つし、放っておいても受粉して実がなるし、とても栽培が簡単な果樹です。
ただ、その病害虫防除が唯一かつ最大の難点だと言えるでしょう。家庭果樹において毎週のように薬剤散布することはとても現実的とは言えませんので、最低限やっておくべき防除体系を組んでみましょう。年に4回の農薬散布で立派な桃をとるための指針にしてみてください。
ちょっと難しい内容かもしれませんが、農薬を使うつもりがない人も、病害虫の発生時期だけは見ておきましょう。
落葉期(休眠期)の防除
桃の葉がボロボロになり、果実にも被害が出る最大の病害「せん孔細菌病」は、発症してしまってからの防除では何の意味もありません。石灰硫黄合剤を利用できる人は、開花直前の2~3月に、入手が難しい人はZボルドー銅水和剤を散布しましょう。
春の防除
4月には、多くの虫や病原菌が動き始めます。本当は4月・5月には何回でもかけてほしいのですが、どうしても一回に絞るのであれば、4月、桃が腐ってしまう「灰星病」と、この時期に活動を始める「ハモグリガ」の防除に、デランフロアブルと殺虫剤(スミチオン水和剤など安価なものでも可)を混合して散布しましょう。他の果樹も栽培しているのであれば、デランフロアブルは持っておいて損はありません。
袋かけ直前の防除
この防除体系では、袋かけ直前の時期にEBI系統の農薬を持ってきました。アンビルフロアブル、オンリーワンフロアブルなど、何を言っているか分からない人は、最寄りの大きめの園芸店やJAの資材売り場に行って「桃に使えるEBI系の殺菌剤ください」と言って、出してもらってください。この場合も、お手持ちの殺虫剤を混合してください。春の防除とは違うものをおすすめします。「シンクイムシ」が6月から、越冬している場合は5月から活動します。また、「コスカシバ」という、桃の木を枯らすくらいの食害をもたらす蛾も発生します。
収穫後の防除
収穫後は放置してしまう人も多いでしょうが、農薬散布を減らして収穫するためにも、台風の前後にZボルドーを散布できると良いでしょう。
強風で傷付いたところに、最悪の病害「せん孔細菌病」が侵入します。「コスカシバ」や「コナシラミ」などの害虫もいますので、殺虫剤は混和しておきましょう。
以上、最低限、殺虫剤はできるだけ2種類を交互に使用し、殺菌剤はデランフロアブル、EBI系、Zボルドーの3種で対応します。余裕があれば、アミスター10フロアブルも用意して、袋かけ後にも散布すると、ほぼ全ての病害虫にピンポイントで対応できます。
かなりの長尺になってしまいましたが、桃栽培の最中、何度でも振り返られる内容にできたと思います。ぜひチャレンジしてみてください。
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