地中熱ヒートポンプとは
近年、発電時にCO₂を排出しない自然エネルギーが注目を集めています。太陽光や風力が広く知られていますが、地熱や地下水などの「地中熱」もまた、自然エネルギーの一つであることをご存知ですか?
地中熱とは、浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギーです。地下10~15mの地中の温度などは大気とは異なり、1年を通じてほとんど変化しません。そのため、夏場は外気温度よりも地中温度が低く、冬場は外気温度よりも地中温度が高いことから、この温度差を利用して効率的な冷暖房を行うことができます。
熱をくみ上げ、増幅させるシステムを「ヒートポンプ」と呼びます。省エネ効果が高い地中熱ヒートポンプは一般住宅を初め、公共施設などの冷暖房に多く活用されています。
このヒートポンプ技術を家庭用ストーブから大規模施設暖房まで提供しているのが、岩手県花巻市に本社を置く『サンポット株式会社』です。環境対応総合暖房機器メーカーとして培ってきた技術を農業の現場にも活用することで、農家の長年の課題であるハウス栽培のコスト削減につなげていきたいと営業推進部の鈴木弘美さんは話します。
「ハウス栽培の暖房は重油を使ったボイラーが主流でしたが、気温が低い地域においては、冬季のハウス栽培で一棟あたり数百万円を超える暖房費がかかる場合もあるそうです。地中熱ヒートポンプを併用することでコスト削減を図り、営農に役立てていただきたいと考えています」。
そこで気になるのが削減率です。同社の地中熱ヒートポンプ冷暖房システムを導入した一般家庭のデータをみると、灯油ストーブとエアコンの併用に対し、年間の冷暖房費が54%も削減できたことが実証されています。また、作物の生育を促すためには主に暖房が使われますが、地中熱ヒートポンプは冷房として利用できるのも大きなポイントです。
農林水産省の研究事業(2012~17年、※注1)においても、地中熱ヒートポンプがランニングコストの軽減と出荷時期の前倒しを可能にし、イチゴ農家の収益改善に効果的であることが実証されたとしています。
この事業に協力し、増収とコスト削減を実現したのが宮城県山元町でイチゴ農家を営む菊地義雄さんです。地下水を利用した地中熱ヒートポンプは、イチゴの栽培技術「クラウン温度制御」の効率化を可能にしました。
(※注1)農林水産省「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」「施設園芸栽培の省力化・ 高品質化実証研究」 (施設園芸復興コンソーシアム)
地中熱ヒートポンプでクラウン温度制御の効率化を実現
イチゴの「クラウン温度制御」とは、九州・沖縄農業研究センター久留米研究拠点(旧 野菜・茶業試験場 久留米支場)で開発された栽培技術です。チューブに冷水や温水を流してイチゴのクラウン(株元)だけを直接冷やしたり、暖めたりすることで、連続出蕾(しゅつらい)と生育促進により増収を図ることができます。
「クラウンを冷却すると果実が大きくなって花芽分化が安定します。反対にクラウンを温めると葉が大きくなります。それに伴って次の花房も早く出るため、収穫の中休みが短縮されて早期収量を倍増することができます」と、その効果を話す菊地さんは、地中熱ヒートポンプを導入する以前、空気熱を利用したヒートポンプでクラウン温度制御にチャレンジした経緯があります。
しかし、地中熱に比べて温度変化が激しい空気熱では大幅なコスト削減は期待できないことが判明。また、暖房時期に気温が低いと室外機の霜取り運転を行うため、効率が低下するデメリットもあったそうです。
それに対し、外気温の影響を受けない地中熱は、少ないエネルギーで年間を通し安定した温度管理をすることができます。地下水が豊富な山元町の特性を生かし、菊地さんは地中熱の一つである地下水を利用した地中熱ヒートポンプの導入に乗り出します。
「海が近い山元町の地下水は塩分や鉄分が多く、農業用水や飲料水には適していません。しかし、クラウン温度制御はチューブに流すことを目的としているため、水質を問わず使うことができるのも大きなメリットです」(菊地さん)。
クラウン温度制御によって収穫期間が早まり、さらに延長が可能になることで増収とコスト削減につながったと喜びの言葉を続ける菊地さんは現在、47aのハウスで約3万3000株の『とちおとめ』を栽培しています。
「初期投資にかかった費用は、高値で取引されるイチゴを栽培することで早期に回収することができます。ランニングコストは従来の半分以下という実証結果も出ており、長年の課題であった継続的なコスト削減が実現できそうです」。
作物や地域に適したシステムを構築
地中熱ヒートポンプのみで施設の暖房を補おうとすると、導入台数を増やす必要があり、初期投資がかかり過ぎてしまいます。そのため、『サンポット株式会社』ではトータルコストを低くする目的として、重油ボイラーとの併用を推奨しています。
また、作物の種類や地質状況によって安価に利用できる自然エネルギーが異なることから、今後はさらに実証実験を重ね、農業利用に特化した地中熱ヒートポンプシステムの構築を目指しています。
「地中熱ヒートポンプの農業利用は、農家さんのアイデアから生まれました。今後も協力を仰ぎながら日本の農業を支える製品づくりに尽力していきます」(鈴木さん)。
昨今の重油価格を鑑みても、地中熱ヒートポンプによる冷暖房システムは大きなコスト削減効果が期待されます。さらに、品質向上と安定出荷につながることで、増収・高値出荷が見込まれます。
原油価格が乱高下を繰り返す近年の状況は、石油系のボイラーのみを使うハウス栽培農家にとっては死活問題。重油ボイラー単体の暖房費にお悩みの方はぜひ、地中熱ヒートポンプの導入を検討されてはいかがでしょう。
【お問い合わせ】
サンポット株式会社
住所:〒023-0301 岩手県花巻市北湯口2-1-26
電話:0198-37-1175
ホームページはこちら