農家が選ぶ! 本当に育てたい春夏野菜品種【トマト・ナス・ピーマン・パプリカ編】
公開日:2019年12月27日
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来年の春夏は何植える!? 話題の新品種から、定番の王道品種まで。種苗会社のカタログを見ながら計画を立てるのはわくわくしますよね。農業系ポッドキャスト「ノウカノタネ」のつるちゃんとテツ兄も、なにやら楽しそうに次の作付けについて語り合っているようです。前半では、不動の人気を誇るトマトとナス、ピーマン、パプリカについて、二人の品種談義をお送りします!
<プロフィール>
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つるちゃん:福岡で夏秋ナスを中心に栽培する30代農家。園芸公園の果樹指導員として、栽培指導もする。今年は多品目栽培に挑戦する予定なので、新たに育てる品種を探している。
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テツ兄:福岡の多品目野菜農家。西洋野菜を中心に、夏場はナス、ピーマン、ズッキーニなどの多品種栽培をおこなっている。ノウカノタネの兄貴的存在で、その新品種研究に対する情熱はヘンタイの域に達している。
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【トマト編】病気・裂果に強い品種は?
家庭菜園をやっている人も直売所向けの多品目農家の人も、やっぱり気になるのがトマトでしょう。トマトは夏に作るイメージがありますが、西日本では暑すぎて大玉トマトは作りにくいんですよね。トマトが作れる地域で、直売所出荷用や家庭菜園で作られているのはやっぱり「桃太郎」系列が多いんじゃないでしょうか。最近作っている人が増えてきたのは、「桃太郎8」や「桃太郎ファイト」。僕は「桃太郎なつみ」は知らなかったんですが、減農薬栽培に向くそうなので、病気に強いんでしょうね。 桃太郎系以外だとどんなトマトが周りで反応がいいですか?
昔ながらの青臭いトマトが好きな人には「強力米寿」が人気だね。酸味が強くて、塩をかけて食べたくなる味だよ。食べやすい桃太郎系との差別化ができるね。直売所では懐かしい味だと喜ばれたよ。
「麗夏」も最近すごくよく聞きますよね。夏秋トマト栽培のプロ農家でも麗夏を作っているという人が増えてきました。何がいいんですか?
麗夏は玉自体がすごく硬くて、裂果に強い。夏のトマトは割れが起きやすい梅雨時期を越えないといけないので、これはうれしいよね。裂果が少ないという理由のためだけに麗夏にする価値が十分にあるかな。同じ理由で「パルト」も評判がいいね。
ミニトマトはどうでしょうか。「アイコ」がスーパースターっていうイメージがありますけど。
上段左からトスカーナバイオレット、オレンジ千果、アイコ、下段イエローミミ、ミドリちゃん、千果
「千果(ちか)」もいいよ。栽培しやすいし、収量も安定してるね。「オレンジ千果」は特に食味が良くて好評だったよ。
あとは、最近知り合いが作っていて興味を持ったのが「ピンキー」かな。超薄皮なんだよ。触ったらぽよぽよしていて、かんだ瞬間ブワーって中のゼリーが出てくるんだ。
僕も聞きました。皮が硬いミニトマトが多い中、超薄皮のピンキーはお客さんに大人気で、直売所に出荷している友人が爆売れしたと言っていました。ご高齢の方にはちょっとかんだだけで食べられるのが好評みたいですよ。俺今年はピンキーいってみようかな。
それから、ミニトマトは定番色以外の色物の時代がきてるなって思うよ。高級スーパーでは赤、黄色に加えて緑や黒系、ゼブラ系などをミックスして売っているところが増えたよね。サンカラフルコレクションだと5色は簡単に揃うよ。中でもグリーンは今までは甘くないのが多かったんだけど、夏でも甘みがのるグリーン系が出始めたのが注目だね。
【ナス編】個性派がたくさん! 食べ方も提案したい
次は、トマトと並ぶ人気の夏野菜、ナスです。テツ兄は普段何を植えているんですか?
ベーシックなものから珍しいものまででまんべんなく作ってるよ。去年植えていたのは、「千両二号」「SL紫水(しすい)」「白長茄子(しろながなす)」「揚げてトルコ」「ダンサー」「メランツァーネ・ルンガ」「メランツァーネ・ラテ」「メランツァーネ・ゼブラ」……まだまだつづく
テツ兄が栽培したナス。上段メランツァーネ(※イタリア語でナス)・ビステッカ、下段左からメランツァーネ・ラテ、メランツァーネ・ゼブラ、メランツァーネ・ルンガ
後半は全然わからない……。自分はずっと「筑陽」です。筑陽ってすごい優良品種なんです。実の形も安定するし、多収の代表格ですね。「千両二号」と並んで二大巨頭だと思います。この二つは家庭菜園の方でもまず始めるならここからってくらいおすすめですね。
つるちゃんが作った筑陽
地域性もあるよね。九州は長いのが好まれるので筑陽、関東は少し小さくて、ちょっとぽっちゃりした系統がいいので千両だね。最近推されている長ナスの新品種「PC筑陽」は単為結果性でヘタや茎葉にトゲがないところが注目点だよ。作業中にトゲがささると、結構イラッとするよね。
売り場で映えるような面白いナスの種類っていうのもたくさん出てきていますが、何か作ったことはありますか?
中国野菜ヘビナスの品種「マー坊」を作ったことがあるよ。これは加熱調理に向いている品種で、細いので収量をたくさん取ろうと思うと結構難しいかな。乾燥と過湿を繰り返すとナスが曲がってしまうことがあるね。名前の通り、麻婆(マーボー)茄子にすごく向いてたよ。見た目も変わっていて珍しいナスなので、直売所では売り方を工夫する必要があるね。
うちの直売所では「ふわとろ長なす」が最近ははやってるね。ものすごくやわらかくって、太い。長さが35センチぐらいで、太さが5センチもあるよ。見た目はデカ!って感じだけど、これがめちゃめちゃ柔らかいんだ。しかも皮も薄い。生で塩もみにしてもおいしいよ。
大長ナスは皮が硬くて生じゃ食べられないイメージがあるから、これは結構革命じゃないですか。大長ナスの革命ですよ!
あとは「白長茄子」。名前には白とあるけど、見た目は緑のような感じだね。直売所では「焼きナスで絶品」と書くと非常によく売れるよ。前にみんなで食べたけどおいしかったよね。
ノウカノタネのバーベキューで作った白長茄子の焼きナス。バーベキューのナスは輪切りではなく、丸焼きでトロトロを楽しむのがおすすめです
あとは僕が今栽培に取り組んでいるのは海外系のナスだね。 名前が「カレーなインド」「揚げてトルコ」とか(笑)。揚げてトルコは白ナスだけど、素揚げするとすごくとろとろしておいしい。丸型のイタリア系ナスはさっき話した「ビステッカ」。用途によっていろいろな種類があるので、料理に合わせて作るといいと思うよ。それぞれ特徴があって楽しめるビステッカ、ラテ、ゼブラ、ルンガ、あと揚げてトルコの5つは、今年も植えようと思ってるよ。
【ピーマン・パプリカ編】各社のカラー競争に注目!
ピーマンと言ったら「京波(きょうなみ)」「京みどり」など、“京シリーズ”が有名ですが、このシリーズはやっぱり実のつきがいいですね。ただ分岐が多すぎて、手入れをサボるとすぐ実が小さくなってしまうので、きちんと管理しないといけません。あとは、「こどもピーマン」で知られる「ピー太郎」は、辛さや苦さがないピーマン。トウガラシだと、万願寺とうがらし系の「甘とう美人」「福耳」「甘長ジャンボ」などもありますね。
僕がピーマン・パプリカで注目したいのは、種苗会社のカラー競争が激化している点かな。以前は海外から珍しい色になる種を取り寄せて栽培していたけれど、ここ数年で国内の種苗会社が続々とカラー品種を増やしてきているんだ。日本でも普及してうれしい半面、誰でも手軽に作れるようになったことでライバル農家も増えてしまったけどね。
僕もカラー系を作ってみたいんですよね。でも色が多すぎて……何色を作ろうか迷ってしまうなぁ。
色系のいいところは、完熟するとイエロー、オレンジ、レッドのどれかになるんだけど、それまでに、白、紫、オレンジ、など段階的に色が変わっていくことなんだ。だからいろんな色が欲しいからといって、全ての色を買わなくても大丈夫! 途中の段階から収穫すれば、複数の色をそろえて出荷することができて、袋詰めしたときの見た目もいいよ。それに変わっていくときの色合いがまたなんとも美しい……(うっとり)
色が変化していくパプリカ、スイートカメレオン・ロング
楽しそうですね(笑)。テツ兄のおすすめはありますか?
レッド、ゴールド、オレンジの「セニョリータシリーズ」は味がいいよ。平たい形をしているんだけど、この形は海外の種苗メーカーも常時ラインナップに入れている人気系統だね。大きさは一般に売られているパプリカの半分くらいのサイズだから、パプリカよりも数は多く取れるし。「フルーピーレッド」「フルーピーイエロー」「レッドホルン」もよかったよ。細長系のカラーピーマンでは、白→オレンジ→レッドと色変わりする「スイートカメレオン・ロング」、それに小さいサイズの「スイートカメレオン・ミニ」もあるよ。ミニは鈴なりになるので家庭菜園や自家消費用の栽培でもつくりやすいね。
へぇ~! カラーといっても形にいろいろな種類があるんですね。
色とりどりのパプリカやトマトは、手に取るお客さんだけでなく、栽培する側も楽しくなりそうですね。直売所出荷の農家であれば「味」も大きなキーワードになります。自分が出荷しているお店のお客さんの年齢層や購買傾向を的確につかむことができれば、品種決定の大きな助けとなるでしょう。また、自家消費の場合は育てやすさも重要です。安定、多収といったポイントから品種を選ぶのもいいですね。気になる他の品目については、後半の「キュウリ・レタス・ズッキーニ他編」に続きます。