〈令和2年新春対談〉農水省・末松広行事務次官×マイナビ農業・池本博則【前編】今年の農政はどうなる?

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〈令和2年新春対談〉農水省・末松広行事務次官×マイナビ農業・池本博則【前編】今年の農政はどうなる?

〈令和2年新春対談〉農水省・末松広行事務次官×マイナビ農業・池本博則【前編】今年の農政はどうなる?
最終更新日:2020年02月07日

農業はさまざまな政策の応援によって支えられています。では2020年の農政は何が焦点になるのでしょうか。農政の旗振り役である農林水産事務次官、末松広行(すえまつ・ひろゆき)さんとマイナビ農業活性事業部事業部長の池本博則(いけもと・ひろのり)が対談しました。

末松広行さんプロフィール

農林水産事務次官
東京大学法学部を卒業し、1983年に農林水産省に入省。大臣官房で食料安全保障課長や政策課長を歴任し、2015年に農村振興局長に就任。2016年には省庁間の交流人事で経済産業省産業技術環境局長に就いた。2018年7月から現職。

池本博則プロフィール

株式会社マイナビ 執行役員 農業活性事業部 事業部長
2003年に株式会社マイナビ入社。就職情報事業本部で国内外大手企業の採用活動の支援を担当。2016年12月執行役員就任。2017年8月より農業情報総合サイト「マイナビ農業」をスタートさせ本格的に農業事業を開始。日々、農業、地域の活性化に向けた取り組みを実現するため、土いじりから講演活動まで日本全国を奔走中!

生産基盤の立て直しに予算を投じる

池本:早速ですが、令和2年度の農政はどうなるのでしょうか。ポイントをお聞かせください。

末松:今、日本の農林水産業は大きな転換点にあります。日本の人口減少に加え、若者が他産業に就職し、就農人口もなかなか増えません。中山間地域など効率的に農業をやるのが難しい地域もあります。
一方で、スマート農業など新しい技術を取り入れ、人手不足や技術継承のサポートをする動きが加速しています。
令和2年度は新しい技術などを使って生産基盤をしっかりと立て直すことに重点を置き、予算を投じようと思っています。

輸出の推進も大きな柱です。日本の農林水産物は世界でとても評判がいい。日本の食は安全で安心、しかも高品質という評価を得ています。
大切だと思うのは、農林水産業が地域で行われ、地域社会や自然環境の持続可能性に関係しているという点です。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」は国際社会が実現すべきゴールを定めていますが、ではその実現のために農林水産業はどう貢献すればいいのでしょうか。
そのことをきちんと整理し、環境にも人にもやさしい農林水産業にしていくことが、2020年の大きなテーマになります。

GAP活用で前向きなビジネスを

池本:2020年は東京五輪・パラリンピックが開催される年です。大会の選手村などで提供する農産物は、食の安全・安心の基準である「GAP(農業生産工程管理)」の認証を取得することが条件になりました。認証の取得をどのように推進していきますか。

末松:GAPはこれからの農業生産で非常に重要な役割を果たします。ただGAPが求める管理基準にきちんと対応するには、一定の努力が要ります。農政にとってはそういう努力をしていただける環境を整えることが大事です。
GAPを無視して農業をやっていける時代ではありません。だから、GAPの重要性を農家の皆さんに意識してもらうことが必要です。これから新しく農業をやり、前向きに取り組んでいこうという人にとっては、GAPを活用することがビジネス上とても大きな支えになります。

池本:農家の皆さんとお会いしていると、GAPが求めるような就業ルールを整えることが大切だと感じます。これから食の安全・安心を客観的に示すためには、誰が、どこで、どのように作っているかも重要になってきます。
農家の皆さんはまず、国内外で何が求められていくのかを知って、日々の農作業に取り入れていくことから始めてほしいですね。

末松:しっかりやっている人もたくさんいますが、GAPが本当に大切だという意識をもっと大勢の皆さんに持っていただくことが必要です。五輪ではGAPが必須とされているので、それをクリアして食材を供給する。そのうえでGAPをさらに広める。五輪はいいステップになると思っています。
しかもGAPの重要性は農業者だけにわかってもらうだけでは足りません。流通関係者、さらに消費者まで含めたみんなに理解してもらうことが大事です。そうすればビジネスとしてプラスに働くようになります。

池本:五輪で終わりというわけではありませんね。我々もそのことを情報として発信していきたいと思っています。

収入保険の普及に努めたい

池本:コメや野菜、果樹、花などほとんどの品目をカバーし、収入の減少を補償する収入保険制度が2019年にスタートしました。19年は台風などの自然災害で大きな被害が出ましたが、どのように農業現場を支えたのでしょうか。

末松:災害が起こらないと、掛金を払っているだけなので、ありがたさが見えにくい面があります。そして実際、2018年、2019年と続いて大きな災害が起きました。
災害に遭われたこと自体は非常に気の毒ですが、収入保険に入っていれば一定の補償を受けることができます。そうした方々は、経営を再開しやすかったのではないかと思います。


収入保険が優れている点は、経営全体をカバーできることです。そこが作物を個別にカバーしていたこれまでの共済制度とは違います。事実、災害が起きた後に困ることは、農作物の収穫や出荷だけではありません。ハウスや倉庫など施設の復旧ができないことで経営を再開できないケースもあります。

まだ価値がよく分からないという人もいますが、意義をきちんと理解してもらい、普及を進めていきたいと思っています。
これまで農業は実際に災害が起こってしまってから、「気の毒だから何とかしなければならない」と思い、議論を始めるという傾向がありました。しかし、これからは「備える」ということが大切です。

収入保険は生産者と行政の双方にとってウインウインの仕組みです。国の支援があるので、農家は少ない負担で加入することができます。行政は作物を細かく見るのではなく、経営全体を見て制度を運用できます。お互いにとってとてもいい仕組みなので、ぜひ推進していきたいと思っています。

池本:私たちは農業がビジネスとして強くなってほしいという思いを抱いて、いろいろなことを手がけています。他産業の経営者がふつうにリスクヘッジ(危険回避)するように、農家も自らの経営のリスクをしっかり認識し、ヘッジすべきでしょう。収入保険はそのために役立つ制度ですね。

末松:昔はコメだけを作っている農家がほとんどでした。しかし、今はそういう時代ではありません。一つの農業法人がコメも野菜も作ったりしています。そうした経営の複合化にとって、経営全体が抱えるリスクに備えることができる収入保険は適した制度だと思っています。


◆編集後記◆
冒頭で今年の農政のポイントを伺うと「話しきれないくらいたくさんある」と仰っていた末松次官。今回はそのほんの一部をお話しいただきました。輸出の促進やGAP、収入保険制度と最新トピックスをテーマにしましたが、いずれも中長期的に日本の農業を支える施策であることを実感しました。全体を通して感じたのは、生産者が栽培だけではなく経営のことも意識し、より強くなってほしいという思いです。
後編では、大きな課題となっている担い手確保と定着について、行政、地域社会、農業法人のそれぞれの立場で求められる施策と可能性について語ります。

後編を読む
〈令和2年新春対談〉農水省・末松広行事務次官×マイナビ農業・池本博則【後編】行政と民間で取り組む担い手確保
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