熟練の技術力から若手のアイデア力へ
設立37年目を迎える日野洋蘭園。当初は台湾から胡蝶蘭の苗を仕入れて生育し、株を大きくして生産者に提供する卸業者だった。四季のある日本で、東南アジアやオーストラリア、台湾といった産地にも引けを取らないよう、栽培環境を自動制御できるハウスを完備した。仕入れた苗は約12か月間30度前後にキープし、花を咲かせるための株づくりをおこなった。熟練の従業員が一株一株丁寧に水をやり、大きく生育させる技術力が売りだった。
ところがある時、台湾から仕入れた苗から病気が発生してしまい、生育中の胡蝶蘭がほぼ出荷できない状況に陥った。病気にかかっていない部分を切り花として販売することで何とか経営の危機は逃れたものの、生育だけを担う経営にリスクを感じた。この出来事がきっかけで、市場や専門店への切り花販売に乗り出した。
現在は40品種以上の胡蝶蘭と65品種以上のブライダルグリーンを扱っている。流行と廃りが激しい花き業界では、従業員たちが常にアンテナを貼り、新商品の開発を試してみることが大切だという。「取引先から頂くリクエストは、その瞬間に欲しいもの。ですが、試験栽培から生産ベースに乗せるまでは時間がかかります。その間に流行が終わってしまったら、リクエストに応えた商品であっても買って頂けるわけではありません。だからこそ、自分たちで何を作りたいか、お客様を飽きさせないものは何かを探っています」(伏田さん)
昔は赤いバラの花束だけで喜ばれたが、技術が進み新品種が増えたことで、今はファッションのように人気の花や色が移り変わるという。「今はカフェオレのような雰囲気のあるニュアンスカラーが好まれています。また、グリーンを入れて欲しいという要望も増えましたね。グリーンといっても、ぺんぺん草など野草が人気です。昔はその辺に咲いている普通の草だったのに、今は驚くほど高額で取り引きされています。本当に流行って分からないですね」と伏田さんは笑う。
では、どのように流行をキャッチしているのだろうか。活躍しているのは平均年齢29歳の社員たちだ。日頃から親しんでいるSNSで流行をキャッチしたり、時間を見つけて花屋やネットから苗を買ってみては、「試しに1株だけ育ててみていいですか」と意見を言い合い、採用されたものは花屋や市場に協力してもらって試験栽培をする。こうした若手のアイデアや行動力が、現在の日野洋蘭園を支えているという。
減る婚礼、増える家族葬……次の一手とは
形を変えて独自の成長を遂げているが、今後はどのような展開を考えているのだろうか。
伏田さんに聞いてみると、意外なことに海外進出と露地栽培だという。
「花やグリーンの需要が多い婚礼の場が減っていることが一つです。規模も小さくなって、お花を添える場所が少なくなっているうえに、コストを抑えるために造花を選ぶ方もいらっしゃいます。反対に増えているのが家族葬です。お葬式の場でも胡蝶蘭が多く使われていたのですが、小さな祭壇で家族だけで行う方も増えてきて、ここでも需要が減っています。これからは日本市場にこだわらず、高品質な花を世界のお客様へ届けられたらと思っています。弊社だけでは難しいので、市場と協力して取り組んでいきたいです」。
露地栽培にも前向きだ。環境制御されたハウス設備をいかして他の花や作物に挑戦すると共に、3箇所ある農場の空いたスペースで露地栽培も考えているという。「全国40箇所以上の市場に出荷しています。この流通ルートも利用して、食用の生産にも取り組みたいです」
業態や環境に縛られず、強みをいかして変化を続ける日野洋蘭園。今後の成長に期待が膨らむ。
【取材協力】日野洋蘭園