有機農業の本質って何だろう? 岡FARM@福岡県糸島市
公開日:2020年05月19日
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ノウカノタネのパーソナリティー・つるちゃんによる福岡・糸島の新規就農オーガニックの旅は、今回が最終回となります。ここまでの2回、高倉農園さん、わかまつ農園さんを取材してきましたが、どちらも共通して取り入れている有機栽培の手段に「BLOF理論」をあげていました。
今回も、BLOF理論を専門的に学び、糸島の地でBLOF理論をオーガニック仲間に伝えている多品目栽培の新規就農者、岡FARMさんを訪ね、有機農業の本質と未来について聞いていきます。
糸島で取材先を当たっているとき、皆さん口を揃えて紹介してくれた「岡さん」。
最終回となる今回は、有機農業の本質を知るべく、岡FARM(ファーム)を営む岡健太郎(おか・けんたろう)さんに突撃インタビューします!
就農の経緯
岡さんって思ったよりかなり若いですね。私と同じ年齢(33歳)だそうですが、他の農家の人の話を聞いている限り、ベテランの農家さんを想像していたので驚きました。
そうですか?(笑)まだ農園をはじめて5年目の新規就農者ですよ。
開園するまでにも農業関係に携わってはいたんでしょうか? 就農の経緯など詳しく教えていただけますか?
そうですね。農業というか、モヤシ工場で働いていました。作業はすごく大変で、正直つらかったですね。でも嫌いにはなれなくて、そのあともWWOOFer(ウーファー)(※)として本州の方を巡っていたんですけど、やっぱり農作業ってつらいなぁと感じていました。こんなにつらいなら若者が離れていくのは当然だとは思ったんですけど、同時に、僕はこのつらい仕事を続けることができなくもないなと思ったんです。自分の役割としてこれをやって行こうと思いました。
※ オーガニック農園に労働力を提供する代わりに住居と食事を提供してもらうという世界的なオーガニックコミュニティー「WWOOF(ウーフ)」で、バックパッカーとして世界中の農園で労働力を提供している人たちを「WWOOFer」と呼ぶ。
WWOOFerだったんですね! 今その畑で作業しているあの人ももしかして……?
そうです。WWOOFerですね。
私の妻は台湾人で、もともと妻とはWWOOFer仲間として知り合いました。
へ~、国際結婚なんですか! でもなぜ福岡で就農を?
あ、妻の出身地の台湾と僕の出身地の北海道のちょうど中間地点が福岡だったからです(笑)
BLOF理論とは何か?
ここまで出会ってきた有機農家の皆さんが “BLOF理論”に基づいた考え方で栽培をしているという事実が分かってきたのですが、岡さんから見て、端的にBLOF理論ってなんですか?
僕なんかが「BLOFとは」と解説していいんでしょうか?(笑)
現場の農家が捉えている考え方を聞いてみたいですね。高倉農園さんではミネラル要素の補給について、わかまつ農園さんでは酢酸を与えることで光合成効率を上げる話を伺いました。
そうですね。それらももちろんBLOF理論ではありますけど、ある一面における部分的な話だと思います。BLOFはBio Logical Farmingの略で、生態系調和型農業、つまり特定の方法を指すものではなく、私の言葉でざっくり言うと「植物への理解を深める」みたいなことなのかなと思います。
はい。つまるところ、BLOFは持続可能な農業を実現するための考え方で、そのための手段として大きく分けて3つの方法があるんです。
そのうちの2つに今おっしゃった、土壌分析に基づいたミネラルの供給と、アミノ酸態窒素成分の供給があるんです。どちらも化学的な面に関する説明ではありますが、それがすなわちBLOF理論だよ、という訳ではないですね。
栽培に関することすべてにおいて関わってくる話なんでしょうか。
そうですね。BLOF理論の手段を大枠で捉えた場合の最後の1つに、中熟堆肥(たいひ)を使った太陽熱消毒という具体的な方法があります。
これは本来完熟が良いとされていた堆肥ではなく、3カ月ほどしか経っていない未熟な堆肥を散布して、土壌の生物性を一気に改善させる方法です。
完熟っていうのは、つまり分解が終わっているので、微生物はもうあまり働いていない状況ですよね。そうではなく、まさに今猛烈に微生物が増殖している最中の堆肥を畑に入れて、土壌中を特定の状況、つまり微生物の餌があり、温度や湿度が微生物にとって最適な環境、に保ってやることで畑の生物的なバランスと物理的な改善を一気に図ることができるんです。
そうか、完熟堆肥には腐植酸はたくさん入っていても、微生物活性が弱い状態なのか。
はい。ただし、その特定の環境をしっかり作れないと、逆に大変なことになります(笑)。なのでちょっとマネしてみよう、でやるのは危険かもしれないですね。
なるほど。BLOF理論のお話を聞いていると、それぞれの理屈は入ってくるのですが、個人的には、「だから無農薬で良い」という結論までの道筋がいまいちはっきり見えていません。
そうですね。特にBLOF理論は無農薬を結論にもっていくためだけの理論ではないと思います。
ただ、虫が植物に求めている成分は、人が求めている成分とは違うものですから、虫が求めている成分を増やさずに植物を育てる手段を模索しなければいけませんね。その手段の一つにBLOF理論があると思います。
“持続可能な農業”への一つの選択肢を体系化した理論なんですね。
有機農業の未来
これは全員に聞いていることなんですが、これからの有機農業はどうなっていくと思いますか? 今後も発展していくと思いますか?
間違いなく広がっていくと思います。今、この糸島でも多くの耕作放棄地が問題になっています。大きな農地は既存農家さんで取り合うことになりますが、大規模農家が絶対手を付けない山間地付近の土地はそれ以上にあふれています。新規就農者が小さな面積で稼いでいこうと思ったときに、有機栽培で付加価値をつけようと考えるのが自然なんじゃないかなとは感じています。
それは高倉農園さんもおっしゃっていましたね。今就農するにあたって、有機農業以外の方法は考えられなかったと。
では既存農家が有機栽培に切り替わるのではなくて、新規就農者が新しく有機農業に参画してくると考えていますか?
そうですね。それから私は消費者として、有機農業に感謝しているんです。
もともと蕁麻疹(じんましん)がひどくて、30歳までずっと薬を飲んでいないとだめなくらい重症だったんです。何が悪いのか分からなかったんですけど、ほんの数カ月間、自分が作った作物だけを食べる期間を設けたら、発症から16年間苦しんだ蕁麻疹が完全に治っちゃって(笑)
結局自分を形成してるものって普段食べているものなんだなぁって。
そうだったんですね。有機農業の世界に飛び込む人の中で、体調を壊した経験がある人が僕の知り合いでもとても多いです。わかまつ農園さんもそうでしたし、BLOF理論提唱者の小祝さんもそうだと聞いています。
食べるものについて考えるとき、農薬で生かした農産物って、本来淘汰(とうた)されるはずだったものじゃないですか。昔はずっと有機栽培だったはずだけど、この100年くらいは淘汰されるはずだった農産物が生き残り、それを我々は食べているんですよね。食べるものを変えただけで完治した経験のある私が、そのことに疑念を感じずにはいられませんよね。
今出ている新品種はどれも、農薬散布を前提に生き延びることができるよう改良された作物ばかりであることは疑いようのない事実ですね。
表面上の形を同じように作れても、中身は全然違うものになりつつあるんじゃないでしょうか。平時は問題ないですが、ある時何かしらの虫や病気が大量発生したとき、壊滅しかねないくらい、とても弱い状態に陥るように思います。
そういう生態系のバランスから隔離された作物を摂取している我々人間も、ある特定の菌やウイルスに対して極端に弱くなっている可能性があるのかも、とか考えると怖くなっちゃいますね。
取材後記
この度3軒の有機栽培農家さんを視察させていただきました。まさかここまでBLOF理論が有機農業の世界に浸透しているとは知りませんでした。筆者もこれを機会に学んでみることにします。
もはや世界的にも大きな市場を形成しつつあるオーガニックですが、日本においてはまだまだマイノリティーに過ぎないと言えるでしょう。
しかし、一つの理論が全国の有機農業を下支えして、明確な道筋を示している現状を見ることができました。
また、有機栽培を選択している農家は、慣行栽培の農家と比べると、時代の流れを感覚的に、敏感に感じ取っているようにも感じました。慣行栽培か有機栽培か、迷った挙句有機栽培を選択した人はおらず、当たり前であるかのように有機栽培を選んでいます。
彼らが見つめている先に何があるのか、今後も楽しみに見てみたいと思います。