有機でフルーツ栽培 加工と効率化で慣行農法以上の反収に わかまつ農園
公開日:2020年04月28日
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ノウカノタネのパーソナリティー・つるちゃんが、新規就農・有機栽培が盛んな福岡県糸島市へ赴き、その実態と有機農業の未来について現場取材してきました!
有機農業・オーガニックって、イメージだけで捉えられることが多いように思います。しかしその実態とは……? 意外な有機農業の現状について、また新規就農して数年経った彼らが有機農業の未来をどう見ているのか、リアルな現場からお届けします。
前回、小規模新規就農者が集まる人気の移住先として紹介した福岡県糸島市の山間部で、オーガニックの新規就農者としては珍しく果樹栽培をやっている「わかまつ農園」さんのところへ伺いました!
わかまつ農園は、おしゃれなホームページで、主に柑橘(かんきつ)やオリーブの加工品を製造して販売している有機栽培農家です。
わかまつ農園のホームページ
そうですね。元々は東京で飛行機の整備関係の仕事をしていました。仕事が終わると買い置きしたスーパーの期限切れの弁当を食べて、次の日はまた満員電車に揺られる生活でしたね。
当時の世の中で起きた象徴的な出来事が僕にとっては強く印象に残っていて。震災なんかもそうですけど、やっぱり航空会社にいたのでアメリカの世界貿易センタービルの件は衝撃だったんですね。ちょうどそのころ体調を崩して、できていた腫瘍は悪性ではなかったんですけど、そのタイミングで辞めようと決心し、2013年に就農しました。
確かに21世紀初頭に起こったいくつかの出来事はそれぞれの生き方を捉えなおすきっかけになりましたね。なぜ農業の道を選んだんですか?
まぁ都会にいた者のあるあるなんですが、自然に囲まれた居場所を求めていたのもあると思います。そして生き方にこだわっていくとどうしても食に行き着いて、農業を選んだのは自然な流れでした。まあ始めてみたら農業はそんなに甘いものじゃなかったんですけど(笑)
一件目(前回)の高倉さんもそうでしたが、新規就農の有機栽培農家の方は、時代を捉える感覚に敏感なのかもしれません。
山奥の畑からのスタート
柑橘としては平坦で足場が良く広い圃場(ほじょう)に甘夏がたわわに実っていました
うわ~甘夏たくさんなってますね! というか新規就農で果樹の、こんな優良農地が手に入るなんて、若松さん持ってますね!
いえいえ、ここは最近やっと借り入れられた農地で、後からお連れしますが、最初は山奥の、もう本当に耕作放棄地の末端みたいな場所でしたよ。
なるほど。しかし立派になっています。農薬を使っていないとは思えない品質ですね。
ここはまだ、つい最近まで慣行栽培がおこなわれていたので、まだまだ葉色も悪いしもう数年かかりますけど……。
葉色? ああ、確かに葉色良くはないですね。慣行栽培農家が見たらすぐに何らかの液肥など散布しそうな気がします。
ごめんなさい、僕の捉え方が古いんだと思うのですが、有機栽培していた方が葉色が濃くなるんですか?
四駆じゃないと通れないような山道をどんどん登っていった先に圃場があります
そうですそうです。新規就農で農地が借りられないと嘆く方もいますが、そんなの当たり前だと僕は思いますね。こういう山奥を切り開いて頑張ってるところを見てくれたので、先ほどのような優良農地が回ってきただけですよ。
茂みの中に甘夏があります
希望しかなかったですね(笑)、やってやるぞって。ここだけで60~70アールくらいあるので草は大変ですけど。
でも確かにここの甘夏の葉は先ほどよりも緑がかなり濃い。一見、窒素・マグネシウム成分が供給されている状態に見えます。こんな山奥なのに害虫被害もあまり見受けられませんね。
え、ボルドーもマシン油(有機栽培でも使える農薬)も?
酢酸ですね。BLOF(ブロフ)理論はご存じですか?
酢酸の化学式はC2H4O2ですから、植物がブドウ糖C6H12O6を一から生成しなくてよくなるんですね。既に途中まで出来上がった成分を与えるからフライングできるんですね。
余ったブドウ糖が植物体の細胞を強くする方に回るので病害虫にも強くなります。
出た病害虫を防除するんではなくて、植物自体を病害虫にやられないようにするということですね。そしてすでに出来ている炭水化物を先に与えるから、わざわざ化成肥料で無機態窒素(※)を与える必要もなく、ゆえに葉色も濃い。
※ 植物は吸収した無機態窒素と、光合成によって生み出したブドウ糖を利用してアミノ酸を合成し利用している。
そういうことです。こちらの葉はワックスかかって艶々しているでしょう? わざわざマシン油かける必要はないですね。
「工程を減らす」という意識
温州とかは有機栽培じゃ難しいんじゃないですかね。あとはオリーブと、ビワとかイチジクです。
そうです。僕は整備関係をしていましたから、安全性を担保しつつ利益を出すためには、工程をいかに削れるかという発想で動いていました。品目の選び方もそうですし、工数を減らすと利益率が上がるのはもちろん、農産物の加工などの付加価値をあげる作業にも充てられます。農園で働くミツバチのはちみつの収益も合わせると、畑にいる時間は慣行農家よりも少ないのに、反収は慣行以上を確保できています。
わかまつ農園はたくさんの加工商品を販売しています
確かに農業分野では品質を上げるために工程を増やすことは多いですが、削ろうという意識は少ないですね。工程を減らすことはそれだけで利益になるということをもっと考えた方がいいのかもしれません。
「効率化の末に、有機農業が広がる」
この連載では、実際の有機農業の現場にいる人が、今後の有機農業がどうなっていくと思うかを聞いているのですが、若松さんはどのように考えていますか?
そうですね……。外から運び込んだモノを使って作物を生み出すということはすごく非効率なことだと思うんです。効率化を進めていく上で、自然な流れとして有機栽培は更に拡大していくしかないんじゃないかと思います。
理論的に追求していくと当然の流れで有機農業に行き着くと。
そうなっちゃうと思います。まだまだ今すぐにではないでしょうけど。
ちなみに今の慣行農業も大切なものだと思いますよ! 資材の投入量を増やして生産量を拡大していくのは大切です。人間だって化学製品を使ってより豊かな人生にしていっています。ただ、非効率な部分が結構あって、そこを効率化していこうとすると有機的な発想にならざるを得なくなると考えています。
新規就農の有機農家を見ていくと、筆者が当初思っていた有機栽培・オーガニックのイメージとは違い、どうやら共通した認識として科学的な効率化の末にあるものとして有機農業を捉えていることが浮き彫りになってきました。
次回は、さらにもう一人の糸島有機栽培農家さんに焦点を当てて、ついに皆さんが口を揃えて言及しているBLOF理論についてさらに深く踏み込んでいこうと思います。お楽しみに!